4.戦いの真実
視点が変わります。
さすが俺!
俺のデンジャラス・ヘヴィー・ライト・パンチを受けたゴーレムの首から上が吹き飛んだ。
グズグズと音を立て、体が崩れていく。
こいつらは顎の奥、首と顔の付け根が弱点なんだ。そこから力を感じるからな。
地下洞窟の怪物達とは、比べるのもおこがましいくらい弱いが、あそこに力の源があるのは確かだ。
もっとも、これだけ弱いと力を吸い取ったのか霧散させたのか解らない。
先頭がバラけてしまったので、残った4体が警戒した。
俺を警戒しだしたのだが、動きが鈍すぎる。
連中が構えを取る前に、左の一体を壊してやった。
そのまま右端っこの狙って走り込む。
不細工なのが不細工な腕を振るってきたが、なんら脅威を感じない。
ヒョイとかいくぐって、伸び上がりアッパーで急所を打ち抜く。
派手な音と共に、ゴーレムの残骸が空へと舞い上がる。
くるりと向きを変えた俺は、残った2体との間合いを詰める。
蝿が止まるほどノロいゴーレム。
一直線に並ぶ位置へ回り込み、4体目に下段蹴りを放つ。
あっさり足が砕け、転がるゴーレム。
喉を踏み抜いて、最期の一体と正面から向かい合う。
ゴーレムが拳を繰り出してきた。
俺はそれを避けない。
胸で受け止めたら、拳が砕けたようだ。
一旦背中を見せた俺は、回転しながら足を振り上げる。
後ろ回し蹴りがゴーレムの上半身をハデに吹き飛ばした。
ゴーレムの残骸に、ビシリと指を差す。
そして嫌みったらしくこう言ってやった。
「おい、こいつら弱すぎるぞ」
「お前ェが強すぎんだよ!」
犬が感嘆してくれた。
予想された答えは覆された。皮肉の一つでも帰ってくるかと思ったら、来たのは賞賛の声だった。
そこまでされちゃ悪い気はしない。
「オラッシャー!」
マッスルビルドアップポージングを解いた後、聖騎士と呼ばれるおもちゃの兵隊さんの群れへと突っ込んでいった。
人間と聞いた以上、さすがに踏みつぶす気はしない。足を払って馬ごと吹き飛ばしてやった。
二度三度と。
恐れをなしたのか、聖騎士達は俺から距離を取る。
遠巻きにグルグルと円を描くのみで手を出してこない。
優越感に浸った俺は、ズシズシと歩いてみせる。
気分は鉄人? 古いか……機動戦士? これも大して新しくないか……。
「おい、気をつけろ、上だ!」
超時空はでかすぎるし……なんだ? 犬の忠告に、何事かと空を見上げる。
頭の上で、プテラノドンの翼を持ったトカゲがヒイフウミイヨオ……12匹も飛んでいた。
おい、人が乗ってるぞ!
にしてもずいぶんと低空飛行だな。
……ゴーレムといい、トカゲといい、12という数字に何かこだわってんのか?
「拙いぞ! 地属性のゴーレムと空とぶワイバーンの相性は最悪だ!」
あれがワイバーン?
また、なんというか……ジンに比べれば貧相な……。
遅いし不安定だし、なにより迂闊だ。
こんな低空を密集して飛んでなんになる?
「くそっ、あいつら火を噴くぞ!」
もたついた足で、犬が少女の前へでた。体を張ってかばおうとしてる。
認めよう。それは畜生にしては立派な行為である。
「要は、撃ち落とせばいいんだろ?」
「空に向かって石投げたって当たらねぇぞ!」
石なんか投げるか!
位置と動きのパターンをよく観察する。
隙やパターン化を見極めていたら、いきなり一匹が降りてきた。
正面から迫るそいつは、俺の目の前で口を開き、炎を吹き出した。
「うおっと!」
反射的に左腕で顔をかばったが、大して熱くない。なんて射程距離の短い攻撃。
すれ違いざまに右手を伸ばして、およその位置で掴んでみた。
見事、翼を形成する薄い膜を引きちぎれた。
錐揉みしながら地面へ激突。乗っていた人は転がっていった。バイクで転けた程度の重傷で済んだらいいのにね。
「やったぜこんちくしょう!」
嬉しそうに犬が走る。
余程憎かったのか腹に据えかねたものがあるのか、ワイバーンを牙に掛けて引きずり回し、喉を食い破ってとどめを刺しやがった。
実践投入は初めてだが、アレを使ってみるか。
落としさえすれば犬がとどめを刺してくれる。手分けしてもいいし。
パイロットは……死にゃーすまい。たぶん。
よーし!
「おい、犬!」
「犬じゃねぇ、フェンリル狼だ! 名前はガルな!」
「じゃ、ガル、今からあいつらを落とす。片っ端からとどめ刺せ!」
「ガル先輩と呼べ。おまえ、空飛んでるのを落とせるのか?」
「まかせろ!」
Uターンして崩れた岩壁へと走る。そこにワクテカしている少女がいるからだ。
ガルが走り回る役だから、別に少女の護衛が必要だ。それと、俺が走ったら……。
少女を目の前にしてくるりと振り返る。
案の定、ワイバーンは密集して追いかけてくる。火を吐きかけようと低空飛行で。
俺は、肩当てを弾けるように跳ね上げた。
中に行儀良くみっちり並んでいるのは、小振りの石筍。
もちろん、基部には火気と木気を仕込んである。
腰を落とし、衝撃に備える。
「ハッ!」
両の肩に力を流す。
爆発音。
どえらい衝撃が腰と膝にかかる。
反動で後ろへスライド。
風切り音を上げ、三次元的扇状に広がって打ち上がっていく石筍の実体弾。
追尾なんて器用な機能は付いていない。数撃ちゃ当たる散弾方式を採用。
そのため、弾の多くは外れたが、12匹のワイバーンには最低一発ずつは命中していた。
バターン、ベチン、ボキンと痛そうな音を立て墜落するワイバーン達。
ガル君は、喜んで止めを刺しに飛び出した。
俺が手を出すまでもなく、急所を噛みちぎって駆け回る。
それはもう喜んで……さっきまでのヘタり具合は芝居か?
怒りに体が震える。いや、地面が震えている?
地震かな?
動くものを目が捉えた。
残されたゴーレム7体が突撃を敢行していたのだ。
くさび形の陣形を取り、突撃してくる。地響きの原因はこいつらか?
ワイバーンの攻撃と同時に走り出したのだろう。速度は既にトップスピードに乗っている模様。
空と陸による二面作戦だったようだが、それは各個撃破で終わるであろう。
こんなやつら片手で十分である。
片手と言うことで……。
右手の肘から先を高速度で回転させる。こっそりとライフルを刻んでからだが。
俺は右腕を大きく振りかぶった。
この場合のコツは、飛んでいく腕の方に火と木の気を仕込み、爆発させてやること。
「えーと、ドリルスマッシャーパーンチ!」
これも反動がきついぜ!
肘から先が赤い炎の尾を引いて飛んでいく。
一直線に、えらい勢いで飛んでいったロケットのパンチ。見事、先頭を走るゴーレムに命中。
ド派手な破壊音を立て、爆散した。
ボウリングの要領で両隣の同僚を道連れにして。
残り4体。
もう目の前にまできていた。
いやまあ、俺も飛び出していたんだけど。
右腕はまだ帰還してない。左腕の活躍に期待して、右端のゴーレムから叩く。
突っ込んだ勢いそのまま。殴りかかかってくるゴーレムのパンチをかわし、左腕を伸ばす。
野郎の首に腕を引っかけてやった。
俺の体重と速度。ゴーレムの体重と速度が、破壊力として俺の腕とゴーレムの首に集中した。
硬い方が有利。速いほうが有利。
魔法世界で物理法則ラリアットが決まったっ!
敵は逆上がりをするかのように一回転。
頭から落ちた頃には首から上が無くなっていた。
巨大ロボクラスの岩の塊だもんな。破壊力は並大抵のものではない。
バランスを心配して萎縮したラリアットだからこんなものか?
バランサーの役割を持つ右腕がなかったから思いっきり打てなかった。
速度と重量がゼロになった結果、立ち止まった訳だが、残り3体のゴーレムに睨まれた。
じりりと包囲。囲んでくる。
その時、解き放っていた右腕が帰還。これまたやかましい音を立て肘にくっついた。
これでパーフェクト! バトルロイヤルといこうか?
おやおや? 右腕が戻ってきたんで皆様腰が引けてますね。
先ほどまでの勢いはどうしたんですかぁ?
俺はいつものように腰を落とし低い姿勢をとる。右腕をめいっぱい高く上げ、ヒョコヒョコと誘うように動かす。
その間、左腕は低い位置で、つかみ所を探して待機している。
縦に大きな構え。
……特に意味はない。
むしろ不利な体勢かもしれないが、戦いには見せるという要素も必要だぁーっ!
一瞬の隙をつき(いや、隙だかなんだかわからなかったけど、動きがトロかったんで)正面のゴーレムに飛びかかった。
右手と左手の位置を入れ替え(構えの意味がねぇ)、股ぐらに右手を差し込んだ。そのまま力任せにボディスラムへと持ち込む。
文字通りの地響きを立て、ゴーレムは背中を打ち付けた。
倒れ込んで動きが止まった(か、どうかはわからないけど)ゴーレムの顎めがけ、膝を落とす。
マウントポジションを取る、なんて辛気くさい戦法は頭にないぜ! ダウン攻撃有るのみ!
こいつ柔らかい。ちょっと体重乗っけただけで、粉になる。
おっと、残り2体に組み付かれてしまった。
体重掛けて押しつぶそうとしているが、そいつあ効果無いな。
おまえら軽いんだよ。ジュニアヘビー級がスーパーヘビー級に勝てると思うてか?
重量を無視して、跳ね起きた。2体のゴーレムは尻餅をついている。
体制を整えるまで待ってやる。
右のヤツから、腰の入ってないパンチが飛んできた。
あまりにへなちょこなので、あえて顎で受けてやった。あれだよ、対戦相手の攻撃を受けてやるのもプロの勤めだよ。
受けたところは、こんな形ωをした口を隠すために装甲を施してある特に硬いところだ。案の定、拳の方が砕けていた。
腕を垂直に振り上げた俺は、天頂からのカラテチョップを脳天に見舞う。ちゃんと小指を曲げたプロスタイルのチョップだ。
たいした抵抗もなく、ゴーレムの脳天にゴソリとめり込んだ。
そのまま振り下ろし、股のところで抜く。ゴーレムさんは、真っ二つになって土へと帰って逝きなんした。
残り1体。
どうするのチミ? って思考を込めて斜めに睨んでみる。
当然、なんも考えてないんだろうゴーレムは、体当たりをかましてくる。
俺は片足を突き出し、正面蹴りを喰らわせてやった。
カウンターで決まった蹴りが、ゴーレムの腹にヒビを入れていた。
勢い、足を高く振り上げ、身長差を生かしてそのまま蹴り降ろす。みんなの憧れ、踵落としである。
踵の硬いところ(こっそり強化してある)がゴーレムの頭部を破壊した。頭部だけではなく、上半身まで粉にしてしまった。
相手が柔らかいと、ここまでハデになるか?
かくして、ゴーレム軍団は全滅の憂き目にあった。
残るはオモチャの馬さんに乗った騎士の皆さんである。
長い得物を持って、俺の周囲を幾重にも包囲、周回しておられる。
これってアレだよね、様子を見るためロープの反動を利用して対戦相手の周囲を回るアレ。
一応、戦い方は知ってるようだ。
なんつーか、人間と知って命を取るのも気が引けるなー。
よし、ここは一つ!
「バンギャー!」
こういうのは勢いだ。俺は太い両腕を天まで届けとばかりに持ち上げ、意味不明の雄叫びを上げてみた。
ふふふ、オモチャの兵隊共!
いやが上にも俺の巨大さと質量感を見せつけてくれよう!
でもって、ジャーンプ!
ちょっとだけ空いた空間へ飛び込んだ。一人ボディスラムである。
何人か引っかけたが死にゃすまい。
そのままバタバタゴロゴロとガキンチョ駄々コネ攻撃。
騎士達の隊列は崩れた。
すかさず立ち上がり、反対側の空き地へ飛び込む。
なるべくハデに受け身を取った。さっき取り忘れたからな!
また素早く立ち上がる。今度は密集している箇所に視線を置く。
騎士達は、俺の意を察してくれた。我先にとその場から逃げ出したのだ。
ギリギリ脱出が間に合う頃合いを見計らって、飛び込んだ。地面が受け身で凹んでしまったが気にしない。
ドスドスと意図的に足音を立て騎士を追いかけ回す。時々長い武器を持って挑んでくるが、片っ端からヘシ折っていく。
たまに穂先が光ってるのとか、燃えてるのとか混じっていたがお構いなしだ。
そんな低火力で石の体は焼けないぜ。
高台から岩場や森へ落ちていく者多数。
一本しかない道から溢れ、これも崖下へ落ちていく者が多数。
動ける者は仲間を拾いつつ撤退していく。
どうやら、騎士達を追い帰したようだ。
「ウィーッ!」
親指と小指を立てた左手を高々と上げる。それはバッファローの角!
テンガロンハットと投げ縄がないのを残念に思うが、勝利の雄叫びである。
「やるじゃねぇかコノヤロウ!」
ガル先輩に褒められた。
戦いは終わった。
日が落ちて辺りは薄暗くなっていた。
行きは良い良い帰りは恐い。暗い道、どうか彼ら敗残兵が迷いませんように。
夢精、いや無双の巻!