10.キュウヨウ攻城戦-2・苦戦
「うおーぉっ!」
モービー・ディック級四つ足マッコウ鯨モドキに体当たりを敢行され中のリム君である!
全長二百メートルが垂直にぶつかってくるのだ。二百メートルパンチと呼んで過言ではない威力がある。
経験則から推定するに、リヴァイアサンを模した幻獣だろう。
でかい図体にかかわらず動きは素早い。
さすが水中特性Sクラス!
俺は背中から岩塊へぶつかっていく。幻獣鯨が押さえ込んでくる。そういったサンドイッチ状態!
埋まった状態で腕を振るう。腰の入ってないパンチが幻獣鯨の巨大な頭を殴る。
分厚いゴムを殴った暖簾に腕押し感覚。
ベコリと幻獣鯨の頭部が凹むが、それはほんの一部にすぎない。
幻獣鯨が距離をとった。腕パンチじゃ大したダメージを与えられない。
反対に、幻獣鯨は俺にもダメージを与えられないでいる。
そういった掛け合いが何度か繰り返されていたのだ。時間ばかりが過ぎていく。
ここじゃ両肩の対空ミサイルは通じない。水圧と抵抗で威力を削がれてしまう。
ロケットなパンチも、質量比でどうにもならない。反動を地面が受け止めてくれる通常パンチが一番なんだが、水中では姿勢が定まらないのでどうにもこうにもブルドッグである!
唯一届きそうなのが、憧れのライフリングを施したレフトハンド砲(仮名称)であるのだが……。
ええい、めんどくせえ!
ガシャリンコ!
俺はレフトハンド砲を構える。
装填した弾丸は「この上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾」だ。
コイツをぶちかまして……。
あ、だめだ。幻獣鯨はキュウヨウ側で泳いでいる。
この「この上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾」は指向性が強く、前面のみを吹き飛ばす特性がある。よって、「この上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾」をぶっ放すとキュウヨウごと、つまり囚われのデニス嬢まで消し去ってしまう事になる。
前回、イフリート幻獣との戦いで、コンデンサーでもバッテリーでもある「この上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾」に、エネルギーを注入しまくった。
現在の「この上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾」はフルチャージ状態。過去2回使用した「この上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾」に倍する威力を発揮するだろう。
この「この上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾」……。
……名前長ぇよ。どこの寿限無だよ。
こちらも位置を変えようと移動するのだが、どうあっても幻獣鯨は俺とキュウヨウの間に回り込んでくる。
ベースが人間だけに、位置取りが絶妙だ。俺のかんがえたひっさつわざを見事に封じ込んでくれている。
フルパワーで拳をぶち込めば、いかに巨体といえど仕留める自信はある。
だけど、幻獣鯨はしたたかで頭が良い。
幻獣鯨が突っ込んでくる。俺の腕が届く直前で、身を翻す。ご丁寧に太い尾びれで一漕ぎしていく。これがヤツのハメ技だ。
巨体が巻き起こす渦で、俺はバランスを崩され、不格好な体勢で足を踏ん張る。
そんな不自然な状態に持ち込んでから本気の体当たりをかましてくる。
腕の力だけで迎撃するものの、たいした損害を与える事ができない。
時間だけが過ぎていく。時間がたてば立つほどガルの負担が増える。幻獣鯨の目的は時間稼ぎだ。
ここが陸上だったら、こんなデカ物ごときに遅れは取らないんだが。せめて水位が足下程度だったら……。
で、閃いた。
腰の入っていないパンチを食らい、幻獣鯨はいつも通り距離を置くため、キュウヨウ方面へ泳いで距離を取る。
俺は急いで目標を狙撃するに適した位置へ移動する。
幻獣鯨は、そうはさせじと位置取りにつとめる。
邪魔されない様、さらに移動する。幻獣鯨もキュウヨウとの間に立つべく、高速でついてくる。
ガシャリンコ!
レフトハンド砲用意。「この上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾」装填!
『ググッ、神の左手か? どこへ撃つつもりだ? 撃てばデニス君が死ぬぞ!』
また神の左手か。なんだそりゃ?
まあいい。
この砲は指向性が強いという特性を持っている。着弾後、発射軸に対して約十五度の範囲でエネルギーが拡散する。
このまま幻獣鯨に打ち込めば、背にしたキュウヨウも吹き飛ぶ可能性が高い。よしんば、水中で威力が軽減されたとしても、キュウヨウの構造物に壊滅的な打撃を与えるだろう。
「んなーこたー知ってる! 発射ーっ!」
木気と火気を通常の三倍にまで増幅させた炸薬に点火。
目標とした部位に向け、細かい泡の尾を引きながらまっすぐ突き進む弾頭。
『どこを狙って――』
幻獣はそこまでしか声に出せなかった。
弾頭は目標に命中。
水中で大爆発を起こした。
1月1日1時更新に続いて、
1月11日の11時更新。
一度やってみたかった。
今は反省している。




