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15.役者は揃った

 北の村のある酒場で……。

「リデェリアルの……」

「聖騎士十万人相手に戦って……」

「一泡吹かせて……」


 南の国の、とある市場で……。

「山を一つ消したって……」

「リデェリアルの巨人が……」

「いにしえの巨神、リデェリアルの巨神……」


 東の村の、とある聖教会で……

「リデェリアルの生き残りが徹底抗戦してるってよ。たった一人になっても、まだ戦ってるって!」

「年端もいかない女の子が、巨神を操って戦ってるって聞いたぜ」

「それに比べ、俺たちは大人なのに!」

「聖教会の騎士が来た! みんな静かに!」

 幾人かローブの男が姿を消したが、聖騎士が巡察に来た時は静かな聖教会に戻っていた。

 


「噂話が消えませんな、デオナ様」

 ひげ面の聖騎士がぼやきを入れた。


「わたしを名前で呼ぶな!」

 鋭いナイフを連想させる切れ長の目が、剣呑な光を帯びる。

「はっ、司令」


「徹底的に消しなさい。情報を意図的に流した者がいるはずです。その者を探し出すのです」

 先月、十四才になったばかり。少女の領域を生きる女騎士が眉を吊り上げていた。

 流れるような銀の髪。日の光に輝く銀の鎧。

 ……低い背丈。


 鋼鉄聖少女(アイアンメイデン) リリス・デオナ・ランバン・ランバルト。ランバルト公国第三王女である。


 デオナの命により、軽装備の戦士達が四方に走る。


「デオナ様!」

 伝令の騎士がやってきた。

「わたしを名前で呼ぶべからず! と全軍へ通達したはずだが、伝わっておらなかったのか?」

 機嫌を損ねるデオナ。細い眉を吊り上げた。


「失礼いたしました司令!」

 彼女は、教皇より東方面軍司令長官の地位を拝しているのだ。


「用件は何だ」

 髭面の聖騎士が、伝令に続きを促した。

「教皇猊下よりデオナ様への聖都出頭命令が出ております!」

「撤収っー! 直ちに聖都へ帰還する! 馬引けぇー!」

 舌の根も乾かぬうちに名前を口にされた事など気づきもせず、デオナは走り出した。


「バライト教皇の前では乙女ですな」

「お疲れ様です」


 やれやれ。

 ひげ面の騎士と伝令の騎士が顔を見合わせ、肩をすくめた。





 ベルドの執務室へ、案内を請わず鎧の大男が入ってきた。

「ムスカシュタイン公国聖騎士団長っ、テオドーロ・マナルト。ベルド将軍の召還に応じ、五万を引き連れ馳せ参じましたぁーっ」


 先祖の一人が馬と浮気したのではなかろうかと思われそうな馬面。

 鉄で出来ていそうな重量感溢れる体躯。全身鎧(フルプレート)が紙に見えてしまう身のこなし。


 部門の誉れ、ムスカシュタイン公国の伯爵にして、公国聖騎士団長テオドーロが、キュウヨウ執務室でベルドの前に跪く。


 嫌な予感に片頬を引きつらせるルーデンス。珍しい生き物を見つけた顔をしているマルティン。相変わらず観察する目のビトール。そして緊張しきった表情のワクラン。


 執務室にはベルド以外、この四人が居並んでいた。

 

「ご苦労だったな、テオドーロ。そう硬くならず、姿勢を楽にしてくれ」

 なぜか困った顔をしたベルドが、巨躯の男に声をかける。


「いえっ! どのような姿勢をとろうと大して代わりませぬのでこのままで」

 彼の筋肉量から見て、つま先立ちしていようが、胡座を組んで座っていようが、体力の消耗率にたいした差はなさそうだ。


「ベルド将軍に拾われたこの命っ! お呼びとあらば地の果てまでも参上仕りますっ!」

 テオドーロは姿勢を崩すつもりはないようだ。


「挨拶させてもらうぜテオドーロさんよ。俺っちはゴルバリオン商業連合の傭兵隊長でマルティンってケチな野郎だ。ベルドの旦那にゃあんたと同じく拾われた口さ。ちなみにこっちが先にキュウヨウへ着いたから、俺が先輩だな」

 さっそくマルティンの挑発が始まった。

 

 反応したテオドーロが勢いよく跳ね起きた。

 そして鬼の目でマルティンを見下ろす。

 高いはずの天井がテオドーロの頭にくっつきそうだ。


 マルティンは既に戦闘準備を整え終わり、テオドーロが手を出すのを今か今かと待っている。


 テオドーロが怒りに染まる前に、ルーデンスが間に入ろうとしたが遅かった。

 

「おお、マルティン先輩、よろしく御願いいたしまする!」

 テオドーロは風を切る音を立て、九十度のお辞儀をした。


 髪の毛を風に煽られたマルティンは、どうしてこうなったのか理解できずに、腰を引いていた。


「フッ」

 鼻で笑ったのはビトールである。

「キュウヨウ駐留のベルド軍十四万。マルティンの一万。そしてテオドーロ殿の五万。合わせて二十万の実戦部隊が揃ったわけだ」


 ルーデンスがにやりと笑う。

「リデェリアル村侵攻軍は一万もの頭数を揃えておきながら、大部隊を展開しにくい山岳地帯を決戦場に選んだ。

 我々だって、そんな足場の悪い戦場じゃ勝てない。

 だが、敵は待ってるだけで平野部へと出てきてくれる。

 三万の兵で包み込んでもみ消してくれる」


 太い腕を組んだベルドが話を引き継いだ。

「城塞都市キュウヨウと四つの支城を使った包囲波状攻撃で、魔獣達を疲労させて捕まえる事もできる。

 いかに天才魔獣使いといえど、敵の総大将たるお嬢さんは戦の素人。これで勝てないのがどうかしてる」


 ベルドは指揮棒を手でもてあそびながらビトールに向き直る。

「ビトール! 城塞の改修はもう終わったのだろう?」

「はい。本日で終了です。点検次第ですが、早ければ明日の昼から水を張れます」

 手を後ろに組んだまま、ビトールは即座に答えた。


「用意は調った」

 ベルドの目が、獰猛な光を帯びはじめる。

「だが、確実性を増すために、さらなる一手を打っておこう。教皇との誓約もある事だしな」

 

「へー、どんな作戦っすか?」

 マルティンが乗り気になったようだ。


 ベルドはそれすぐ答えず、歯を見せて笑った。

「ワクラン君、もう一度がんばってくれるかね?」

「……よろこんで」

 ベルドの考えを推し量れず、ワクランは答えを躊躇してしまった。

 

 

 

 

 

「ひゅんひゅんと!」

 俺は刀を取り出し、両手で振り回していた。


 すっかり忘れていた。

 あのとき(幻覚)、なんか凶器攻撃できないかなーと考えてたら思い出した。

 俺の体には凶器が内蔵されている。グフフフフ……。  


「危ねーからしまっとけって。お前が新兵器の開発練習しているとロクな事が起きねぇんだからよ! ほらぁ、デニス嬢ちゃんも怖がってるじゃねえか!」


 俺も剣を武器にする気はさらさらない。

 この剣は特別製だ。俺には解る。


 体には馴染む。

 だけど吸収できない。


 なんつーのかな? ほら、俺は人面岩下ダンジョンで、いろんな物を取り込んでいた。

 取り込んで、体を構成する部材に変えてきた。


 全身を金属に変える憧れはあるが、そこまで高望みはしちゃいない。俺の体は、今のままで十分オーバースペックだ。

 それは別として、この金属だけ体を構成する部品に使えなかった。


 形状変化の木気や水気のパワーが足りないのかなと、五行機関を全開運転してみたが、まったく形状に変化はなかった。


 パワー不足には思えないんだけどなー……。


 次に、剣の材質だ。

 錆びてない。


 嬢ちゃんやガルの話を総合するに、人面ダンジョンが形成されたのは、何十年どころの話じゃないらしい。

 何百年、何千年、いや、何億年の昔からあるやもしれぬ。

 だのに錆一つない。


 少なくとも鉄じゃない。たぶんステンレスでもない。

 金属は専門外だから目利きはできない。


 でもねー。これ結構重いんだよ。

 比重でいくと、俺を構成する岩石より重い。数値を出せと言われると辛いが、そこんトコはカンだ。


 そんな俺が言えるのは、人類の知らない金属であると断言すること。

 あれじゃない? ミスリル銀とか、……、……、オリハルコン? ……。


 デモンズペディアに載ってないかな?

 でもってガルが知ってたりしてね?

 

 ……。


 試しに聞いてみた

「アダマントだな」

 即答だった。


「固有エーテル振動幅と存在力場数からみて、間違いねぇ!」

 確証とれた。


「残念ながら、加工方法は不明だ。魔族の知恵といえど、そこまで至らなかったようだ。過去の文献でもアダマントを加工したのは神ともう一人なんかいう名前の魔族二体のみだ。その破壊と成形の難しさから、アダマントと呼ばれる一個の素粒子じゃね? ってな噂もある」

 ここまでくればガル・サイクロペディアだな。


「タネを明かすとだな、ずっと昔に見た事あるんだよ、魔王洞窟(ミユージアム)でな。そいつは盾の形して展示されていた。盾があるからにゃ剣タイプがあってもおかしくはあるめぇ? なんせ、過去に二つ加工された事だしな」

 その一方がこれか?


 武器として使うにゃ小さすぎるんだよね。

 投擲兵器と割り切るには高価すぎる。

 鋳つぶして別途使用するには加工方法が不明。

 つまり使えねぇ!


 それよりミュージアムって何? 

「この旅にカタついたら一度案内してやんよ」

 ガルが首筋を掻きながらめんどくさそうに言ってきた。



 そんなこんなで、俺はアダマント製の剣をしまいながら、なんか副次的使用法はないものかと意識だけはしておくのだった。


 

さて……。

 俺たちデニス戦隊DGLは、山岳地帯最後の山を越えようとしていた。


 ここを超えれば後は下り坂。

 一気に人間が支配する平野部へと進む事になる。

 そして城塞都市キュウヨウを望むわけだ。 


「この辺りなら聖騎士達の斥候部隊が出てきてもおかしくはねぇ。レム君も周囲に気をつけておけよ」

「こんなけデガイのが二匹もゴツゴツしてて、見つからないのがどうかしてますがね」

「ちげーねー!」

 傲慢な二人はガハハと笑いあっていた。


 その時、敵が現れた。

新しい微にゅ……美少女登場!

デニスの地位を脅……デニスピンチ!

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