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6.イフリート

 俺はレベルアップした。


 だいたいレベ4だ。


 ジンを倒す事によって「風」の能力を手に入れた。

 ……はずである。


 試してみよう。


 雷よ……落ちろっ!


 ……。


 なにも起こらない。


 つーか、どうやって雷を起こすのかが判らない。

 だいたいからして雷を作る仕組みが判らない。

 俺の知ってる雷は、雲の中で発生した静電気が集まった物。

 ……くらいしか知らない。


 岩と土の身体の中でどーやって静電気を作るのか?

 俺の知ってる静電気作成法には猫と下敷きが必要だ。


 どこかに猫が落ちてないか? 落ちてないな。


 アプローチを変えよう。


 心臓部にしまい込んだ風の魔玉に意識を集中する。

 ぬーん!


 なんか光ってきた様な気がしないでもないぞ!

 今だ! 雷よ、落ちろっ!

 ……。


 視点を変えよう。


 雷が駄目なら風だ。

 俺は右腕を翼の様に振った。

 吹き荒れろ!

 テンペスト!

 ……。



 発想を転換してみよう。

 俺は何だ? そう、ゴーレムっぽい何か。元人間。

 新米風水師……それだっ!


 風水で風は何だ? 木気だ!


 木気とは成長・発育を表す。成長は変化であり変化は風を意味する。

 陽気が風となって木気と成す。


 そんな感じで、風は木気である。

 四大元素風に言い換えれば、風は木気に属する。


 で、木気の特徴として、使えそうなのは「変化」。


 こ、これだ!


 そして最も俺が必要とし、緊急の案件解決に期待されるのが変化の能力!


 使い方が判らないが、とりあえず風の魔玉に意識を集中。

 変化、変化と唱えてみる。


 なんでもやってみるものである。

 何となくできそうな気がしてきた。


 鏡代わりの水たまりに姿を映す。

 具体的なイメージを思い浮かべ、その部位に神経を集中させる。


 砂をバケツで整形したような俺の頭部。単純すぎる顔の造り。間抜けな丸い目。逃げ出したくなるデザインの口。


 ザワザワ、ゴキゴキ。


 そんな音を立てて、目的の部位が変化していく。


 頭部は、新たにフルフェイスヘルメット的な覆いで補強。

 このままではザクの蛸頭なのでヘルメット風にアレンジ。

 オフロードタイプの庇を伸ばす。


 まん丸い目を偽装するため、吊り目のマスクを降ろす。

 大問題の口(ω)を隠すべく、牙をモチーフにしたマスクがせり上がる。


 よしよし。

 これで隠せた。


 ……いや、ほら、みなさーん、マスクマン誕生の瞬間ですよー!


 ……、続いて体。


 凝った頭部に見合うよう、胸、腹、腰にメリハリを付ける。


 筒状の腕は、角張った箱形に変形。

 一部、変形しにくい場所がある。初心者が弄ってはいけない部分なんだろうか?

 仕方ないので形を整える方向で妥協。


 球体関節は譲れない。

 いや、動作のスムーズさを優先するために必要不可欠なんだよ。趣味優先じゃないんだからね!

 いいじゃないか、自分の体なんだから!


 ほーら見ろ。関節の可動効果が高くなった。

 あきらかに軽い。マグネッ……もとい、二割は効率よく動く様になった。


 そんなこんなで、洗練されたモビールアマー系を狙ったんだが、変形できない部分もあって無骨な超合金系になってしまった。


 美少女フィギュアしか作った事がない……もとい。

 ロボット系フィギュアなんて作ったことないから、こんな物だと無理に納得してみる。


 魔法少女系と女子ロボティクツ系は、国民男子全員が嗜んでいるから除外するとして……。


 続いて……。

 各部に穴とか開けてみる。


 いや、ちがくて!

 変態じゃなくて!


 風を出す穴、つまりあこがれのバーニアなんですよ!


 実験的に、肩に作ってみる。

 四角い二連の噴出口。


 ここから圧搾空気を出してやんよ!

 気合い一閃、フンガー!

 ブシュー……。


 ………………。


 こう……なんかこう……イメージに齟齬があるというか……、使い終わりのムースみたいな……。


 いや、いやいやいや! バーニアとスラスターは男のロマン! ……いまいち違いがわからんが。


 ()でよ、フルバーニアン!

 もはや慣れたもの。

 ボコボコと全身各所適正位置に二連、四連の穴……もとい、バーニアが開いていく。


 そして叫ぶ。俺フルバーニアン!


 ぷしぃー。


 やってみて判る事もある。

 出力不足なんだ。


 木気は借り物だから出力が足りない。

 木気に力を与えなきゃ姿勢制御できる程の勢いは得られない。


 水生木の理で水気が必要だ。

 どこかに水気の魔玉落ちてないかな?


 気を取り直して、前進しよう。

 俺は強くなった。

 ステータス・ウインドウ、オープン!


 俺は石筍の鉛筆サイズを拾い上げ、柔らかい鍾乳石に文字を書き出した。


・称号、IWGP(異世界グランプリ)王者。

・金属並みの堅さ。(ただし、モノホンの金属には劣る)

・筋力・五十万馬力(推定)より九十五万馬力(推定)へとアップ。アメリカ第七艦隊に匹敵する戦闘力(推定)

・素早さ・基礎+5(俺基準)

・獲得能力・ロケットパンチ(飛距離不明)、無限ミサイル(弾数・飛距離共に不明)、凶器ショートソード二本、恐怖の雄叫び(威圧効果無し)

・変形能力 無し(目指せテクザー)


こんな所である!

 これ以上は書くスペースが岩に無い!


 俺は石鉛筆を放り投げ、ある一点を見つめる。


 それは、坂の上にある壁。


 その一カ所だけ色が違っていた。

 まるで一枚のはめこみ扉。


 経験則からいって、あの壁の向こうに第五の部屋、もしくは外界があるはず。


 もし第五の部屋だったとしたら、敵対する何かが居るはず。

 正体は不明だが、風の精霊の天敵であるはずだ。

 陰陽五行説なら火気なんだが、四大元素説だとなんだろ?


 もし外界だったとしたら、人間が居る。……いるよね? 

 俺は人間と上手くやっていけるだろうか?


 発声器官を手に入れたといっても、グワーだのギャオーだの、単純な威嚇系の声しか出せない。挑発にこそなるが、平和にはほど遠い。

 悩むところである。


 ……結局、前に進むしかない。


 向こうがあるはずの壁に両手をつく。


 外界か、洞窟か?

覚悟を決める。

 後ろへ大きく右手を引き絞る。……未練たらしく覚悟の最終点検を行う。


 壁をぶち抜いた!




 結果から言うと、そこは外界ではなかった。


 狭いトンネルが緩い上り坂となって続いていた。

 俺が普通に歩ける幅と高さを持つトンネル。


 床は歩きにくいとも言えない程度のデコボコ具合。

 天井、壁、共に削られた様な、溶岩が通り抜けた様なうねり具合。


 計測した様に真っ直ぐ均一な角度で伸びていた。


 人工的とも自然発生的とも、どちらとも言えない。逆にどちらとも言える、そんなトンネルが緩やかに上部へと伸びていた。


 トンネルの出口とおぼしき場所には、光があった。

 坂を上り近づいていくと判る。その光はゆらゆらと揺れていた。

 だいたい想像が付く。


 出口を過ぎると、空間が広がっていた。


 ジンの洞窟とほぼ同じ作り。

 大小様々な鍾乳石が垂れ下がり、石筍が無秩序に伸びていた。


 違っているのは、鍾乳洞が平らである事。

 空間の中央に、炎による光源が存在している事。


 そいつは、じっと俺を見つめていた。

 値踏みするかの様に見つめて動かない。


 俺より一回りは大きな体躯。

 背中に列をなして生えたトゲは、まるで帆かけ竜。

 ガラスの様に透き通る身体の中、チロチロと踊っている赤い炎。

 透明なボディを持つトカゲがそこにいた。


 炎のトカゲ。


 腹と腰の部分で炎が揺れる。

 黄色い目が、俺を睨みつけている。

 全身を緊張で包み身構えている。明らかなる敵意。


 鰐の体躯を持つ火トカゲが、刺々しい思念を飛ばしてきた。

『ここへ逆のルートでやって来たという事は……ジンが消えたということだな』

 トカゲの透明な身体。その中いっぱいに炎が満ちた。


 俺は早々に説得を諦めた。

 誰だ? お前。

 思考を言葉にして火のトカゲに伝えた。


『なるほど、事故か』

 虚を突いた質問だったんだろう。火トカゲの中で踊る炎が一瞬だけ揺らいだ。


『それとも、必然か?』

 前にも増して、炎が激しくざわめきだす。

『だが、こうなっては致し方あるまい』

 小さな炎が、トカゲの舌の様に口から漏れた。


『我はイフリート』

 トカゲが名乗りを上げた。


『ベヒモスよ、戦いの始まりだ』


 ……どうやら、俺の名はベヒモスだったらしい。


お昼更新が定番化しつつある?


次回より戦闘シーン!

まけるなぼくらのべひもす!

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