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18.ベヒモス


 やあ、レム君だよ!

 まず説明しよう!


 触手さんは、創世神をおびき出す役割を演じていた。


 ネコ耳さんと透明人間さん、空中要塞さんは、創世神を油断させるために、裏切りを演じていた。


 創世神に一族を殺されたエルダー・ドラゴンの竜人さんことエティオラさんはジャイアントの千人長ヒラハッタンを倒し、カイザー・ジャイアントを顕現させるのが仕事。


 俺とガル、鳥さんと海獣さん、そして雷獣さんと白面鬼さんは、それを補強するために、敢えて戦った。芝居気無しの本気で。


 おおむね、作戦通りだとガルは言ってる!


 ……鳥さんは鳥頭な為、目的を忘れ手段に熱中しているが。

 ……白面鬼さんは、純情故、説明を聞く前に飛び出してしまったが……。

 俺もおおむね、その通りだと思う!


 そして、旧神怪獣に向けての渾身の一撃!

 しかし、効果は無かった。


 味方はガルと触手さんとエティさんとネコ耳さんと雷獣さん、そして俺。たった六人だ。

 状況は大いに不利!


「誰が六人だって?」

 ガルが牙を剥き出しにして笑った。


「あっちを見ろよ!」

 ガルの鼻面が指す方向。

 森の一角を掻き分け、異形の集団が現れた。

 それは――


「魔族?」


 先頭は、黒皇先生に跨がったデニス嬢ちゃん。ピッタリとくっついているのはサリアさんだ。――それとロバに乗ったジム君だが、これは無視していいな。


「我らがアイドルにして永遠不滅の微乳姫、デニス嬢ちゃんが、床に伏せっている魔王さんに変わって魔族を率い、白紙委任の森を突破して援軍に駆けつけてくれた」


 Aカップは永遠不滅かよ! 成長を期待してやれよ。


「オイラのために!」

 ガルの勘違いは、横に置いといて、別の方面からも魔族が湧いて出てきている。

 旧神怪獣を取り囲むようにして、魔族の全軍が集結した。


 一方、触手さんと怪獣の戦いは振り出しに戻っていた。

 無限触手によって、しつこく絡み続ける触手さん。そうはさせじと、片っ端から節足枝で切り落としてく怪獣。

 幾ばくかの触手が怪獣に取りついているところを見ると、触手さん優勢である。


「エネルギー再チャージ完了。もう一発喰らえ!」

 白紙委任の森守護神、グランドキャノンの陽電子ビームが、発射された。


 発射シークエンスは、触手さんより直接聞いている。


 一旦真上に放出された荷電粒子は、強力な磁力により収束され、同時に方向性を与えられる。狙いをつけるということだな。

 拡散型ではなく収束型のビーム砲だ。

 大気による減速とエネルギーロスの代価を払いつつ、目標へ到達。このような性質上、長距離射撃は理に敵ってない。白紙委任の森内部が、その有効射程範囲である。

 ここは森の中だから、効果は充分。


 稲妻を纏いながら、怪獣へ直撃――のハズだったんだけど、軌道が逸れた。

 直角に真上へ。

 逸れるにも程がある。


「あれ?」

 触手さんが素で驚いていた。


『我に同じ手は二度も通じない。……種を明かすと、強力な磁界を発生させ、その軌道を反らせた。どうだ? 物理(もののことわり)を自在に操れると便利だろう?』

 物理学を操る。人、それを魔法と呼ぶ!


「ならば、これでどうだ!」

 エティさんがブレスを吐いた。


”滅びのバースト・ストライク・オリジン”


 おおっ! これなら確実だ。なにせ物理学が発生する前の存在である古竜(エンシェント・ドラゴン)の生き残り。


『甘いな』


 ブレスの突き進む先に、暗黒の球体が出現。


「なんだと!」

 ブレスはそこに飲み込まれて消えてしまった。


『一度見た技も通用しない。我はそなた達と違って学習能力が高いのだ。……種を明かすと、これは異次元への門。超重力による空間の歪みだ。これも物理の応用である』


 怪獣に表情を浮かべる機能はなさそうだが、どうです? おじさん、すごいでしょ? 的なドヤ顔を浮かべているつもりに違いない!


「レム君、ちーとばかし、頭を下げろや」

 ガルが伏せの状態で話しかけてきた。なんだろ?


「後ろに控える魔族の皆様がよりの一斉砲火だ。巻き込まれたくなければ、身を縮めるか、射線から離れるかの二択だから好きな方選べ」

 後ろを見ると、扇状に隊列を組んだ魔族より、強力な殺気(エネルギー)反応がみられる。


「はっ!」

 ジャンプ! アンド、ダイビング!


 俺が制空権を主張する頭上を、それこそ多種多様のエネルギー弾が通過していく。

 その数、ざっと千発。


 ぶつかり合って相殺したものもいくつかあるが、おおむね、怪獣に着弾。

 光だとか毒だとか、なんか実弾とか、いっぱい命中している。これだけバリエーションが豊富だと、どれか一つくらいは……。


『無駄だと言って……まだ言ってないか。無駄であると言っておこう。種明かしを……面倒なので、推測してくれ』

 偉そうな言葉通り、怪獣は無傷だった。


「もう一斉射来るぜ!」

 長距離砲を発射し終えた前列が下がり、第二列が前に出る。

 第二撃が繰り出された。


 ……当然、攻撃は防がれる。……のだが……。


 砲撃を加える度、触手の絡みつき度合いが、確実に増えていく。

 怪獣が触手を振り払うより、絡みつく数が多いのだ。


 魔族の戦列より、第三撃目が放たれた。

 また触手の絡みつき密度が増す。


 ほほう!


 合間を縫って、魔族よりまとまった攻撃が入る。怪獣はその対応に追われ、触手への対応が遅れる。

 なんという泥仕合!

 これは体力勝負か? ならば触手さんが有利だ。


『お前達、それで我を填めたつもりか?』

「なんだと!」

 ガルが反応した。うむ、今作戦の発案者はこの人なんだな。


『仲間になるフリをして接近した触手。我がこの世に顕現するための必要要員として利用させてもらった。ジャイアント共は、お前達を誘き寄せるための当て馬だ。魔族の裏切り? ベヒモスをここへ連れてくるのにちょうどいい小芝居だ』


 話を聞いていると、魔族=ガルが立てた作戦は全て利用されたことになるのだが?

 そこまで裏をかけるのか?

 じゃ、今の劣勢は何だ?

 これは負け惜しみだな。


 一つそれをガル達に教えてやることにしよう。

「おい旧神!」

 俺は声を張り上げた。


「徐々ではあるが。確実に体力を削られている現状はどう説明する? あんたがこの世界に顕現した時点で、負けが決定してるんだよ。ベヒモスは魔族側に立ってるんだぜ」

『創世神な。削られた力は、勝利を確実にするための投資だ』


「なに言ってんだこいつ?」

 戦闘版ゲームって、将棋みたいなのか?


「レム君! 気をつけろ! 異常なエネルギーが君の周囲に存在している!」

 この声はガルじゃない。すぐ側で聞こえたのに、姿が見えない。


「キョロキョロするな! ああ、もう! 我が姿が透明なのが恨めしい!」

 足元?

 めぼしい物と言えば、さっきネコ耳さんの猫パンチで切り落とされた節足が四本ばかり、俺の前後左右に一本ずつ転がっているだけだ。


『お前というベヒモスは一旦、敵に預けているだけだ。戦闘版ゲームでよく使われる戦法だろう?』


「レム君! そこから離れろ!」

 今度はガルの声だ。俺に体当たりをかますつもりだろう。空中で牙を剥いている。


「そこからって、どこから――」


 四方で青白い光が灯った。

 落ちていた怪獣の節足が光って――うわ爆発的に!  

 目の前が真っ白になった。


 冒涜的な光は一瞬だけだった。

 光が納まると……。


「え? どこ、ここ?」


 周囲は赤黒い肉の壁。いや、上も下も。

 光は全くない。俺の視界の能力が闇の中でこの光景を見せているのだ。


「ガル先輩~! どこですか?」  


 ぽっと視界が開けた。

 視界というか、目の前にスクリーンが現れたような感覚。

 ガル達が足元に小さく見える。俺は見下ろしている?


「攻撃は中止だ! レム君が取り込まれちまった! くそう! 旧神の方が何枚か上手だってのか!」

 そんな声が聞こえる。ガルの声だ。


 視線を遠くに持って行った。

 ……あれはデニス嬢ちゃんが率いる魔族軍団。

 どういうことだ!


『どうもこうも、敵に預けていた駒を返してもらっただけだ』

 頭の中に大きな声が響く。


「旧神か! ここはどこだ!?」

『創世神な。ここは怪獣の体の中な。ベヒモスよ、お前は第三の魔物として我と合体したのだ』


 下半身が赤黒い肉に埋まっている。

 俺は取り込まれたのか?


 と、目の前で肉がポコリと盛り上がる。

 見る間に人間の姿を取る。あの美少年だ。


『ベヒモスよ、体を返してもらうぞ』

「な、なに言ってやがる! 誰がお前なんかに!」


 協力なんかするものか! 

 俺は魔族と仲間を守る為、全力で逆らってやる!


 美少年が片手を上げた。 

『腕力なぞ、何の役にも立たぬ。そら!』

 手がぼやける。空間を歪める波動を出したのだ。


「こんなもの!」

 腕を交差して凍てつく波動を防ぐ。


「おあ?」

 全身が波打った。波動が腕を透過したのだ。


 急に怠くなった。力が入らないというか、……そう、高熱に蝕まれたときの肉体感覚に似ている。


「なんだこれは?」

『ベヒモスの体を返してもらうぞ。そら』

 旧神のかけ声で、さらに力が奪われる。


『良質なエネルギーだな。四つの元素を五つの別概念に分解して循環させるか。見るのと使うのは大違いだな。新鮮な驚きだ』


 なにを……こいつは……。


『前を見たまえ。素晴らしい力だぞ』


 前? スクリーンを見ると……。

 絡みつく触手より、払われる触手の方が多い? 魔族の砲撃を回避している?

 旧神はパワー勝ちしてるのか?


 俺の動力を取り込んだのか?


『そうだ。もともとベヒモスは我の一部。君に抗うことはできないよ』


 美少年がもう一度手を振りかざす。

 歪んだ波動が俺の体を通過していく。

 体が動かない。力が入らない。体の動かし方って、どんなだったけ?


『さようなら、異界の者よ。ここまでベヒモスを育ててくれてありがとう』


 目を開けていられない。

 だめだ。俺は、仲間を、守る、そのための、体だ。


 視界が闇に染まっていく。

 どこかに、逆転する、隙が……、

 意識が薄れていく……


『隙など無いよ。君がベヒモスを乗っ取るところを見て、この策を練ったのだ。欠点はない。魔族の敗北だ。全生物の敗北だ!』


 ああ、眠い……。

 俺は負けたのか……。



 

 視界が全てブラックアウトした。





「だからよ、なにがしてぇ? 言ってみな?」


次話「異世界神」

のこり3話。

お楽しみに!

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