2.秘められた巨人
主人公目線です。
この世界の一端を垣間見る回です。
真実はいつも一つ!
「全開パーンチ!」
俺は声高々に叫んで(出たのはウゴウゴルガルガみたいなうめき声だったが)、必殺パンチを放った。
本年度1~2を争う魂のこもったいいパンチを繰り出せた!
やあ、俺だよ俺! 憶えてるかい?
ベヒモスとかゴーレムとか名乗ってた大河原デザインの俺だよ!
やっと地下世界を抜けて、太陽の元へと飛び出したんだよ!
相変わらず、誰に話しかけているんだろうね、俺。
目の前の壁を粉砕したら外界へ出られた。
長いトンネルを抜けたら、そこは草原の国だった。
新鮮な空気に開放感を覚える。頑丈なボディと引き替えに、皮膚感覚はほとんど無いけどね。ハッハッハッハーッ!
……あれ? 泣けてきそうになってるのは何故?
瓦礫を押しのけ、完全に外へ出る。
朝日が山々の向こうから顔を出している。……やけに赤いな? 夕日?
おや? 足下に、薄汚れた犬と小汚い小人さんがいる。
ポカンとした顔で俺を見上げている?
近くには、小犬みたいな可愛い馬に跨った玩具みたいな兵隊さんが、びっしりと集まっていた。
おやおや、その後ろには……また随分不出来なゴーレム。
洗練された俺の大河原デザインと一緒にしないでもらいたいな、うぉーっ!
せっかく地下世界を抜けたのに、汗くさそうな世界が待っていたもので思わず叫んでしまった。反省はしていない。
俺の奇抜な行動によるものか、みんな、なんとはなしに腰が引けている模様。
いや、これはすまない。脅かしてしまったようだ。いきなりだもんな。
俺は敵意がないことを示すため、両腕を広げておどけて見せた。わーお!
気のせいかな? 小人さんがビクリと体を震わせた。
目と目が合った。
二人して固まる。
よくよく見れば、小人さんは女の子だった。
埒があきそうにないので、腕を伸ばして触ろうとした。
小人の少女が踊り出したのはその時だった。
クネクネと体を捻りくねらせ、不思議な踊りを踊り出す。大人のお姉さんだったらセクシーなダンシングだったろうに……。
残念だ。
体が貧相なだけに残念だ!
だがこの踊りに何の意味がある?
「おい、そこのデカブツ!」
また声が頭の中で聞こえた。
おいおい、今度は何者だ? 残ってるのは光りか闇かだぞ。
「光りでも闇でもねぇし! こっち向けコラ!」
こっちと言われても……誰もいないし……どちら様で?
「こっちだこっち、下だ下!」
見下げると、少女の隣で小汚い小犬がハッハッハと可愛い舌を出して荒い息をついていた。
えーと、もしかして、犬?
「犬じゃねぇ! 俺はフェンリル狼のガルっつって、ガルム犬と間違われている……それはまあいい!」
ほう、この自称フェンリル狼の小犬は、ガルって名前か。
よく見れば精悍な顔つきである。さすが狼を自称するだけはある。
「せっかくデニス嬢ちゃんが『秘技・魔獣精神支配の踊り』を披露してくれたんだ。てめぇも漢だったら、きっちり支配されろや!」
精神支配だぁ?
初対面の人間に……もとい、ベヒモスに、なに無茶振りするかなこの犬。
「犬じゃねぇ狼だっつってんだろ、てめぇ! くそっ! まあいい!」
ちっちゃい犬が咳払いをした。
「お前の心に問いたい。美少女と髭ダルマ、どっちが正義だと思う?」
俺は意志の力ではっきりと言葉にして答えた。
「美少女に決まってるじゃないか!」
「じゃ、おめぇ、可憐で微乳な乙女と、汗くせぇ鎧のオッサンが戦ってたら、どっちに付くよ?」
なにを当然なことを!
「乙女だよ!」
よしよしと犬が頷いた。
「じゃあ、目の前の状況をおめぇはどう見るよ? 愛くるしい愛玩動物一匹と美少女一人相手に、冒涜的な暴力機関が、大人げなくも数と装備を揃えて卑劣にも暴行に及ぼうってんだ」
なるほど! 口の減らない小犬が愛くるしいかどうかは別の機会に議論するとして……。
ここを埋め尽くすちんまい集団は、殺意を持っているのか。
「よく解った!」
「やっと解ったか。デカ物総身に知恵が回らずを実践したな」
「お前がその子に惚れているということが解った。悪いことは言わない。種族の違いは不幸しか呼ばないぞ」
「ちげーよバカ野郎! 純然に大人として、か弱き者が必死に努力してる姿を愛でる……もとい、援助してあげたいという、年長者として当然の行為だろうが!」
今本音言ったよ、この犬。
しかしこの犬、難しい言葉たくさん知ってるなぁ。
俺は改めて、ひいき目に見てもへたくそな踊りを熱演する小人少女に視線を落とす。
貧相な体……もとい華奢な少女のダンシングは最高潮へ達していた。
クルクルとハゲシク回ってポーズを決める。
そのまま動かないところを見ると、どうやら不思議な踊りは終了したらしい。
はあはあと肩で息する小人の少女は、どや顔で俺を見上げている。
なにが「どや」なんだろう?
「くうっ! この表情だよ! 魔獣支配の踊りなんかに全く効果がねーってーのに、言い伝えを信じて自信をみなぎらせるこの顔! どうでぇ? いっちょ支配されたフリして人生を棒に振ってみねぇか? 男として応えてやりたくなってくるだろ?」
べつに応えたかーねーし。
小芝居うつ気なんざさらさらねーし。
「やり遂げた感がすげぇだろ? この顔が見れるなら、火の輪くぐりも何ともないぜって思ってしまわねぇか?」
思わねえぇぇえし!
そんな高度な趣味もねぇし!
「あ、畜生! 聖騎士の連中、我に返りやがった!」
犬が吠える。ちっこい騎士達が、長い棒みたいなのを構えている。
不細工でちびこいゴーレムが5体、並んだ騎士の間をノシノシと歩いてこっちへ来る。
残り7体は後ろで控えか? 嘗められたものだな。
このゴーレム、俺の胸くらいしか背丈がない。低いのな。
ゴーレムってもっと大きいものだと思ってた。あ、俺もゴーレムみたいなモンか! ハッハッハッ……。
おや?
小人?
あれ?
「おい、ひょっとして、この集団は通常サイズの人間か? フェアリーじゃないのか? お前、でかい犬なのか?」
「今更なにを。小人さんはもっと小っちぇーよ! デカ物、てめぇのサイズは家クラスだ。ちなみにオイラは馬クラスオーバーの狼だ!」
なんと!
俺はアレか? モビールな超合金なスケールか? 144分の144モデルか?
「くそったれ! 聖騎士に村を襲われ、嬢ちゃんの両親も村人も皆殺しにされて火をつけられて、命からがら逃げてきたオイラはもうだめだ。ゲホゲホ! 見ず知らずのあんたに言うのも何だが、あとは頼んだぜデカ物!」
ずいぶんと説明くさい台詞をほざきながら、犬がよろける足で前に出た。
だいたい事情は飲み込めた。
気にもとめなかったが、この犬、泥だらけの血だらけじゃないか。
先頭を歩くゴーレムの一体が、犬に向かって腕を振り上げる。
犬の方は、……情けない!
俺の体が動いていた。
気がつけば、犬を跨いだ勢いで不細工ゴーレムの顎に右ストレートを放っていた。
ガルの本領発揮!
交互視点による勘違い暴露。
一度やってみたかった。
反省はしていない。




