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16.創世神

 フェイントだよ。


 フェイントかけたら簡単に引っかかりやがったよ!


 なんだよ、なんだよ! フェイントかけた方ががっくり来てるって、なんだよ! 俺はあの色情犬に何を期待してたんだよ!

 取りあえず背後からチョークスリーパーをかけておいた。


「ちょっ! タンマ! レム君! タンマ!」

 前足で俺の腕をペシペシとタップしているが、無視!

 四つ足系は背中に乗って首締めてやると、大概は手出しできない。


「弱点……お前……卑怯……」

 もう少しで意識を刈り取れるところまで来たが、邪魔が入った。


 荒れ地を割って何本もの触手が顔を出した。


「え?」

 意表を突くとはこの時用の言葉かもかもしれない。


 忘れてた。ここは白紙委任の森内部。触手さんのフィールドだった。

 対応する前にぐるぐる巻きに縛られた。

 特に右腕が念入りだ。これじゃロケットなパンチが撃てない。


「ふふふふ、油断したな。青い犬さんとレム君」

 ずっと後ろの方で、黒いスライムが体を揺らしている。笑いを表現しているのだろう。


「カイザー・ジャイアントなんぞに、やられるチミ達だと……って聞いてるのか? おい!」

 

「おいレム君、もう少し離れろ。そうくっつかれると気持ち悪い」

 ガルと一纏めにして縛り上げられていた。それも触手でだからシャレにならない。

「ちょ、先輩、体温高いっすね。ぶっちゃけ気持ち悪いッスわ!」

 大型犬って体温高いって聞いてたけど、魔獣クラスになるともっと高いんだ。

「この程度の拘束など、俺のパワーで引き千切って……うわスゲー固い!」

「痛てぇ! バカ! オイラの体が引きちぎれるだろう! ひ弱な愛玩犬なんだから、もちっと丁寧に扱えよ! ゼリーでできたお人形を扱うようにな! あ、オシッコしたくなってきた」

 この犬をミンチにすれば、隙間ができて抜け出せるだろうな!


「お前ら聞けって言ってんだろ! 時間が無いんだよ! ちょっ! きけよぉ! あ、時間が無くなった」

 触手さんの筐体が何か叫んでるけど、こちらは気持ち悪くてそれどころではない。


 ――のだが。なんだあれ?


 ただならぬ気配。空からだ!

 該当方面を見上げると……。

 白銀に輝く未確認飛行物体(UFO)? 


「あれ?」

 空を見上げていた俺は、別の場所から危ない気配を感じ取った。それは目の前の地面の下だ。


 背筋に悪寒が走ったと言えばいいのか? いや、正気が悲鳴を上げたと表現する方が正確だろうか?


 途轍もない質量感? 存在感? そんなのが、目の前に出現した!


 地下の岩塊が重力に逆らって、空へ浮かぶ。あ、忘れてたエティオラさんも舞ってる。


 天から虹が降りて……いや、七色の光がスポットライトのように照らされていた。

 空気が揺れる。空間がぶれる。


 そこに、海棲の生物っぽい巨体が二つ。あきらかに空中、地上じゃ身体構成に不具合が出てきそうな「魔物」が空間転移してきた。


「あれは……海の影リヴァイアサン。三魔の……」

 なぜか、すっと理解した。体に馴染むように理解が付いてきた。


 三魔二体は上下垂直に並び、ゆっくりと接近。接触した。

 接触部分が光を放ち、ちょっと……こう……海棲生物から地上生物の一種とは言えなくもない何かに……軟体動物がムカデの又従兄弟の孫? に変装した?


 非常に不器用な節足動物っぽい軟体生物に変形したのだ。


 別の角度から表現すると、ゴム手袋を装備した遠隔操作型マニピュレーターでも触りたくない原初生物である。


 あ、UFOが高速で突っ込んできて、クロス。またもやまばゆい光を放ち、合体した。

 まさか、あの翼はジズの残された一部?

 無理矢理ジズとリヴァイアサンを合体させたな!


「揃ったようだな」

 声は後ろから聞こえた。


 俺の全天視野にも引っかからなかった。

 そこに視線を合わせると、一人の人間を視認できた。


 人間は美少年だ。妖しいというか神々しいというか……元々神々しいのが、よからぬ悪巧みを考えて表情にそれを出している。そんなイメージが浮かんだ。


 それより……俺はこいつを知っている。


「おまえが、旧神か?」


 美少年は慈母のごとき微笑みを浮かべ、こう言った。

「旧神と呼ばれるより、創世神と呼んでもらいたいのだがね? だめかな?」


「あ、だめだ。もう漏れる」

「ちょっ! 先輩、もうちょっと待ってくださいよ。敵の口上があと少しで終わりそうです。そしたら、電柱の所まで連れて行ってあげますから」


「聞けよお前ら! 旧神さんの立場って物も考えてやれよ!」

「創世神な」

 触手さんが一生懸命叫んでいるが、こっちだってそれどころではないのだ!


「ふははは! よく見ておけ下等生物ども!」

 何事もなかったかのようにして、旧神の高笑いが響く。どこか渇いた高笑いが響く!


 そして旧神は、高くそびえるクソみたいな生物を見上げた。

「リヴァイアサンとジズが合体した。これで二つの獣がそろった。おやおや……」

 こっち見んな!


「ご丁寧にベヒモスまで。これで三つの獣が揃った。やれ嬉しや」

 わざとらしくにっぱりと笑う旧神。美しいんだか、毒があるんだか判別に苦しい。むしろ蕩けそうな笑顔。


 解った事は、……こいつ役者的に大根だ。


 斜め後ろで控えるスライムが、どこからか扇子を取り出してパタパタ扇いでいる。

「さて、旧神どの。最後の仕上げをお願いしますよ」

「創世神な。よーしよし。それじゃ合体しようかな!」

 旧神は、変な踊りを踊りだした。


 俺には判る。

 この踊りには訳がある。これは儀式だ。


 聖教会の時に現れた、あの神様は巨大だった。だから神って巨大なんだろうと思う。

 巨大な力は巨体に宿る。

 人間の体は俺達や三魔に比べて小さい。その小ささじゃ、神の巨大な本体は入りきれないだろう――


「なあレム君、ほんとにやばいんだけど」

「もう少し我慢してください」


 ――だからスケールダウンして入るしかない。スケールダウンすれば、能力に制限がかかる。

 よって、三魔と合体するには、能力を補うための儀式が必要となるのだろう。

 これくらいなら俺にも判る。

 合体が完了する前なら、容易くたたける。

 この戒めを何とか解いて……。


「レム君、ダメ! それ以上動いちゃダメ!」

「ああああ、この駄犬がぁー!」


 目の前で旧神の体が光に分解。虹の橋となって空へ駆け上がる。

 上空で一層明るくなった虹は、真っ直ぐ怪獣へ降りていく。

 結構長い間、降りている。

 いまを逃したら、旧神が復活する!

 俺の仲間が、あああ、死んだり傷ついたり……。


 ここはやはり力ずくで――!


「やめとけ」

「ぐっ!」

 俺の体に触手が絡む。より強く絡む。


「いや、ホント圧力かけないで。もう限界なんだってば!」

「この程度、引き千切って――」


 さらに触手が絡む。蓑虫状態というか、簀巻き状態というか。


「不滅の巨人レム君。チミはこの程度で止められる存在じゃないハズなんだがね」

 いや、だからそれは、バカ犬が間に挟まってさ……。


 てか、ここは一つ説得のコマンドを使用してみよう。

「目を覚ましてください、触手さん! いま旧神を倒さなきゃ、取り返しのつかない力を持ってしまうんですよ!」

「だからさ」

 スライムの体が揺れた。笑っているようだ。


「だから降臨してもらうんだよ」


 やっぱ説得はダメだ。力尽くで引き千切ってやる!

 五行ロータリーエンジン全開!


「熱いって、レム君熱いって! 漏れちゃくから、これ以上気をそらさせないで!」

「いやだから、失禁と全世界とどっちが大事なんですか?」

「失禁に決まってんだろ! こんなトコ嬢ちゃんに見つかったらそれこそオメェ、顔向けでき……あ、やば!」


「レム君はもっと強いハズなんだがねぇ? この程度の力しか出ないんじゃ、離しても同じだろう?」

 黒いスライムは腹を抱えて笑っていた。だから、そうじゃないんだってば!


 怪獣の目に知性が宿った。合体完了かよ!


 旧神の宿りしパーフェクト怪獣が俺を視認した。

『さてベヒモスよ。あとはお前を取り込めば、三つの魔獣が揃う。完成型となる。デザインはアレだがね』


 巨体を捻り、俺に向かって節足らしい気持ち悪いのを伸ばしてきた。

『生きとし生きる者、全てを抹殺せん!』

「触手さん、離して!」

「出る出る! もうらめぇ~!」

 終わりか? 詰んだのか?


 黒いスライムは、また俺に話しかけてきた。

「いいかい、レム君? 小さな人間に入ったのは、旧神のほんの一部でしかない。これを叩いて滅したところで、旧神そのものへのダメージは微々たるものだ」

 何を……言っている?


 怪獣の節足が、もうそこまで迫っていて……発射したー!

 四本の気持ち悪い節足が、首元めがけて飛んできた。

 顔を背けてしまう。


「あたる! 気持ち悪い!」

 で、当たらない。当たってないよ?


「にゃっはっは! こんなトロこいスピード。簡単に弾き飛ばせるのにゃ!」

 ……あれ? ネコ耳さん?



 どういうこと?




「グランド・キャノン発射!」


あと、五話でグランド完結です。


次話「集結」


お楽しみに!

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