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4.魔神

「魔神ってなんすか? 魔神って?」

「魔神つっか神だよ! 神様だよ!」

「魔族の神様ですか?」

「ちげーよ! この地に生けとし生ける者、生命を持つ者持たぬ者、全ての生与奪権を持ち、克つそれを実行できるだけの実力が備わった精神とか生命とかアストラルとかを越えた存在だよ! ちなみにちょっと本気出されただけで、この星の全地表を均一に五十メットル掘り返されなさるって話だ!」


 ガルが黒皇先生以外の者に敬語を使っている。

 てっきり魔王が出てくると思ってたんだが、まさか一段飛びに魔神が出てくる……顕現するとは……。


 つーかよ、魔神ってどうやって戦えば良いんだ?

 あいつ巨大だよ。すげープレッシャーだよ。


 関節技は同サイズでなきゃ通用しない。

 空に浮かぶ相手にナックルやキックは届かない。


 ヤバイな。

 プロレス技は人間を相手に開発発展していった。

 体格的には鳥足や気体を想定していない。

 ミル・マスカラスより高い空を飛ぶ者を撃墜する手段は持たない。


 空に浮かぶ魔神相手に通用しそうな技は、俺の七つのオリジナルフォール(残り五つは完成時期未定)の一つ、デオスパーダのみであろう!


 つっても残ってるのは爆発力に特化した一号弾のみ。しかも残弾数7!

 相手、超時空要塞的にバカでかいしな……。

 あそこまで届くかな?

 神様相手に物理攻撃って通用するのかな?


 ……いっちょ撃ってみるか?


 あのドクロに当たれば突破口を開けるかもしれない。


「おい、レム君! まさかてめぇ不遜な事、考えてんじゃねぇだろうな? 腐ってもドクロでも神様だ。物理法則や科学に基づいた攻撃手段じゃ届かねぇぜ!」

 俺の考えを見透かしたように、ガルが一言言ってきた。


 やっぱ通用しないか。

 なんか使える物や攻略法が無いかと辺りを見渡す。見渡して気づいた。人間達の多くが倒れている。


 魔神が発する……なんかいかがわしいオーラ?……に当てられたのだろう。大勢の人が気を失って倒れている。


 どっかで読んだことのあるシーン。あまりにも高度な存在は、その姿を見るだけで、レベルの低い者は気絶、または死に至るという。


 このシーンはそれに相当するのだろう。魔族、魔物と言われても反論できないような俺でもってしても、危険なレベルのプレッシャーを感じているのだから。



 黒雲が四方より、渦を巻いて集まってくる。ドクロの周囲の空を黒雲が補填していく。

 その黒雲をマントのようにたなびかせ、巨大なドクロが地上を睨め付けている。

 汚れて黄ばんだドクロ。その眼窩より覗く淡い光が瞳のように見えて、なんだか薄ら怖い。


「我は神なり。人間共よ、相変わらずウジ虫が如く這いつくばって生きておるか? 感心な事よのう」


 声……だろうか? 声なんだよな?

 風のような、雷のような、雨のような音に置き換えても、なんら不自然ではない不思議な声。


「お前が神であろうか。いや違う! お前は悪魔だ! 滅びよ、悪魔!」

 聖教会のエライさんらしき人が、勇ましくロザリオを掲げて声を張り上げていた。


 さっき、デニス嬢ちゃんをかばっていた人だ。

 でも、残念ながら、あんたのシュウキョーは偽物だ。あなたのホーリーウエポンは魔神に通らない。


「悪魔か……では我は魔神なり。ふむ、どちらでも問題は無い」


 巨大なドクロに見合う巨大な手が現れた。鈍い銀色に輝くトゲトゲがいっぱい付いた白い手袋で覆われている。骨なんだか肉着いてるのか、どっちか判らない。


 その手に何か……禍々しい装飾を施された長大な杖が握られて……いや、杖の先には物騒な大質量体が付いている。

 巨大すぎて、全てが正面視野に納まり切れていない。

 

 ……バトルハンマー?


「創世の大工道具。地脈を砕く槌、ファル・ブレィドー。それがあのトンカチの名前だ」

 ガル先輩の読心術が冴える。


「神がこの世を作りし際、泥の海に浮かんだ岩の塊を砕いて大地球に作り直した。その時使われたのがあのトンカチだ。まさか、魔族に伝わる創世神話設定が……宇宙物理学の立場が……」

 なにやらブツブツと呟いているが、俺は聞かなかったことにする。


 そうこうするうち――、

 トンカチの頭から、なにやら青白い湯気……妖気みたいなのが発生してますが?

 これは、逃げ損ねた?


「人間共よ、ちょっと滅んでみるか? なに、慈悲深き我が、すぐ二巡目の世界を用意しるから安心するが良い」

 魔神は、柄の先端で空気を軽く突いた。


 付いた先を延長すると、ちょうどこの広場……って、うおっ!


 ズシン!


 腹の底を揺さぶる衝撃。

 地面が波打つ。

 大広場の石畳が中央から同心円状に捲れ上がっていく。


 地震だ!


 広場を囲うテラスが吹き飛んだ。

 穴だらけになった大聖堂はもとより、周囲の建造物が崩れ落ちる。


「なんつー威力。おっと先輩、大丈夫ですか?」

「うむ、デニス嬢ちゃんとついでにジム君は無事だ」

 そこは抜け目の無いガル。ちゃっかりデニス嬢ちゃんとジム君を背に乗せて跳躍を終えている。


 魔神がバトルハンマーの石突きを振っただけでこの威力。

 風が収まらない。霰まで降り出した。

 シャレにならない。


「おい! やばいぞ! 広範囲にヤバイ!」

 どこからか声がする。上からだ。


 見上げると、黒い鳥が飛んでいた。

 あの鳥の声が聞こえてきたんだ。


 ……誰だったっけ?


「えーと、どちら様でしたか?」

 俺は、恐る恐る声をかけてみた。


「さっき名乗ったろ! ロック鳥のアーキ=オ=プリタリクだよ! 覚えておけ!」

 キーワードにより、記憶が呼び覚まされた。


「あれ? ガルーダのジョーて誰だっけ?」

「さっき名乗ったろ! ガルーダのジョーだよ! 覚えておけ!」


 英国紳士である俺は、ここで突っ込む様なことはしない。魔族の嗜み方を知っている大人だからね。おおらかな心で無事を言祝ごうではないか。


「ばっきゃろー! もう設定を忘れたやがったか! だから鳥頭は考えが浅ぇんだ!」

 嗜みを知らない狼もいるが、……まあいいでしょう!


 ジョーが右に左にと空を舞っている。

「町とその周辺に何本も竜巻が立っている。天変地異だぞ、天変地異! ファル・ブレィドーの全長は約2500メット。重量は……数百トソ。すまん! わからない!」


 上空からの報告が上がってきた。

 さっきから吹き付けている風が納まらない。

 

 魔神が身を乗り出した。

「そなた達人間は遊びが過ぎた。それが証拠に、高位の魔獣同士が戦う羽目となったではないか」


 いや、それはガル先輩の――

「それはつとめて、悪意のぶつかり合いが形となって現れた物。故に――」

「滅びてみるか? とは安い因縁付けだな! 魔神よ!」

 バライトが魔神の台詞を割って入ってきた。


「おい止せ――」

 俺の制止を聞かず、バライトは肩当てを跳ねとばした。

 下から覗くのは16発のデオスパーダ・黄金バージョン。


「私がサリアを守る」

 全弾一斉発射。正確には発砲遅延で、マシンガンのごとき連射でもって飛んでいく。

 全弾着弾! ……のはずが……。


 魔神はファル・ブレィドーを軽く一振り。ドハデな火花と破壊音を上げ、デオスパーダの群れがファル・ブレィドーに破壊されていく。


 ここで遅延発射が生きてきた。


 魔神はファル・ブレィドーを振り切っている。そこに死角ができた。

 後半で撃った三発が、ファル・ブレィドーをくぐり抜け、魔神の本体へと肉迫した。


 が!


 三発とも魔神の体をすり抜けていく。


 一発は黒雲。これは予想通り。

 残り二発はドクロ部分の額と眼孔に直撃――のはずがすり抜けた!


「無駄な足掻きとはこの事だ。バライトよ、身の程を知れ」

 俺はバライトを見る。さぞや悔しがっているだろう。


 彼は何も言わないでいる。


 バライトの体から、流失する光の粒子が大幅に増えていた。


 そうか……デオスパーダなら魔神へ届くのか。




 俺の残弾は、たったの二発。

 

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