1.大聖堂前広場の決闘
さて、いよいよ最終章です。
「レム君、そいつが聖教会の親玉にして悪の中枢、バライト教皇の成れの果てだ!」
ガルが巨大ロボの正体を教えてくれる。こいつが正真正銘、真のラスボスだ!
そうか、悪の教皇はオニキスを使って幻獣と合体したのか。
キュウヨウで遭遇した四本足モービーディック型幻獣と同じだな。
「強力な光を使って影を複製したんだろう。レム君の影が複製されたって事だな」
相変わらずガルの解説は懇切丁寧である。
いわゆる光学コピーである。
俺はゆっくりと構えの姿勢をとりながら、足場を確認していく。
「手前ぇが狼藉を働いてブっ潰された毒竜さんを助けるために幻獣になりやがった」
いや、それだと俺が悪者じゃん!
教皇かっこいいじゃん!
「既にご存じだと思うが、毒竜さんはオイラの同僚魔族だ。災害級と呼ばれてる魔族のトップクラスだ。無敵に強い毒竜さんをメチャクチャにしてしまうレム君も大概だがな!」
珍しくガルが褒めてくれている。俺も鼻が高い。
「ちなみに無茶苦茶にされて血まみれになって傷物にされた毒竜さんは未婚で女性だ」
「俺、めっちゃ悪者ですやん!」
褒められたらこれだ。ガルは普通に落とさない。必ず上へ上げてから落とす。落差が大きいほど受けるダメージも大きいって事を心得ているのだ。
恐るべし魔族の嗜み!
「何しに出てきたかわからん第三勢力の鳥さんは撃墜したもんで役にたたねぇ――」
幻獣ジンは、俺でも打ち落とせただろう。
墜落した鳥さんは無視してかまわない。
……ほんと何しに出てきたんだろうね?
「――それとこれは魔族の不文律なんだがね。魔族同士は本気で殺し合いしちゃいけねぇんだ。本気でやり合っちまうと魔王さんがでてくる。だからオイラは毒竜さんに手が出せねぇ」
魔王ってなに? なんで、さん付け?
これ何かの伏線? ガル設定?
「言い換えれば、オイラが相対してる限り、毒竜さんもオイラに手が出せねぇ。毒竜さんも魔王さん相手じゃ役者不足だ。わかるな?」
毒竜さんはオイラに任せろ。てめぇは教皇を倒せ。
そう言うことですな。
時間は日が昇って三時間かそこいら。
場所は聖教会本拠地、聖都ウーリスの大聖堂前広場。
俺の目の前に現れたそいつは、俺そっくりだった。
レフトハンド砲まで装備している。
デザインの盗用である。
相違点は、俺より頭一つ、二つ背が高いこと。
横幅もそれに釣り合う広さだということ。
全身が金ピカに光っていること。
現時点で判別できない点は――、
五行融合弾を持っているか?
エネルギー源は五行ロータリー式か否か?
背の高さ、体格のゴツさ、なによりカラーリングが金色なのが強そうでいけない。
さっきも変身の隙を狙って渾身のストレートを放ったが、難なく受け止められてしまった。
「なら、これでどうだ!」
肩当てを跳ね上がげ、デオスパーダを発射。
遅延発射により、一発ずつマシンガンのように飛び出していく。
一発目が右手で叩かれた。
二発目が左手で、三発目が右――。
「おっと!」
五発目で止めた。
おしまいかい? 金の巨神は、そんな仕草で俺を見ている。
デオスパーダの残りは二発。もったいない事をした。
このコピー、反応の早さとパワーも侮れない。
邪魔が入らないことだけが救い。さてどう攻めよう?
「君がリデェリアルの巨神かね?」
なかなかの美声。選挙カーに乗って演説してたら、思わず足を止めて聞き入りたくなる力を持っている。
「私が聖教会の教皇バライトだ。以後よしなに」
金色の巨大ロボが喋っている。
そうか、こいつバライトだったな。幻獣と化したので俺と会話ができるようになったのだ。
モービー・ディック型幻獣は人との神経接続に無理があった。だから苦しんでいたが、コイツは人型。神経系はすんなり接続できたのだろう……けれどもね!
「人として、その行為はどうかな?」
元に戻す方法が無い。そうモービー・ディックが泣きながら言っていた。
「人としてダメだろうな。聖職者としても悪名が立つだろう。人々は誹り、後世まで非難の声が続くだろう。だが、それでいい。甘んじて受けよう」
ふむ、確信犯か。理由はたぶん――。
「女か?」
「……よくわかったな」
男が道を踏み外す。それは大概女がらみだ。
誰だってそうだろう。俺だってそうしたい。むしろ憧れる!
「豊かな人生だったな」
「小娘と違って、君とは話が合いそうだな」
今更馴れ合われても面白くない。
「お前のようなゴミと長く付き合うつもりは毛頭無い。早く終わりにしよう」
もう一度だ。もう一度右ストレートを放つ。今度はナックルガード付きの痛いヤツ。
唸りを立ててバライトの顔面に吸い込まれていき……手で受けられた。
そして感じる力。
バライトの内するパワーが一気に上がる。拳を通してそれを感じ取れた。
……間違いなさそうだ。
バライトも五行ロータリー機関を持っている。
「感じるぞ。分かるぞ。すばらしい力だ! 世界が我が手に入ったようだ! ふむ、どうやら君より私の方が強いようだね」
……やっぱだめか。手を捕まえられる前に腕を引っ込める。フットワークを使ってレンジ外へ逃れた。
俺はいつもの構えを取った。右腕を下に、左腕を頭上に持っていく。……左手が下だったかな?
「フフフフ、体格の差かな? どれ」
バライトが無造作に腕を伸ばす。嫌な予感。
途中で速度が変化した。
腹に一物持つ俺は、一瞬の判断でスエーイバック。それをかわす。
「おや、当たったと思ったんだけどね」
バライトは立ち技系の格闘術を――左が飛んできた!
反応が遅れた。結構重いのが顎に当たる。
よろけつつ、さらに後方へと下がる。油断していた。
「今度は当たった」
バライトは喜んでいる。
俺の顎を狙って突き出した正拳がヒットしたことに喜んでいる。
ふむ。
これは、アレだ。経験の差だ。
巨大ロボになってからの時間差だな。
「さて――」
バライトが腕を胸元にまで上げる。
肩幅に開いた足を前後させる。
背中を丸めてバネを溜め、顎を引いて打撃に備える。
バライトの構えはボクシングに似ていた。
やたら大きくなった気がするが……それだけバライトが強いって事だな。
そろそろ来るかな?
「フッ」
バライトが笑ったような気がした。
そんな風に思ってたら、一気に詰め寄られていた。拳が届く距離を超えられている。
と、妙に冷静な俺がそれを見ている。
バライトが右を繰り出す。
それに俺が反応。
その反応をあざ笑うかのようにバライトの左腕が伸びた。
拳の芯が俺の顎を捕らえる。
めちゃ重い拳。衝撃が顎を突き抜け頭部から出て行った。
牙を模したフェイスガードにヒビが入る程の硬い拳。やつもアダマントか?
一瞬で拳を帰すバライト。俺の手から逃れられる距離まで下がる。
崩れた体勢を戻した俺。その隙をついて、バライトの左がまた顎に入る。
プルンと揺れる頭。
あー……関節は俺のと同じ構造だな。でないとこうは素早く動かせない。
そんな事を考えていたら、腹にズシンと来た。
視界の外から右のナックルがフック気味に鳩尾へ入っている。
腰の回ったボディブロー。俺はくの字になって俯かざるを得なかった。
その下を向いた顎に、左の拳が下から入った。
勢い、上を向く俺の頭部。視界がぶるんぶるん揺れて何が何だかよくわからなくなっている。
サンドバッグって言葉を思い出した。
力、体格、体重、殴り合いの技術。どれをとっても俺に勝ち目は無い。
こうやって頭が働いているだけが救いだと思う。
無防備に顎を突き出していると、バライトの左手が俺の喉を掴んだ。
バライトは、俺の顔をグイと引きつける。
待ち構えていたチャンス到来!
ヤツは俺、俺はヤツ。
俺ならここで右腕を……。
「フッ! 右腕を飛ばすと思ったろう?」
バライトの右腕は、飛ぶ事も回転する事も無かった。
「そんな隙だらけの大技は使っちゃいけない!」
思い切りスイングバックさせた右腕。バライト渾身の右ストレート。
アダマントの拳は、俺の左頬を打ち抜いた。
バライトは、俺の目を見たまま右腕を思い切りスイングバックさせた。
やはり立ち技はバライト絶対勝者。
零距離から渾身の右ストレートが放たれる。
狙い違わず、アダマントの拳は、俺の左頬を打ち抜いた。
後ろの下がろうと足を動かすが、交差してしまっていたので上手く動けない。倒れないようにするのが精一杯だった。
しかしまあ、これでやっと手の届く距離に……
「だが動けまい?」
バライトの言葉通り、俺は体の自由が効かなかった。
後ろに回ったバライトに、首を決められていたのだ。
ヘッドロックされたという状態。
「懐に入れば何とかなると――」
バライトはそこから言葉を失った。
たぶん彼は、上下の位置を把握できなくなっているのだろう。
破壊音を上げ、石畳にヒビが入る。
この技を喰らう最中、並びにフィニッシュ直後、被害者は上下の感覚を失うという。
「バックドロップは、ヘソで投げる。へぇーそー?」
決まった!
最終章は8話の予定です。




