1.目覚めたら洞窟
生き返った。
現に、俺は見たこともない天井を見上げている。
俺の記憶が正しければ、あれは岩肌というヤツだ。そしてここは洞窟と呼ばれる大自然の懐が作り出した空間である。が、狭い。天井の高い教室ほどの空間。
机と椅子があれば、まさに教室。律儀に立方体であった。
まさか、これが世界の全てではあるまい?
明かりは全くない。されど、光の中にいるようにまざまざと光景が見える。
そもそも目が存在するのか?
などと、意味のないことを考えつつ、あたりを見渡しながら腕を回す。
環境に反して、体調の方はすこぶる良い。
岩のような腕が軽々動く。岩のような足なのに軽い。引き絞られ、岩のように堅い腹筋を見よ!
……岩の体を持つ何か、というところまでは解った。
頑丈な体であることまでは解った。
あと、物怖じしない自分が立派だった。褒めてやりたい。
この場合はアレだ。そう、ステータスウインドウを開くんだ!
……。
開いたら奇跡だな。ゲームじゃあるまいし。
現実を認識しよう。
顔はどんな案配かとゴツイ手で撫で回してみる。ゴツゴツとした感覚があった。
「これは、アレだ。……ゴーレム?」
いわゆるロック・ゴーレム?
インスマウスがトレードのクリーチャー満載デゼニー・アニメっぽい下半身膨張中年体型のゴーレム。格好悪いっ!
「身体はゴーレム。頭脳は大人!」
よし! まだ落ち着いてるぞ俺!
……。
ふつう貴族のご子息だろ?
金髪碧眼がデフォだろ? 膨大な魔力はどこいった? 二歳児で魔法書を読解するんだろ? そんでもってツッコミスキルに特化したメイドさんに担当されて、領地が経営危機で、そんでもってそんでもって……。
落ち着け俺!
現実を見ろ俺!
素数を数えろ。1……、あれ? 1は素数だったけかな?
こんな時は体を動かすに限る。
コンビネーション3-1-3!
その動きは、……まあ普通。やや身体が重いか? 岩ゆえに。
愛してやまないヘビー級プロレスラーが如きフットワーク。
ここは重力が小さいのだろうか? ジャンプ頂上からのフワリとした落下。なんかタイムラグを感じる。
いいねいいね! 新日全盛期のブロディとかハンセンみたいな体力!
はい! 落ち着いた!
ところで、関節ってどうなってるんだ?
モビールアマーみたく球体関節じゃないな。外骨格でも内骨格でもない。
器用にも構成素材である岩が増減退して動いているようだ。粘土……みたいな?
風水に言う、岩は金気。堅いから金の気を持つ状態。
俺は風水師……の卵。
風、水、土、火の四大元素は物質を指すが、風水、つまり五行陰陽では状態を指す。
例えば氷。四大元素説では水に属するが、五行陰陽だと金気に属する。
五行陰陽の構成要素は水気、木気、火気、土気、そして金気の五つ。一個多い。状態を表すから水行とか木行とかもよばれている。プラスして陰と陽があるが、長くなるのでまたの機会に。
水は木を産み、木は火を産み、火は土を産み、土は金を産み、金は水を産み、そして水は木を産む。順次回転していくのだ。
この場合、金は鉄じゃないよ。堅い物だよ。
スプーンなどの冷たい金属に湯気が触れて水滴となる、って解説本にしれって書いてるけどそれは間違い。
水蒸気などの気体は木気とされている。ならば「木生水」ではないか? 正しいのは「水生木」であり、これだと真逆だ。
この解説者は「現物」を見ていない。
川はどこで生まれるか?
山や谷で、水が湧くポイントを見てみればいい。必ず岩の隙間から湧いて出る。
岩とは堅い物。つまり金気。金生水とはこの事を指す。
ちなみに「金」は「ゴールド=貨幣」ではない。堅い状態の物を指しているだけ。「キン」じゃなくて「ゴン」と発音する点から鑑みても「お金」じゃない。まして紙幣でもない。
ちなみに、金気を上げるために黄色いハンカチを飾ってもゴールドは増えないよ。金気に代表される毛虫、ネズミなんかが増えるだけだよ。
説明が長くなった。偉そうに解説してるけど、まだ習い始めたばかりの新米だから自重しよう。
話戻して……。
自由に動く各関節は……まあ、岩だから土気と金気の間を行ったり来たりしてるんだろう。
土生金と言われて、土が金を産むのだから、あながち間違っちゃいないだろう。
強度はどうだ?
胸を拳で叩いてみた。ガツンと音がした。
痛みは無い。衝撃は感じたが、プロテクターの上から叩いた感覚。
だけど衝撃の度合いは感覚で理解できた。軽く殴っただけだが、人間の頭骨くらいなら軽く粉砕できそうだ。
総合的身体能力はいかがな物か?
ピョンピョンと(ドスドスと)飛び跳ねながら、ジャブを繰り出す。思い出した様にワンツーとフックを混ぜる。
パワフリャーさに感動!
……現実逃避なんだ。察してくれ!
中途半端な頭の出来だから、次々と嫌な思考が湧いて出る。それを抑えなきゃやってらんねぇぜ!
その為のワンツーだってんだろがボケェーっ!
どこん!
壁に向かって放たれたナックルパートが穴を空けた。
向こうに新しい世界が広がっていた。
三歩下がった。
大きく息を吸おうとして理解した。ゴーレムの体に肺はない。
よかった。
これで水死の目は無くなった。結核はもとより、肺炎や肺ガンの心配も要らない。いいことだらけじゃないか!
……深く考えるのはやめよう。
いやむしろ自分の持つ手札を考えよう。
一つ、能力不明の体。
二つ、前世より引き継いだ思考方法と記憶。
三つ、フォルダー名ロッキーシリーズは闇に消えた。
このうち、二つめの手札が、他の壁と調査しろと命じた。
穴の開いた背後の壁を殴る。岩がいっぱい詰まった重低音が帰ってきた。
続いて右と左の壁。同じく破壊できそうにない。
で、正面の穴の開いた壁。ここだけが潰せそうだ。
拳を打ち付けてみる。さきほどより穴が大きくなった
どれどれ、と首を差し込んで様子をうかがう。
その時、特大型戦車運搬車並の衝撃が頭に発生した!
次話「ゴーレム・ファイト!」
いきなりバトル開始です。
ドゾ、ヨロシク!