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10.ドラゴンと屋内戦

 破片が舞う中、リデェリアルの巨神がドラゴンに組み付いていた。

 そして、そのままドラゴンと共に倒れ込む。



 レムは、ひょいと片手を伸ばし、親指を立てた。

 デニスに向かってだ。

 デニスは同じように親指を立てて返した。


 ――これはリデェリアル村の時と同じ合図――。


 デニスはこれで大丈夫だと思った。

 目を転じる。


 教皇の後を追いたかったが、団子になって暴れる毒竜スイートアリッサムとレムの向こう側にいる。

 階段に取りつくために、二体の魔獣を越えるのは危険だ。


「姉ちゃん、あそこから上がれる!」

 ジムが後ろの壁を指した。

 その階段は、二階部分の回廊へ繋がっている。遠回りになるが、バライト教皇に追いつくことができる。


「煙を吸わないように気をつけて! 走るわよジム!」

「そう来なくっちゃ!」


 ジムもデニスも慣れたもの。さすが魔獣と暮らす者。

 それぞれ袖や襟の部分を使って口に当て、なおかつ息を止めてガスが充満しつつある床面を横切った。

 階段に取りつけば一安心。ガスはここまで上がっていない。

 バライト教皇の位置を確認しつつ、階段を駆け上がった。


「階段まで走れば……だめだ、間に合わない!」

 ハウルは迫るガスに怯えていた。デニスとジムに見習って服で口と鼻を押さえているが、煙を吸わずにおれる自信が無い。

 閉じ込められた聖職者達も、おのが運命を悟り、震えていた。


 大聖堂は巨大な建造物。

 内部は二体の魔獣が取っ組み合いできる程、広い空間を有していた。


 スイートアリッサムを押さえ込んだリデェリアルの巨神。その肩を覆う装甲が跳ね上がった。

 中からいくつもの棘が姿を見せる。

 その一本が迫り出し、炎の尾を引いて飛び出した。

 向かった先は大聖堂の壁。


「うわっ!」

 棘がぶつかって爆発を起こした。大聖堂を振るわせる程の大きな音がした。


 ハウル達は一様に頭を抱え、目を反らした。

 瞼に感じる異質の明るさに、おそるおそる目を開ける。

 そこに見えたのは、外へ通じる大きな穴。


 ハウルは巨神を見た。

 巨神の目とハウルの目が合った。そんな気がした。

 巨神は指をさしている。その指の先は、五人くらい並んでくぐれる大穴が空いた壁だった。

 ガスが壁から逃げていく。そしてそこが、唯一外への脱出口となっていた。


「皆の衆、あそこから出られるぞ! 巨神が開けた穴から外へ急ぐのじゃ!」

 人々は列を成し、穴から脱出していく。


 穴をくぐろうとした聖職者の一人が、感極まって叫んだ。

「巨神が我らを助けてくれたぞー!」






 やあ、冬は出不精になるタイプのレム君だよ!


 でっかい壁をぶち抜いて、内部へと躍り出たら、黒いドラゴンが目の前で黒いガスを吐いていた。

 ドラゴンだぜ、ドラゴン! みんなの憧れドラゴンをこの目で見るとは……。

 こほん!

 すっごいヤバイ気がして、勢いのままドラゴンの長い首へ飛びついた。

 虚を突いたんだろう。ドラゴンを引き倒すことができた。


 一緒になって倒れ込んだけど……。

 おや、どこかで見た二人連れが?


 デニス嬢ちゃんと、ついでにジム君じゃないか!


 危うく下敷きにするとこだった。彼女らの救出を最優先課題としているのに、潰してしまったとあってはガルに殺される。

 実に危うい所だった。


 そんなこんなで、もう大丈夫だよ、とサムズアップしてみせた。

 嬢ちゃんも、アワアワしながらギクシャクとした動作で親指を上げていた。

 よしよし、もう大丈夫だ。早くお逃げ。


 デニスとジムが走り出す。

 走り出した先を目で追ってて気づいた。


 この建物の中には大勢の人がいる。逃げ口は聖騎士が段平剥き出しで封鎖している。

 体に悪そうなガスが建屋内に充満していた。なんの苦行か知らないけど、デニス嬢ちゃんがいない所でやってもらいたい。


「デオスパーダ、一号弾!」

 肩ミサイル1本発射!

 左右、各8基ずつ計16基のポットから、一号弾が飛び出した。これで残弾15発である。

 命中、爆発!

 高そうなフラスコ画? 壁画? が描かれた壁に大穴開けちまった。後で修理費請求来る前に逃げようと心に誓う。


 おっとぉ! ドラゴンが抜け出した。

 俺も素早く立ち上がる。


「クルルッツゥーッ!」

 ギザギザした歯の生えた大口を開けて、ドラゴンが吠える。

「あんた、邪魔しないでよね!」

 ……えーと、ドラゴンの咆吼が言葉として聞こえてきたんですけど?


 ついでに言うと、どこかで聞いた女性の声なんですけど?


「久しぶりね。わたしのこと覚えてる?」

 思い出した。幻覚攻撃を仕掛けてきた謎の美少女人形の声だ。

 あの時、毒竜と決めつけたのはあながち間違いでは無かったか。


「ああ、いつぞやは夢の中で世話になった!」

 縦長の瞳が金色に輝く。夢に出てきそうなほど怖い。いや、じっさい夢に出てきたけれども!


「ちなみに会話できる所を見ると、あんたも魔族かい? 名前は?」

「六大災害魔獣とか呼ばれている内の一人よ。……名前はサリア」

 魔族の女子か……。魔族系女子……。


 魔族なんだからお遊びで……ってワケじゃなさそうだな。あの目は。

 六大とか呼ばれている上にドラゴンである。俺の五行融合弾みたく核兵器並みの破壊力を秘めたブレスを吐くかもしれない。

 ラスボス確定だな……大変ヤバイ。


 俺はさらに問いかける。

「なんであんたは聖教会の肩を持つ? このカルト教団は、魔族にも悪影響を与えてるんじゃないのか?」 

「約束」

 なんだそりゃ?


 サリアの説明にはまだ続きがあった。

「エフィ……エフィシオスとの約束。ウーリスの理念を守る事」


 エフィシオス? ああ、ガルが言っていた聖教会創始者か。

「なんでまた何百年も前の過去の人の話が……サリア? サリアってまさか?」

 抜けていた単語のピースが突如連なった。

 そのような実感をまさか異世界で体得するとは思わなかった。

 ガルから聞いて知っている。

 サリア、それは聖教会創始者のカノジョの名前だ!

 なんてこったい! ドラゴン愛好家が創始者の正体だったとは! 


「わたしはエフィシオスの意志を継ぐ者。永遠の愛という理念の元、全世界は平和になる。あなたなら解るはず。わたしが守る愛を破壊するのは良い事か悪い事か?」


 故人の遺志を継ぐって?


 俺は違和を感じた。

 魔族の語る「愛」に違和感を覚えた。

 

 サリアが言う「愛」とは、「恋」の事ではなかろうか?

 彼女は二つを混同してないか?


「この世界、必ずどこかで戦争が起きている。殺し合いや強殺が起きている。でも、皆がお互いを愛しく思うようになれれば、殺し合いはずっと少なくなる」

 愛には二面性がある。

 サリアは綺麗な面しか経験が無いんだ。


「たしかに、愛があれば、争いごとは半分になるだろう」

 サリアが何か言う前に、俺は言葉を続けた。

「でも、この世から愛が消えてしまえば、殺人事件が七割減る。どっかの魔神みたいな作家が言っていた言葉だ」

 ……彼女いない歴=年齢の俺がこんな事言うのも何だけど。


 サリアは、何を言ってるのか解らないといった顔をしている。

 人を愛すればこそ、人は敵から守るための盾となる。

 人を愛すればこそ、人は敵を倒すための剣となる。

 彼女は死者が残した遺物を守るために命をかけている。

 それを死者の呪いと俺は呼ぶ。個人的に。


「何度も言うわ、邪魔しないで。お外の犬と一緒にここを引き上げて。そうすればお嬢ちゃんも生きながらえる。さもないと、魔神が降りてきてお嬢ちゃんを巻き込む事になるわよ」

「そりゃ無理だ。俺が聖教会を許さない。俺が聖都を灰燼に帰す係だ!」


 サリアにマップ兵器を使わせてはいけない。デニス嬢ちゃんを救い出す。……ジム君も救い出す。

 そして、聖教会をぶっつぶす。俺の目的はこの二点。


「聖都を潰されても聖教会は滅びない。信者が沢山いる。幾ばくかの期間を経て、再び聖教会は復活する!」

「復活できないって!」


 やはり魔獣は魔獣。

 ガルよろしく、人間世界にちょっかいをかけるだけで深みに入ろうとしない。

 人間の作り上げた複雑な仕組みを理解していない。


「聖都を無に帰す、ということは、聖教会の財産とかアレ的なモンが全部灰になるという事だぞ! 何のために俺はここまで急いだと思っている? お金や美術品を聖都から運び出させる時間を与えないためだ!」

 サリアは竜の顔でキョトンとしていた。


 ……かみ砕いて説明するとしよう。


「聖教会は財政破綻して自然消滅する!」

「……さ、させない!」


 理解したようだな。


 これで大量破壊兵器を封じた。……俺もしかりだが。


「ならばお互い接近戦しかないな!」

 俺は躊躇無く走った。

 サリアが羽ばたいて、宙に舞う。

 だが、俺の方が早かった。ヤツの胸骨めがけ、アイアンパンチを叩き込む。

 アダマント製だぜ!


 ガキン!


 鉄と鉄が打ち合う音。拳が弾かれた?

 なんつー堅い外皮、いや鱗だ!


 とはいうものの、多少のダメージは通った模様。

 サリアは首を曲げて、後ろの壁にぶつかった。


 この建物、やたら天井が高い。ドラゴン・サリアは羽持ち。上へ上がられると何かと面倒だ。

 ……対応方法は色々あるが、俺のファイティング・スタイルではない。

 よって、今のうちに少しでも無理をしたい。


 反動で下がりかけた足を踏ん張り、もう一回腰を回し、腕を振るう。足下の床に穴が開いた。

 今度はナックルガードを下ろしている。


 激突!

 反作用!


 サリアも、俺も同じ距離を後退した。

 なんてことだ、アダマントの拳が通じない!


 でも俺の心は折れない。

 二度目の踏ん張りを見せた俺の足。サリアが飛び去る前に、手の届く距離へと俺を運んだ。


 打撃が通用しなければ関節技に持ち込むまでだ。

 この世界に関節技があるとは思えない。対処法の解らない技ほど恐ろしいものはない!


 目の前にぶら下がっている足を掴んで引きずり降ろす。

 さあ、デストロイヤー直伝(注・ビデオによる)4の字固めに苦しみ、のたうち回るがよい!


 ドラゴン・サリアの太い右膝を持ちながら、俺の左膝を支えに半時計回りに回って……。


 鳥足だから勝手が違うーっ!


 腕だ腕! 腕なら関節の構造が人間と一緒だ!

 電撃の速度でサリアの腕を取る。

 股に挟んで腕ひしぎ逆十字!

 これはガッツリ入ったーっ!


 腕を破壊して……。

 サリアの顔が――、大きく開けた口が顔面に?

 あ、ドラゴンって首が長いから、人間に無い動きを……。


 サリアは火球を吐いた。

 顔面直撃、ゲボハゥ!

 こ、転がり脱出!


 ならば、ならば、狙いは首を含めた上半身!

 使う技は卍固め!

 フフフ、数ある関節技でもコイツは別物だぜ! 真の絞め技だ!


 するりと背後に回り込み、自分の右足を相手の左足に絡ませる。

 流れる動作で自分の左足を相手の首根っこに引っ掛け……。


 四枚の羽が邪魔で足が掛からないーっ!

 なんてことだ! ドラゴン相手に関節技(サブミツシヨン)は通用しない!


「あーっ! ウザい!」

 一言の元、サリアの羽が俺を打つ。


サリアドラゴンは炎を吹いた。

 この距離だ。かわす事も防御する事も叶わず、まともに胸で受けてしまった。

 俺の体が火に包まれた。


「あぎゃーっ!」

 熱っつい! アダマントを生成したイフリートモドキ幻獣の炎を越えるレベル。

 包まれた後に爆発が起こった。普通逆だろ?


 爆発は、この建屋の全ての窓とドアを吹き飛ばした。

 これで手加減してるってか?

 よくもまあ屋根が落ちなかったものだ。


 気がつくと俺は、膝をひび割れが走る床に付けていた。

 お、俺のプロレスが敗れた? 偉大なる先達の皆様、申し訳ありません!


 サリアは、ぎりぎり俺の手が届かないところでホバリングしている。

「あなた、この戦いの意味を知ってなお、戦っているの?」

 サリアが何か難しい事を問うてきた。


「知らねぇよ!」

 俺は肩当てを跳ね上げた。

 二号弾、二重構造徹甲弾を全弾発射した。


 俺ですら捕らえきれない速度で、最も鋭く、最も重い金属の矢が8つばかり飛び出す。

 内、3つがサリアを捕らえた。

 右胸、右脇腹、左太股に黒い矢が突き刺さっている。

 あの堅い鱗を貫通したのだ。

 これで残りは一号弾が7発。


「クルギャーッ!」 

 悲鳴を上げるサリア。飛行状態を維持できず、墜落した。

 見たか! 俺のプロレスを!


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