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9.キュウヨウ攻城戦-1・激突  

 ガルが飛ぶ。


 ウサギのようにピョンピョン跳ぶ。


 音速の半分、時々音速越をたたき出す脚力である。

 水平方向のみならず、垂直方向へもその価値は存分に発揮されている。


 ある程度行動が限定されたので、聖騎士達からの攻撃も数が当たるようになってきた。

 とはいうものの、ほとんどが毛皮で流され、要所要所で氷のブレスを使い、本格的なダメージは防いでいるのが賞賛ものであろう。


 だが、あまりにも狼らしくないその様に、ガルのプライドは本格的なダメージを喰らっていた。


「てめぇ、チクショウ! コノヤロウ!」

 ガルの足を封じた聖騎士の罠エリアより抜け出すため、あえて無様な手法を選んだ結果である。


「これが最後だ! ドェデッリャァー!」

 気合い一閃。過去数倍の飛距離を誇る大ジャンプを決行した。


 予想を外した聖騎士達の攻撃が空しく宙に舞う。

 伸身の二回転半ひねり抱え込み後方を成功させたガルは、ようやくのこと安全圏へと逃れることができた。


「てめぇ~、オイラの体力をナメるなよ! 猫じゃねぇんだぞ! そっちがその気ならこっちにだってそれ相応の対処ってモンがあらぁね!」

 ガルは罠の外周部に沿って走り出したのであった。

 





 山に近いからか、水は澄んで遠くまで視界が開けている。

 緑がかった光が頭上から降り注ぐ中、あの声が聞こえてきた。

『コロシテヤル』


 どこをどう見ても目の前のモービー・ディック級四つ足マッコウ鯨モドキから声が聞こえてくる模様。


「おい、さっきから喋ってんの、お前か?」

 俺は意思表示の意味を込めて、鯨に向けて指をさした。


『……オマエ、シャベレルノカ?』

 やはりコイツは知性を持っている。


「おまえも魔族だったら、争いごとはやめろよ。それとも何か人間に弱みでも握られたか?」

 ちょっとの間、無言のにらみ合いが続いた。白マッコウクジラが考えている模様。


『ワタシハ、マゾクデハナイ。ニンゲンダ』

 ……え? お仲間?


『クラチナ ノ、マホウツカイ、ワクラン、トイウ』

 違った。


 が、しかし。

「まさかと思うが……、俺たちに幻獣をぶつけてきた時にいた黒コートの魔法使いか?」

『ソウダ……ウウッ』

なんかずいぶん苦しそうだ。


『貴サマ、ソレほどノ、知能ガ、アるナら、ナゼ小娘に支配される!』

「支配されてないし!」

『エ?』

 ……あ、言っちゃった!


『支配されてないと?』


 不味い!


 支配されていない事はひた隠しに隠さなければならない。

 それが魔族の掟にして嗜みだとガル先輩からそれはもうしつこく言い聞かされていた。

 下手こくと俺が魔族に粛正されそうだ。


 ……よし、ここは一つ。


「支配されていない。正確にはな。だがお前ら人間から見れば同じように見えるだろう。だから支配されているのと結果は同じ」


『ウウッ……ど、どういう意味ダ』

「牛や馬や犬を支配、つまり躾ける事は可能だ。それは下位の魔獣もしかり。だが。俺たち知能を持った上位魔獣はそうはいかない。人間ごときに支配できる代物ではない」


 えーと、このあとどう続けよう? ……えーと、そうそう。


「心だよ心。蒼い狼が長兄、俺が次兄。デニスは妹でジムは弟。そんな感じだ。妹と弟がピンチなんだ。兄が助けてやらないでどうする? それとも人間にはそういう習性が無いのか?」

 この辺でどうだろう?


『……ある』

逡巡したな。


『そうか、デニスはやはり天才だったのだな』


 デニス嬢ちゃんが天才って、どれだけ聖教会は彼女を高く買ってるんだよ!

 ガルの思惑通りじゃないか!

 ガルの手のひら……肉球でもてあそばれてる感が甚だしいんだが!


『……巨神よ、聖教会へ来るつもりはないか? 聖教会へ帰依すれば、妹も助かるのだぞ』

「バカ言うな!」

 怒るぞ!


『我らクラチナは古い神を捨て、聖教会へ入信する事で生きながらえた。信心に勤めれば地位も上がる。生活も楽になる!』


 ワクランとやらは大きな勘違いをしている。


「クラチナは入信の打診があったのだろう? だから生き残れた。でもリデェリアルは違う。いきなり全滅だ。なんの前触れも無く住民全員が虐殺された。そんな事をする聖教会に正義は無い。何を言って取り繕うと、正義は無い!」

 フツフツと暗い怒りがこみ上げてくる。


『愚かな……グッ、聖教会に帰依すれば生き残る道もあろうに。……聖教会は巨大だ。君たちがいかに強くとも、いずれは押しつぶされる』


 宗教問答に興味があるが……ここいらでヤツの興味を違う方向へ向けたい。


「おまえ苦しそうだな。体調悪いのか? なんで人間が幻獣の姿をしてるんだ?」

『君が幻獣と呼ぶ魔物の核を成すオニキスを私は飲み込んだ。私の脳と幻獣の体が神経節で繋がっているのだ』

 またなんて無茶を!


「人間と幻獣じゃ体の組織や神経の構造や臓器の種類が違うだろ! そんな異種を無理に繋げりゃアレだよ、精神がおかしくなってしまうぞ! 気か狂うぞ!」

『……ずいぶん高度な知識を持っているな。人として、ちょっと悔しいぞ。ぐふぅ!』

 鯨の幻獣は身をよじって苦しんでいる。


『私の体は元には戻らない。君を倒しても遠からず私は死ぬだろう。倒せなければ君に殺される』

 後の無い怪人みたいだな! ……何かあるな。


『だから戦え!』

 鯨幻獣の目が禍々しい赤に光った。


「望むところ。魔族の秘密を知られた以上、お前を生かして帰すつもりはない!」

 えーと、俺、悪役?



次話「キュウヨウ攻城戦-2・苦戦」

レム君、アレを使うか!?

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