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4.前門の虎、後門の狼-1

 リデェリアル村から旅立ったのは、日の出と共に。


 森の真ん中を抜ける道は、俺の体格では狭かったがどうにかなった。

 先日来の雨で森は湿っていた。そこここに水たまりができていた。

 さりとて歩きにくくはない。


 俺たちは、まるまる一日を掛けて森を抜けた。


 途中、お昼に一度だけ休憩した。


 先生は、むっしゃむっしゃと道草を食べておられる。

 デニス嬢とジム君も、仲良くお弁当を広げていた。

 ガルは、何かを感じ取ったのか、緊張感を滲ませつつ、森の奥へと入っていく。

 デニス嬢はそれに気づきつつも止めようとしない。


「雉撃ちですか? ガル先輩」

「バカヤロウ。エサだよエサ!」

 嫌な顔をして振り向くガル。


「エサって、ガル先輩、何を食べるんですか?」

「オイラはな、高等な魔獣なんだ。レム君に言っても仕方ないが、超がつくほどのエライ魔獣なんだ。いわば貴族? 魔族五部衆の一角? みたいなー? よって、タンパク質なんか摂取しなくても生きていけんだよ。嬢ちゃんが用意してくれたエサを食うのは貴族の嗜みに過ぎねぇ。だいたい、あれだよ、バンパイアなんかが血を吸ったって、人一人分も吸わねぇだろ? エネルギー換算してどんだけって話だよ」


 この狼、タンパク質知ってるよ! あと吸血鬼ってこの世界にいるの?


「じゃ、なんでエサ取りに行こうとしてるんスか?」

「エサ食わなくても生きていけるなんて嬢ちゃんに知れてみろぃ! 怖がられるだけだろうが! 嫌われてサヨナラなんか、オイラ絶対認めねぇ!」

 解りやすい弱点持ってるなー。


「だから、エサ取りに行ったフリして帰ってくるんだよ。レム君もあれだよ。なんかエネルギー摂取してるフリを考えた方が良いよ。じゃあな!」

 こうしてガルは、いそいそと森の奥へと消えていった。

 

 なるほど。雷は怖いねぇ。鳴れば鳴るほど……。

 どこかで大福餅がそんな事を言っていた気がする。

 

確かに、俺は飯を必要としない。体内に仕込んだ五つの宝玉が循環してエネルギーを放出している。

 俺はそれで体を動かしている。


 余剰エネルギーはコンデンサーみたいな石を作ってそこに溜め込んでいる。


 これは、いざという時に底力を引き出す為でもある。火事場のクソ力的なアレである。

 万が一の時には手榴弾的使用法も考えている。手榴弾の破壊力も、巨大ロボクラスである……自己申告であるが。

 俺、唯一の中~広範囲制圧兵器である。……あってほしい。……あるんじゃないかな?

 まあ、もうちょっと考えておこう。


 そうそう、エネルギーだエネルギー。俺も一つ考えるか。


 口がこんなだからよ(ω)食べ物の入り口としての用途は望めない。

 大量に草や葉っぱ食ってもそれはそれでイメージが違うし。口の周り血だらけにして死肉をむさぼり食っても、怖いだけだし。……俺自身が怖いし。


 口径摂取は諦めるとして……。


 やっぱ正義のロボは、よいこのえがお、か? みんなのきぼう、か?

 ここにそんな文化はなさそうなので却下。……恥ずかしいし。


 あとは……光合成か?


 無限に降り注ぐ太陽光線を吸収してエネルギーに変換する設定でいこうか?

 赤と青のカラーリングも毒々しい等身大ロボットが、光り輝く太陽電池駆動だったよな?


 クリーンエネルギー巨大ロボ・レム1号!

 それでいこう!


 俺は日の当たる一角を探し出し、そこで大の字になっって寝そべった。

 デニス嬢の視線が痛い。


 ……もう少し、こう……かっこいいポーズを考えた方がいいかもしんない。



 

 森を出たところで野営。


 簡単なテントというか、布製の軒というか……、岩と木を利用してただっ広い布を天幕として張っただけ。


 さすがファンタジー世界。こんな子供でも手並みがよい。

 火起こしから調理までのシークエンスを軽々とこなし、今日の営業は終了しました。

 デニス嬢ちゃんとジム君は、毛布にくるまって床についた。


「寝るべ寝るべ!」

 前足を枕に、ガルが寝そべった。

 食べなくても生きていけるが、寝ないと生きていけないらしい。


 先生も立ったまま動かない。早々に眠っているようだ。やはり肝が据わっておられる。

 で、俺はと言うと――別に寝ないでもイケル模様。


 寝なくても済むのだが、それだと何か損した気分になる。

 何とかならないかなー、と思ってたら何とかなった。

 完全に睡眠状態になるのではなく、意識レベルを低くすることで疑似睡眠状態になれるようだ。

 このボーっと感が、ちょっと気持ちいい。


 見張り立てなくていいのかなー、とも思ったが、巨大ゴーレムとフェンリル狼の組み合わせである。まして野生馬の王たる先生がおられるのだ。

 あえてこのグループに戦いを挑もうなどと考える生き物など、聖騎士以外おるまいて。

 そんなこんなで朝が来た。




 ―― 二日目のお昼過ぎ ――


 野生の魔獣をワンパンで潰したり、遭遇した魔獣を血の海に沈めたりしながら、俺たちは谷道を歩いていた。


 険しい山肌をVの字に抉り、川が流れている。川に沿って道が延びていた。俺が余裕で通れるほどの道幅だ。

 

 先日来の雨にもかかわらず、川の水は少ない。上流で土砂崩れかなんかがあって堰き止められているのかもしれない。

 だから道幅が広がっていたのだ。ラッキー!


 上流に向かっているから、そこの所はもうすぐ判明する。

 なんにしても道幅が広がっていて歩きやすい。土砂崩れ万歳である。


 思う所あって俺は、とある特訓に明け暮れていた。10分ほど前から。


 左腕全体を砲身とし、エネルギー・コンデンサーを砲弾にして打ち出そうというのだ。

 肘と手首の間の、関節じゃない所にあえて関節を増設し、そこを曲げて砲身と成す。

 件のコンデンサー第一号は、砲弾状に整形して体内に保存してある。


 左腕の砲だが……、ぴったりのネーミングが浮かばないので、(仮)レフトアームガンと名付けている。

 名称絶賛募集中である。


 川沿いの道を歩きながら、射撃訓練を開始したわけだが、けっこう山彦がうるさい。

 嬢ちゃんからのクレームも入ってきた。

 そろそろ潮時かもしれない。


 土から作った同形状の個体をダミー弾として練習している。最初からエネルギー・コンデンサーを打ち出すようなもったいない事はしない。

 で、川向こうの山の中腹で土砂が舞い上がり、土砂が崩れて谷底へ落ちる。少し遅れてボソッという音とズザザーという音が聞こえてくる。

 こないだの長雨で地盤が緩んでいるのだ。


「着弾位置が安定しねぇな。つーか、飛翔中の弾がフラフラ頭振ってるのが原因だな。それが風や空気の影響を受けて、予想通りの軌道を描けないでいるんだ」


 目のいいガルが、欠点を指摘してくれた。

 相変わらず謎の生物である。こいつホントに転生者じゃないのかよ?

 それとも、俺の予想以上に上級魔族の科学レベルは高いのか?


「砲弾と砲身にライフリングすれば幾分安定するんでしょうけど、あいにく、そこまでの細かい技術は持ち合わせていないんですよ」


「ライフリングって何でぇ?」

「螺旋です」

「……なるほど、わざと回転させて安定させる……か!」

 ほぉら。このように頭の回転が速い。ライフリングだけに。


「おいおい、なんだそのうまく言えた感オーラは?」

 おまけに勘が鋭い。


「螺旋切るなら砲身だけでよかねぇか? それもできねぇようなら射程距離を縮めてみりゃどうだ? 長距離砲はあきらめて、中距離砲と割り切るんだ」

 それもそうだ。

 どのみち、素材が岩だとライフルは刻めない。

 堅さもさることながら、石は金属のような粘りがない。

 端っこが欠けて目詰まりの後暴発なんてシャレにならん。


 俺の体は岩である。金属じゃないんだから、細かい工作はあきらめよう。


 次弾装填。半分の距離にある岩を狙う。

 仰角合わせ。発射。

 緩いアーチを描いて飛んでいく石砲弾。

 着弾。命中!

 岩と土砂が崩れて谷底へと落ちていく。遅れてズザー音が聞こえてきた。


 かなり脆くなってる。

 あまり打ち込むと大規模な土砂崩れが起きて谷が埋まってしまうかもしれない。

 

 それはさておき、

 今度は、合格点を出せる結果だった。

 ざっと百メートルか……。

 強化したとはいえ、これ以上の爆発力を込めると石である腕が壊れそうだ。

 なにせ、石の砲身でちょっとした砲艦なみの弾丸を撃つんだからな。


「うまくいったじゃねぇか!」

 ガルが命中を喜んでくれる。

「どうした? 浮かねぇ顔だな?」

 この石造りの顔で、よく表情が解りますね。


「距離が短すぎるんです。実際の弾は爆発しますんで、この距離だと破片が飛んでくる危険性があります。デニス嬢が俺の近くにいるときは、危なくて使えませんね」

「よく言った!」

 俺の一言に、ガルが感心してくれた。


「戦いの最中、嬢ちゃんの心配ができるようになったら一人前だ。もうオイラにゃ教える事は何もねぇ。よくぞここまで成長してくれた!」

 この狼、デニス嬢の事になると人が……もとい、狼が変わる。


「安心しな。そんときゃオイラが体を張って盾になるか、背中に乗せて逃げるかなんかするぜ。声を出し合おう。報告連絡相談だ!」

 魔族の間でもホウレンソウは使われているらしい。


 ……ここ、ほんとにファンタジー世界か?



 当面の問題も片付いた。

 一発発射するたびデニス嬢がうるさい。ここいらが潮時だろう。


 なんせ、今通り過ぎつつある隘路部分上部に、埋まっていたであろう巨石が顔を覗かせているのだ。


 何百トンだ? 何千トンか? タンカーくらい大きいんじゃないの? 

 文字通り青い岩肌が、長年空気に触れていない事を証明している。


 先日来の豪雨が、川を増水させ巨石を覆っていた土を流して露呈したのだ。

 このまま射撃訓練をしていたら、震動で崩れ落ちるかもしれない。


 ……これ、テンプレだと頭上に落っこちるよね?


 人間組とガルは、足早に通過する。

 俺も忍び足で通過する。


 いや、落下しても俺は大丈夫だ。ワンパンで粉砕する自信がある。

 だが、破片まではかまってられない。デニス嬢ちゃんが怪我をすると、俺がガル先輩に殺される。


 それは置いといて……。

 幸いにして、落石イベントは起きなかった。俺たちは無事通過したのだ。



 さっきの話の続きだが、ライフリングに関して、もう少し研究してみようと思う。

 俺の持つ技は中~接近戦用のみだから、中~長距離兵器が欲しいのだ。

 今度はガルにも意見を聞こう。

 

 そんなこんなで川沿いの道も、急角度で登りになろうとしていた。谷底を歩く平坦なコースも終了である。

 そんな事を考えていた時だった。


「な、なんだ?」

 俺は辺りを見渡した。

 地響きが起こる。破砕音が聞こえる。


「地震か?」

 東北地方太平洋沖地震を関東で経験した俺が真っ先に思いついたのは、地震だった。

 俺の精神を叩きのめした大地震だ。未だにトラウマが残っている。

 思考が吹っ飛び、俺は動く事もなくただ突っ立っていた。


「地震じゃねぇ! 後ろだ!」

 振り向くと、そこは大スペクタクル3D映像が展開されていた。


 たった今、通りすぎてきた大岩が崩落したのだ。

 完全なる通行止め。チョロチョロ流れていた川の水も堰き止められた。いずれここは天然のダムとなろう。


 これはダメだわ。


 ガルの足をもってしても、ここは登れまい。俺のパワーで粉砕しても、瓦礫が山となるだけで、事態は好転しない。

 帰りがあるとすれば。別ルートを通らなきゃならないだろう。


「あ、危ねぇ~」

 条件反射で足腰のバネをため込んでいたガルが、筋肉を弛緩させた。

 俺に至ってはパニック状態。デニス嬢もジム君もしかり。

 悠然と構えていられたのは黒皇先生のみだった。さすがだぜ先生!

 

 いまだ細かい落石が続く中、俺たちは幸運に感謝していた。どこかの神様に感謝していたのかもしれない。ベランメェ神だけは絶対にない。


「なにはともあれ、この場を早く離れようぜ。この調子じゃ、いつ次の落石が起こるかわからねぇからよ!」

 珍しく及び腰のガルである。


 頭上で顔を出してる岩の群れがすごいプレッシャーだ。

 俺の方も、地震系は大の苦手である。その提案に異存はない。


 ないのだが、ちょっと気になることが……。


 気のせいかもしれないが、崩落現場の上方で、聖騎士っぽいマントが翻るのを見たような気がする。


「急げコラァ!」

 ガルがせき立てるので、詳しく調べることなく早足で移動しようと前を向いた。


 またもやその時。

 進むべき方角で、土砂崩れの重低音が!


「おいおい、ちょいとヤバイじゃねえかこいつはよぉ!」

 ガルがいきなりやる気を無くした。

 俺もどうしたらいいか判断に迷った。


 目の前の山に、土石流……山津波? が発生。


 山の上からこの谷に向かって、いっぱいいっぱいに広がって降りてくる。

 総体積は山一個分。


 ……みたいな気がする! 



調子が出てきた気がする!


気がするだけ?


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