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2.ゴーレム・ファイト!

転生神語ってペルソナシリーズにあったんだ……知らなかった。

 突き出した頭。その水平になった俺の後頭部に、なにか堅い物がかなりの速度で落ちた。

 なんだ? と思う間もなく、壁を砕きながら地べたの岩盤に顔面を強打。


 それでも痛くなかった。


 衝撃の凄まじさや、破壊力が持つ凄さは感じ取ったが、痛みは無い。

 相変わらず鎧の外板をオタマで叩かれたっぽい感覚。


 脳震盪は起こらない。

 これは俺の内部に柔らかい物が無い証拠。

 そこまで冷静に考えられたのは、頑丈な身体のおかげである。


 とにもかくにも、状況を把握しようと身体を起こそうとして気づいた。

 俺は、気を付けの状態でうつむけに倒れている。腕が壁に挟まれて自由が利かない。


 いかにして立ち上がろうかと思案していたが、その必要は無くなった。

 誰かが、俺の頭を持ち上げてくれているのだ。


 ……。

 ってことは誰かが居る?


 頭が上昇しつつ……、ちょっと荒っぽくないか?

 いやいや、これは後方へ投げ飛ばされる勢い。事実、投げ飛ばされたっ!


 天地が逆さまになり、背中から墜落。

 自重のため、相当の衝撃だが、ダメージは皆無。


 敵か?

 ここはファンタジー世界なんだ。

 モンスターの一匹や二匹、居てもおかしくない。現に俺がその栄えある一匹目だ。


 俺は勢いよく体を捻り、四肢を使って跳ね起きた。

 目の前には……ゴーレムっ!


 ○A○

 こんな顔をしたゴーレムだ!

 だとすると……。


 俺の顔はどうなっているんだ!


 ……いや、いまもっとも重要な案件はそんな事ではない。


 野郎の目に相当する二つの丸に鈍い光りが灯っている。

 汚れた黄色。知性の欠片も感じられぬ目の輝き。

 俺の目はゼータが如き綺麗な緑に輝いていると思いたい。赤でも可!


 俺と同じ身長。

 ただし、三角形体型の俺と対照的に、逆三角形体型のマッチョスタイル。

 相変わらずデゼニータイプなもんで、憧れはない。

 ただ、俺の体型が十点なら、ヤツは三十点。俺より上だが、赤点だから羨ましくなんかないんだからね!


 ……ツンデレっても状況は変わりない。


 マッチョゴーレムが、両手を突き出しながら俺に向かって突進してくる。

 よろしい。


 部屋の壁を壊したのは俺だから、悪いのはこちらだけど、いきなりの暴力はなかろ?

 俺も頭に来ていた。


 迎え撃った俺は、ヤツの両手をがっしりと受け止めた。

 指と指を組み、単純な力合戦を挑む。


 この俺様のパワーを見せつけてくれん!

 しゃかりきに力を込める。

 だが、押される!


 な、なにぃ! この俺がパワー負けだとぉ?


 ヤバイ! コノヤロウはパワーに特化したタイプ。

 や、ちょ、ちょっと待って! こいつ、俺を本気で殺す気か?


 このままではやられる。脱出だ!

 幸い、二者間の胸は離れている。

 ヤツより長い足を繰り出し、右の腕を蹴り上げる。


 片手が離れた。

 

 左手に右手を添えてヤツの右腕を捻る。いかにパワァアファイタァといえど、簡単に腕を取れた。


 そのまま、腕を背中に回してねじり上げる。逆関節を取れた!


 ヤツの背中が見える。これで勝ったも同然! 全身の力で野郎の腕一本に負荷をかけた。

 ミシリとヒビが入る音。続いてボキリと音がして、野郎の腕が千切れた。


 おっとっとぉ!


 勢い余った俺は、後ろに向けてステップを踏んでいた。


 足より後ろへの勢いが勝っている。バランスを崩して仰向けに倒れ……倒れなーい!

 手を引っ張られた。


 正確には手にした野郎の腕に、前向きのベクトルが発生した。

 後方転倒の危機を脱し、なおかつ前方へ引っ張られるまでの強ベクトルだ。


 まるで強磁力のS極がN極を求めているかの様。


 思わず野郎の腕を手放した。千切れた腕は空を飛んで野郎の切断面にぶつかった。

 野郎は確かめる様に手を握ったり開いたりしている。


 その時、俺は理解した。


 左腕を掲げてみる。俺はその部位にある事を求めた。


 肘から先が、ドリルの様に回転した。


 ――なるほど、解った。


 ゴーレムに命は無い。筋肉で動く訳でもなく、骨で支えている訳でもない。

 身体全体が一であり、複数。


 ……なにを言っているのか解らないだろう? 俺も解らないと思う。


 つまり、身体の一部が離れていようが、くっついていようが、所属はゴーレムという名の個なのだ。


 自分が求めなくとも、分離した身体のパーツは元のあるべき部位へと戻ろうとする。求めれば、身体の一部を永遠に分離しておく事ができる。


 俺たちの身体はもともと土や石塊。そもそもくっついている必要がない。

 岩と岩が擦れる音がした。俺は意識を野郎に向ける。


 あの野郎~! 甦った腕を荒っぽく振り回しはじめやがった。

 危ない野郎と距離をとる。


 まあ、幸いにも、足は俺の方が早そうだ。


 腕を水車みたいに振り回して突っ込んでくるゴーレム。子供か?

 いや実際、子供っぽい。

 バランスも悪いし、腰も入っていない。


 一直線に突っ込んでくるから、かわすのは容易い。 

 こいつ、力だけのアホウだ。


 だったら戦い方もある。俺のプロレス視聴マニア脳が、そう教えてくれた。


 性懲りもなく腕をぐるぐる回しながら突っ込んでくる。

 俺は逃げずにそれを受けた。


 ガツンガツンと酷い音が俺の肩や、顔をガードした腕から聞こえてくる。

 だけど、俺にダメージはない。


 俺は野郎の体力切れを待った。

 嫌いだけどイノキがよく使う戦法。イノキは嫌いだけど。


 見てる間に、野郎の拳が砕けていく。

 パワーでは負けているが、頑丈さでは俺が勝っているようだ。


 状況の不利、もしくは体力の渇枯、あるいは己のダメージを悟ったのか、野郎の攻撃が止んだ。


 これを待っていた。

 これぞ隙。

 俺の闘魂が燃える。イノキは嫌いだけど。


 持てる最大限の瞬発力を発揮!

 野郎の下半身へむけ、タックルをぶちかました。


 初めてだけど、この体の性能が成功を手繰り寄せたようだ。


 見事にバランスを崩し、尻餅をつく憎いアンチクショウ。


 俺は目の前の両足を両手で取った。

 股の間に足を挟み込み、手にした野郎の足と共に半回転。

 俯せに返した野郎の背に跨る。手にした両足は一本にまとめ上げた。

 絡まった両足は一本になり、反りながら天を向いてそそり立つ。

 

 その姿はサソリ!


 教科書通りのサソリ固め! 

 尊敬して止まない維新戦士長州力先生、見てますか!

 もし異世界を見る能力があったら、あんた神様だ!


 どうだコノヤロウ!

 いかに力を誇ろうと、俺には先達が築きあげてきたテクニックがある! 技術があるっ!

 これぞ奥義・水影心! 新日は世界一ィィィ!


 どこかのスターリング戦線で戦死した英雄が如き雄叫びを(心の中で)上げ(この体、発声器官がない)俺は勝ち誇った。


 このまんま締め上げてやんよ!

 

 背筋(有るのか?)を絞り上げ、砕けよ! とばかりに全力で体を反らす。

 反らすものの……徐々に押し返されていく。


 どんだけだよーっ! 弾き飛ばされたぁーっ!


 もんどり打って前転していく俺。


 これはわざとだ。

 相手と距離とるため。

 野郎に安堵を与えるため転がって距離を取った。

 プロレスの基本である。


 野郎、サソリを力で返したな!

  それは長州力先生の顔に泥を塗りたくったのも同然!

 大プロレスに挑戦状を叩きつけたのも同然!


 いいだろう。

 プロレスに係わる者(視聴者)として、浅はかな挑戦を受けてやろうではないか!


 起き上がろうとして……、体が重い。

 体力というか、エネルギーが少なくなってるのだろうか?

 ちなみに、この体はいかようにしてエネルギーを得るのだろうか?


 野郎はムクリと起き上がる。

 絶妙な距離を取り、睨み合う二者。


 やばいな。

 エネルギーが切れる前に決着を付けなきゃならない。


 俺は中腰になり左手を頭上に上げた。

 指をフニフニさせ、野郎が得意な力業である組み手を要求する。


 思惑通り乗ってくる馬鹿野郎が一体。


 手と手が触れ合う寸前。遊んでいた俺の右拳が下から伸び上がる。

 意識を頭上の左手に集めていた野郎の顎を打ち抜いた。


 ナックルでガチンと言わせたすぐ後で拳を開く。

 レフリーが見ていたら掌底による張り手に見えただろう。

 反則技はバレてこそ反則。


 案の定、たたらを踏む岩野郎。俺も岩野郎。


 いまからハイスパート・レスリングの妙技を体に叩き込んでやるぜ!

  スタン・ハンセン先生、見ていてください。

 ……力先生と違ってあんたなら異世界の戦いを見ることができそうだ。


 俺は続けて野郎の膝へ向けローキックを放つ。


 重量級にはたまらないだろう?

 野郎は膝をついた。そこを欠かさず俺の膝が襲う。


 顔面を狙ったんだが、距離が近すぎた。

 いまいち膝が上がっていない。 

 ニー・スタンプが強襲したのは野郎の胸。

 俺の強度と野郎の強度の勝負!


 俺の勝ちだ。


 野郎の胸を構成する岩塊が砕けて散った。

 やったぜこの野郎!

 

 おや?

 砕けた胸の穴の右側から、なんか赤い光りが?


 確認する前に、砕けた破片が胸の穴に吸い込まれていく。

 逆再生をスローモーションで見るかのように、野郎の胸は元通りとなった。

 いや、見事の一言だ。


 予想された再生力。


 俺も同じゴーレム。同じ体だ。

 そうなると、こいつは永遠に続く消耗戦だぞ。


 見たところ、野郎に知性はない。俺には知性がある。

 疲れを感じるのは俺の方。これは不利だ!


 短期決戦に出るしかない。


 あの赤い輝きが気になる。場所は心臓部分。

 やつの弱点に違いない。

 攻略の光りは赤い光り。あそこを攻める!


 俺はもう一度、右手を高く上げて野郎を誘った。

 今度は誘いに乗ってこない。

 当たり前だ。獣だって同じ手に乗らない。


 予想通り、体当たりに出てきやがった。

 腰を低く落として、頭から突っ込んでくる。

 重量級モンスター最大のステキ武器。全てを砕く体当たり。


 だがスピードは、インテリジェント・モンスター・キングコング・ブルーザ・ブロディにほど遠い。


 俺の腰に激突する直前、ヒョイと跳び上がる。


 頭がスッポリと俺の股に挟まれる。

 俺の身体が落下。

 水平の力に下向きの力が加わる。

 俺は意図的に下へ力をかけつつ、野郎の胴を両手でホールド。そのまま尻餅を突きにかかる。


 相手の力を利用したパイル・ドライバー。


 ド派手な音と共に、頭が砕ける手応え。

 乱暴に放り投げて立ち上がる。

 お見積もり通り、頭が半分ほどに割れていた。それでも再生は始まっている。


 間髪を入れず、仰向きに寝ている野郎の胸に、体ごと肘を落とす。


 ここで強度の差が出た。

 胸を構成する石塊が砕け、ヒビの隙間から赤紫の光が漏れだした。


 この光だっ!


 野郎はモゴモゴ動くだけ。今を置いてチャンスはない。


 思いっきりジャンプ。

 膝を折り曲げ、胸の破損箇所へ飛び降りた。

 なにせここは重力が小さい。膝を使ったのは、少しでも落差を稼ぐため。


 これが大当たり。


 大きく砕けた胸から、赤紫の光を放つ宝石が顔を出した。

 ゴルフボールくらいか?


 無慈悲に右手を突っ込んで宝石を握りしめる。

 野郎は必死に掴みかかってくるがもう遅い。

 そのまま宝石を握りつぶしてやった。


 俺の拳から赤紫の光が吹き出した。

 ずいぶん長い時間光っていたように思えるが、たぶん一瞬の事だ。


 ギョモオォォォ!


 石を擦りあわせたような、調律してない弦楽器を奏でたような、何とも言えない断末魔。


 それは声ではない。

 俺に発声器官はない。野郎にもない。

 野郎の体を構成する石や岩、砂が擦れながら分解していく際の音だ。


 野郎は、石と砂の塊になった。


 そして気づいた。

 赤紫の光が、手を通し、腕を通じて俺の心臓部分に浸透していく。


 光ファイバーの中を流れていく光のような、ホースの中を流れていく熱い湯のような、変な感覚。

 そして回復する体力。

 

 俺は理解した。


 野郎の命と能力を引き継いだ。


 ゴキゴキと音を立て、俺の体が変化する。

 腰に重心を持った三角形の体型から、ほぼ縦長の長方形に変化していった。ゴールド・ライタ◎。


 ウエストはないに等しいが、デゼニー・スタイルよりなんぼかましだ。


 体が軽い。腕が太い。憧れてやまない太マッチョ。

 ……あれ、なんだろう? 悲しくて涙ができそう。


 我に帰っちゃダメだ!

 手に入れた物だけを見ろ!


 ビルドアップ!

 むふうん! 力が溢れる。


 そりゃそうだ。

 俺は野郎のパワーを引き継いだんだからな。


 正真正銘ストロングスタイルのヘビー級ファイター!

 設定は当然ベビーフェイスっ!


 ステータスウインドウが開いたら、頑強性に加え、パワーの表示がNEWで表示されていたことだろう。


 ……まじめなアナログ世界で良かった。


 俺は、自分の中で起こっているかもしれないある不安を心の奥へ引っ込めた。



戦いはまだまだ続く模様!

次回「ラウンド・ツー」


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