11.蹂躙戦
レムの胸が爆発した!
「ああっ! レム君!」
デニスは見つかることを考えず、木の陰から身を乗り出していた。
レムがやられた。
胸から煙を上げながら、レムが倒れている。
動こうともしない。
「どうしちゃったの? 姉ちゃん、あれはなに?」
ジムが狼狽えている。
「魔法よ。魔法使いが聖騎士の仲間になっているのよ!」
これは変だ。
聖教会は魔獣も異質の物。魔法も悪魔の業として忌み嫌っていた筈だ。
どうして聖教会達の砦から魔法が飛んでくるのか?
それも、一撃でレムを倒す威力。
大魔法使いが正教会側にいるのか?
「落ち着くのよ、落ち着いて」
ジムに語りかけているが、自分にも語りかけているのだった。
頭の中にいろんな言葉が渦を巻いていて、何も考えられなくなっていた。
年上として、リデェリアルの長として、デニスは落ち着かなければならない。
ゆっくりと数を1から10まで数え、息を吐いた。
先ほどよりは落ち着いた。だからといって状況の打開策は浮かばない。
考えている間にガルが戻ってきた。相変わらず恐ろしいまでの足だ。
心配そうにしてレムの回りをうろついている。
「駄目よ、ガルちゃん! じっとしてるとねらい撃ちされるわ! 動いて!」
デニスが叫ぶと、ガルが飛び跳ねた。
同時に魔法の第2弾が打ち出された。
着弾! 大爆発。爆風がデニスたちの所にまでやってきた。
恐るべき破壊力を持った魔法の攻撃は、危ういところでガルを外していた。
「こんなに離れているのに、ガルちゃんに言葉が届いた……、いえ、心が届いたのね!」
デニスは感激していた。
ガルはデニスのアドバイスを忠実に守り、チョコマカと常に動いて狙いをつけられないようにしていた。
「姉ちゃん、見つかるよ!」
ジムが手を引いて草むらへとデニスを引きずり倒した。
「見つかっちゃったかな?」
「たぶん。ここを離れ……レム?」
様子をうかがっていたジムが声を上げる。
デニスが首を巡らすと、レムが立ち上がっていた。
「無事だったのね!」
安心したのもつかの間。また、レムが走り出した。
「だめ! 真っ直ぐ走っちゃ狙われるわ! ああーっ!」
案の定、魔法攻撃の第3弾が発射された。
赤い光がレムに直撃!
でも今度は威力が小さい。
レムの表面で炎が上がっただけ。なぜか爆発しなかった。
レムが何かしたのだろうか?
レムの勢いは止まらない。
勢いよく柵へ突っ込み、スピードを落とすことなく見張り台を押しつぶした。
土煙が巻き上がり、そこから先は見えなくなった。
悲鳴や、建造物が壊れる音が、遠く離れたここまで聞こえてくる。
長い時間掛かって、音は聞こえなくなった。
土煙も上がらなくなった。
「どうやら、終わったようね」
デニスの判断をジムは頷くことで同意した。
「帰るわよ。わたし達のリデェリアル村へ!」
二人は変わり果てた故郷へ向かって歩き出したのであった。
「これから無茶をするオイラに罪悪感を求めてはいけねぇ! だって村の面影は無ぇもん。ここは我らの村ではないもん! と、言う方向で!」
「破壊オケーって意味でオッケイですね、先輩?」
「存分に参ろう!」
村とは言葉だけ。もはやそこは村ではない。
主立った木造建築物は焼き払われていた。残っているのは石でできた構造材のみ。
なんていうか……城跡だな、こりゃ。
この村は、リデェリアル村は無くなって消えた。
聖騎士達が使うなら、利用価値のある建物だけでも残すはず。
ここにあるのは無数のテントと積み上げられた資材だけ。
何十人もの人足っぽい作業者が右往左往している。
魔法使いもいないようだ。
張り切っていたのが馬鹿みたいに見える。
残るは聖騎士だけだが……。
はっきり言って、聖騎士の数はしれていた。
武装していたのは十人程度。しかも馬に乗ってない。
俺が三人ばかり。残りはガルが軽く一蹴した。
相手は狂信者といえ、中身は人間。できることなら殺人は避けたい。
そんな感じで軽く腕を払って宙を飛ばしたり、足を振り回して十メートルほど水平に飛ばしたりして動かなくなったらそれ以上の追撃は控える。
死のうが生きようが、後は知らない。なるべくなら死なないでほしい。
どうにもこうにも、ある程度の反撃がないと虐殺行為みたいで気分が進まない。
ふと見ると、いかにも聖教会の坊主っぽい老若二人連れが、腰を抜かしてアワアワしていた。
デニス嬢のようにローティーンのアワアワは絵になるが、成人男性のアワアワは絵面的に汚くて仕方が無い。
ご多分に漏れず、薙ぎ払ってやろうと腕を構える。
おや? 若い方が身を挺して年長者の坊主を背中にかばったぞ。
と思ってたら年長者の坊主が、若いのを張り倒して前に出てきた。若いのをかばうようにして。
うーん、こいつらは純粋に宗教家をやってるのかもしれない。
さっきの虐殺行為で気落ちしていた為もあって、見なかったことにした。
それより!
ほぼ唯一残された建築物から出てきた宗教屋に興味がある。
デップリ太った肉まんみたいな男だった。
逃げようと様子をうかがっていた模様だが、あいにく俺の視界は後方までカバーしている。全天モニター装備である。
目の前のお仲間を助けようともせず、むしろ、仲間を盾にして逃げようとしてる感ありあり。
おれはこの手の人種が大嫌いだ。
過去のトラウマが息を吹き返す。
百八十度一気ターン。滑るように歩いてエセ宗教屋の前へと見参した。
腰を抜かしたクソ坊主は、懐からお札を取り出し振り回している。
……それで攻撃のつもりかよ?
シューキョーのキセキが通じるくらいなら、俺はさっきの魔法で死んでるだろうが!
俺は今月最大の注意力を発揮して、お札だけを強奪した。
超合金ロボ並のゴツイ手が小さなアミュレットを破くことなくつかんだのだ。褒めてもらいたい。
で、紙切れをくしゅくしゅにして後ろへ放り投げる。
いきなりハンマーパンチが坊主の頭頂に落とされた!
確実に体を破壊する岩石の塊が、坊主の頭を少しだけ逸れて地面を叩く。
呼吸の意味を忘れた坊主が、ションベンをちびっていた。
どうだい?
神様が守ってくれないという現実を突きつけられた感想は?
うーん、悪者ぶっても様にならないなぁ……。
「おーい、レム君! 聖騎士の偉いさんが何人か逃げたぞ!」
悪の限り……もとい、蹂躙の限りを尽くしきったガルが走ってきた。
「深追いはよそう。そのかわり、えらそうな坊主を捕まえたぞ」
「いかにも胡散臭そうな教職者だな」
ガルの嗅覚は正しい。確かにアンモニア臭そうだ。
最初の坊主は……逃がしたか。まあいい。
こっちの方が早く多く喋ってくれそうだ。それに後腐れがない。
坊主は、咳き込みながら血を飛ばしていた。
どうやら騒ぎで折れた肋骨が肺を傷つけてしまったようだ。
神に見放されたのだろう。俺が見つけたときにはこのザマだった。
それに気づいてないのか、さかんに命乞いらしきゼスチャーをしている。
いかように手を尽くしても、時間が来れば神の国へ召される。
哀れよのう……。
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