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1.暗い闇の胎動

新章スタートしました!

城塞都市キュウヨウ攻城編です!



「ガル先輩、これよりキュウヨウ要塞攻略作戦第一号を説明いたします」

「うむ、聞こう」

 完全復活したガルの態度がでかい。だがまあ、それが彼のキャラであるので良しとしよう。


「先輩の機動力と自分の破壊力を相乗的に生かす作戦。名付けて『キ1号合体作戦』です」

「なかなか良さそうだな」

 ガル先輩は好印象をもたれたようだ。


「先輩の上に自分が乗っかって進撃します。先輩の機動力に自分の破壊力が加わり、その戦闘力は二乗となります」

「てめぇの重さでオイラの速さが死んじまうだろがっ! 却下だ、却下だ!」

 ダメ出しを食らった。


「で、では、ここはあえて逆に自分がガル先輩をおぶって走る――」

「何でも逆にって冠を付ければ着想が良さげになるとする昨今の風潮がそもそもの問題だ。それのどこに戦術的利点があるのか理由が見つからない。却下する!」


「で、では、初心に帰って……」

「おう、初心な。初心はいいぜ。捜査に行き詰まったら現場百回って諺があるくらいだからな」

 行き詰まらなくても、単に現場百回だと記憶していたが、この世界じゃそういう風に言うのか。さすがガル先輩は物知りだ。勉強になった。


「双方の利点を生かすために――」

 俺たちの悪巧み……もとい、攻略作戦会議は、日暮れまで無駄に続いた。






「右が脆い! あそこから滅ぼしてしまえ!」

 鋼鉄聖少女(アイアンメイデン) デオナが銀の髪を揺らしながら指揮棒を振るう。


 切れ長の目。白い肌。貴族の粋を集めた様な美少女。

 ……背は低いが。


 十四歳の少女が軍を率いるなど異様な事なのだが、不思議と組織的にうまく回っている。

「第三隊と第四隊! 右翼にチャージ!」

 その雑多な命令を理路整然とした攻撃に変え、聖騎士達が組織だった突撃を繰り返す。


 どうやらそれが致命傷となった模様。敵軍はドミノ倒しの様に、順序よく崩れていった。

「この突撃がゼーダイン反乱軍の最後となるでしょうな。お疲れ様でした」

 髭面の参謀、ダフネが疲れた表情を顔に浮かべる。


「疲れてなどおらぬ! 蛮族共に聖教会の威光を知らしめる戦いはまだ終わっておらぬ! 首都と王族が落ちたというのにしぶとく食い下がりおって! ええい、腹の立つ!」

 デオナは、ナイフを彷彿とさせる鋭い目尻を差し引いても、絶世の美少女である。

 美しさを存分に振りまきながら、馬上で指揮を執っていた。


「どこもかしこもリデェリアルの巨神、リデェリアルの巨神! 一刻も早くバライト様のお顔を……もとい! 我らには聖都への帰還命令が下っておるというに!」

「ほーう!」

 自爆的失言にうなじを赤く染めるデオナ。それを暖かく見守る幕僚達の図であった。


「お、どうやらカタがついた模様ですな」

 ダフネが額に手を当て、前線の崩れ具合を観察している。

「よーし、後処理の一隊を残して全軍、聖都ウーリスへ行進せよ!」


「デオナ様――」

「わたしを名前で呼ぶなと何度言えば解るのか!?」

「指令、せめて一晩、ここに(とど)まることを進言いたします」

 ダフネは至極冷静に意見具申した。


「わたしは急いでいるのだ!」

「デオナ様、もうすぐ日が傾きます。夜間の行軍はすなわち徹夜!」

「それがどうした?」

「睡眠不足はお肌の敵。教皇猊下に対し奉り、お疲れになった顔をお見せしてご心配をおかけするより、健康的な顔をお見せする方が印象は良いかと」

 幼女の頃からの付き合いである。ダフネは、気が強くて美しきお姫様の取り扱いに長けていた。


「……仕方あるまい。翌朝、早くにゼーダインを出立する!」

「ここを抜ければ、聖都まで一直線でございます」

 うやうやしく頭を下げるダフネである。


「伝令!」

埃まみれに薄汚れた聖騎士が本陣に駆け込んできた。


「ここより西、カルモーンにおいて大規模な反乱が発生! ランバルト軍におかれまして救援要請が出ております!」

 ダフネは、嫌な形に口を歪めた。心底嫌がっているのだ。

 だが、騎士として窮地に立たされた味方を見捨てるわけにはいかない。

 騎士ならば考えるまでもなく行動を起こすべきだが、若いデオナは使命と人情に挟まれていた。


「デオナ様」

「わたしを名前で呼ぶな!」

「司令ならカルモーンの反乱なぞ一揉みにございます。カルモーンを落とせばこれで四つの反乱を鎮めたことにあります」

「数くらい数えられるわっ!」

 デオナは、形良い目を吊り上げ、ダフネに噛みついた。


「デオナ様がベルド卿の記録を上回る最短記録保持者となるのです。これならば、教皇猊下も喜びになりながら両手を広げてデオナ様をお迎えになられることでしょう」

 ゆっくりとデオナの表情が穏やかになっていく。


「ふふふふふ、カルモーンなぞ一息で滅ぼしてくれるわ! 全員、今宵は英気を養え! 次の戦いは熾烈なものとなるであろう!」

「おおっ!」

 幕僚、その他、近場にいた聖騎士達はみな暖かい眼差しで声を張り上げるのであった。






「ダレイオス様。ここは危険です」

 ゲペウ助祭がダレイオス司教の斜め後ろで跪く。


 ダレイオスは火の手が上がったクラチナの町を長い間見つめていたのだ。

 呼ばれたダレオスは、しばしの間を開け、従者のゲペウに視線を落とした。


「のう、ゲペウ。儂は破戒僧なのかのう?」

 主を見上げるゲペウの瞳に、枯れ木のようなったダレイオスの顔が映る。

「破戒僧でございますな」

「うむ、やはりそうか」

 ダレイオスは、森への小道を歩き出す。


「聖都や地方都市に巣くう黒服共は、私が生まれる前から破戒僧となっております。ダレイオス様が初めてではございませんのでご安心を」

 黒服とは、異教徒達の間で正教会の聖職者達の事をさす隠語である。

「うむ」

 特に考え深くもなく、ダレイオスは軽く頷いた。


 今はよい。蜂起の興奮に酔いしれているがよい。

 いずれ聖騎士の攻撃にさらされるその日まで。

 せめて長く酔っていられることを神に祈るだけ。


「その神も、どこにおわすのかのう? そもそも、神は……」

 これ以上考えていると、本物の破戒僧になってしまいそうで怖かった。

「キュウヨウに潜り込んだ仲間はうまくやっておるかのう?」

「訛りが強いのが難点ですが、攪乱任務には最適の男ですよ」

 ゲペウは後ろを気にしていた。


「わしが多くの血を流させておるのだな。このまま聖教会の元で暮らせば、血は流れまいに……」

「扇動活動をおやめになりますか?」


 またしばしの間が開いた。


「どう責任をとるかだな」

 ダレイオスの答えは、ゲペウの問いに答えていなかった。






「元々よぅ、キュウヨウは異教徒共の町だったんだ」

 ガル先輩が黄昏れていた。


「キュウ=ヨゥっつてな、魔獣山脈からはじき出されて町に憧れたバカ者……もとい、若者が作った町なんだよ」

「そうですか。じゃ、さっそく作戦に取りかかりましょうか」

 なんとなく……なんとなくガル先輩がその一件に関わっていそうで怖かったんで、俺はわざと話を変えた。


「ふふふ、漢ってのはよ、何度転んでも立ち上がっちまうバカな生き物が漢なんだよ」

 ガル先輩が自分の言葉に酔っていた。漢という言葉を一文に二度挟んで文法的にアレだったが、目がイッテるので逆らわない事にした。


「限定解除したオイラに、一匹の野獣と化したオイラに、命乞いは通じねぇ!」

 ガル先輩の全身から青白いオーラが湧き上がる。いやマジで、肉眼で見えるんですけど!

 女が絡むと戦闘力が二倍になるタイプだ。なんて心強い!


「この戦いの要は連携だ。忘れんじゃねーぜ!」

「了解っす!」

「黒皇先生の御調子はどうだ?」

「ちゃんと付いてきてくださるか心配です。それより先生をお連れする意味があるのでしょうか?」

「嬢ちゃんを助けた時に、着替えとかテントとかパンツとか生活備品がなけりゃ、嬢ちゃんはなんで生活しろってんだ。バカヤロー!」

「すんませんしたーっ!」


 俺たちは、漠然とした台無し感を胸に秘め、戦場へと向かうのであった。


なにをトチ狂ったか、年末に第5章投稿です。

ぶっちゃけ、なろう読んでる人、どれだけいるか……チャレンジャー?

次話、元旦午前一時投稿します。

1月1日1時っす!

記念以外の何物でもないっ!


では皆様、良いお年を!

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