16.オフェンス・火と風の幻獣
火と風の幻獣編は前・中・後編で構成されています。
素直に言い訳しておきますが、冗長です。
いずれ前後二話に縮小できればいいなと思っている次第です。
気がつけば、正面の小山の上に、いつかの魔法使いが鏡を背にして立っていた。
前と同じく地味なコートを羽織り、転移の鏡を背にして立っていた。
右手には赤い宝石。
太陽が魔術師の頭の上にある。
太陽を背にして立つという、戦場のセオリーは守っているようだ。もっとも、もうすぐお昼なので太陽高度は高いが。
俺たちも学習している。
ガルは突っかからない。ちゃんと学習している証拠だ。
俺は360度の視野を利用して、デニス嬢ちゃん達が身を隠せそうな場所を探す。
デニス嬢ちゃんもガルを押さえてる命令を出しているっぽい。
ここまでは完璧だ。
魔術師が赤い宝石を放り投げた。
同時にガルがダッシュした。
宝石が幻獣になる前に叩いて砕くつもりだ。
俺は、デニス嬢ちゃんとジム君、そして先生を森の中へと誘導する。
魔術師は、ガルのスピードを考慮しているのだろう。宝石はガルの前足が届かないギリギリの位置へ落ちた。
宝石が赤い光を放つ。
ガルが飛びかかる。
宝石が爆発した!
いや、何倍にも膨らんで……炎に変化して……。
「ガル先輩!」
ガルはまともに食らった。
炎の塊から黒い影が飛び出す。
ガルだ。
長距離を飛んだガルは、着地に失敗。転がって距離をあけた。
……転がったままガルは動かない。
真っ黒になったガルを見た時、俺はゼロフラットで頭に血を上らせた。
「やりやがったなコノヤロウ!」
俺の足元で地面が爆発した。
俺のダッシュに耐えられなかった地面がハデに土煙を上げたのだ。
時速でいくと百㎞は軽く越えただろう。
炎が形を取りきる前に、殴りかかった。
殴った感触はよくなかった。
風船を殴ったような、暖簾を殴ったような。
接触感はあるんだけど、手応えがない。
強風に向かって拳を振るうようなもの。
まさに炎。
面倒くさそう。
その面倒くささで俺の頭が冷静になった。
斜め後ろの視野でガルを見る。
ガルは片目を開けている。舌をだらんと垂らしてハッハッッハ細かい息をついていた。
生きてる。
常軌を逸した存在のガルのことだ。回復も早いだろう。
……そんな気がする。
安心した。
物陰から飛び出してきたデニス嬢ちゃんにも気づく余裕が生まれた。
デニス嬢ちゃん、というより、わきにいるジム君へ向かい、隠れているようにと手で合図する。
ジム君はデニス嬢ちゃんの手を引っ張って、木々の間へ隠れてくれた。
さすが男の子。女の子を命がけで守ってくれる。
そうこうするうちに、炎が姿形を取り終えた。
その姿は四つ足の獣。
狼にもライオンにも見える炎の獣。いずれにしろ肉食獣タイプ。
そいつが巨大化した。
でかい!
俺の何倍だ?
俺たちは初手を外した。
悪いことに戦力が半分になった。少数精鋭の弱点である。みんな! ここテストに出るからな!
バカな話は置いといて……。
いや、どうするね? どう攻略するね?
前回がベヒモスモドキだったから、今回はイフリートモドキだろう。
すると次はジンかリヴァイアサンか?
洞窟の中のイフリートは物質であった。
目の前のイフリートモドキは……炎って気体に分類されるんだったっけ?
つかみ所がないゴースト系相手に格闘系は不利だな。
こんなとき、物知りのガルが健在だったら、ベストなアドバイスをくれるんだが……。
無い物ねだりをしても仕方ない。敵の策が一枚上を行っていただけである。
おっと、大口を開けた。俺がすっぽり入るほどの大きさだ。
そっからから炎を吹き出したぞ!
さすが岩。熱いけど何ともないぜ!
せっかく炎の塊なんだから、口以外から火を噴いたってよかろうものに。
さて困った。
こちらの物理攻撃が通じない以上、イフリートモドキからの物理攻撃は無いと見た。
で、どうすると言われれても困る。
中心部にあると予想される赤い宝石をツブすしかない。
攻略方法は推測するしかない。
炎系で対戦相手は後にも先にも洞窟内のオリジナル・イフリートだけ。
同じ手で戦うしかないか。あれ、すごく辛気くさい消耗戦なんだよね。
腹を決めてモドキに接近する。
ごうごうと吹き出す炎を押しのけ払いつつ、口元へ手を伸ばす。
当然つかめない。
つかめてないけど、胸と胸を合わせる距離なのには違いない。
チラリと後方を振り返る。
デニス嬢ちゃんとジム君が顔だけ出して応援している。
先生はむっしゃむっしゃ草を食っていた。さすが大物であらせられる。……お昼だしな。
「よし!」
気を引き締めてモドキと相対する。
モドキが吐き出す火と熱のチカラは火気。俺は体の中で、その火気のチカラを土気へと渡す。
五行の流れはこうだ。
火気→ 土気→ 金気→ 水気→ 木気→ 火気。これで一巡。
火気によりチカラを与えられた土気は、エネルギーを金気へと渡す。
前はこの段階で金気のチカラを使い体組織を硬化……、つまり極限まで強化した。
これ以上石の体では強化できないところまで堅くなって勝負に勝った。
強化は行き着くところまでイッタので、次の気=水気へとエネルギーを回す。
力を増した水気が、モドキの火気攻撃を相克し、攻撃力を和らげていく。
よーし、いいぞ。このまま押さえ込んでエネルギー切れを狙おう。
ここには火気の元となるエネルギーはない。
どんどん水気にチカラを溜め込もう!
どんどん水気に……。
どんどん……。
……おや? 火気が絶えない?
おいおい。こっちは水気のエネルギーがオーバーロードしてるんだぞ。
だのに出力負けか?
このままじゃ水気が溢れて爆発してしまう!
仕方ない。
体内でのみの循環として余剰の水気を木気に流しこもう。
どんどん火気のエネルギーを取り込んで、水気を強化して、あぶれたのを木気に溜め込んでいく。
どんどん……。
おいおいおい、体表が白く光り出したよ。
水気のエネルギーより2桁上の火気を持ってるよ、このイフリートモドキ。
いやちょっと、久々に焦りだしたよ!
体表の岩が発光し出したって事は、溶け始める予兆だよね?
不味いんじゃない?
緊急事態だ。
体内に五つある五行の魔玉にエネルギーを送り、おのおのを肥大させる。
筋肉が増えて消費カロリーが増えるのと同じ理屈を取り込んでみる。
効率は良くなったが、根本的解決にはなりそうにない。
次の手として、エネルギーコンデンサーたる「この上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾」より水気としてチカラを取り出しモドキへとぶつける。
これでイフリートモドキへの対処は二ルート。俺本体による水気の出力と、備蓄よりの水気の出力の二つ。
ここで火気の吸収をカットしたかったが、それはできない。カットすれば火気の威力は三割増える。
対策が後手後手だ。
……うわぁ、辛気くさい。これは長丁場になりそうだ。
後2話で第4章お終いです。
第6章と短い第7章があって、このお話の幕が降りる予定です。たぶん。
あう、表題に一文字抜けがあった……orz




