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15.……フェンリル狼・ガル


 大地が揺れる。

 木々が薙ぎ倒される。

 岩が転がり、土砂が崩れる。


 カイザー・何とか……カイザー・ジャイアントが暴れるからだ。


 身長二百メートル(目測)。体重は推して知るべし。

 普通の生物じゃ、存在するだけで自滅するだろう。そこは不思議補正が掛かっているのだろう。さすがカイザー。


「旧神は、我らをただの傭兵として使い潰すつもりだったのだろうが、残念だったな。我らはその上を行かせてもらおう!」


 カイザー・ジャイアントが笑っている。顔は髭モジャ。美術室の彫刻にあるギリシャ人の胸像みたいなイメージの中年だ。


「僅かばかりの個を捨てることにより、大多数の個が本来の力を取り戻す事ができた」


 ああ、解るよ。

 作戦ドンピシャだったんで、よほど嬉しいのだろう。こちらから聞く前に解説してくれている。仲間を生け贄にして、ご神体召喚か。


「いまだ力のほとんどをアストラル界へ置き去りにしたままの旧神変わって、我がこの世界をいただくとしよう。旧神の悔しがる顔が目に浮かぶようだ。ウハハハハ! てい!」


 ギリシャ風中年は、笑いながらパンチを繰り出した。

 瓦割りのように真下へ振り下ろされる巨大な拳。


 それも連打。


 俺はホバー全開。ガルは、……なんだろう? 見た目、ほぼ瞬間移動? な運動能力で回避している。


「推測するに、エルダー・ジャイアント共は先見兵と同時に、生け贄要員だったみてぇだな。オイラ達が殺せば殺すほど、早くそして強くこの世に顕現できる。いわゆるお利口さんだ。おっと!」

 ガルは、カイザーのパンチ攻撃を際どいところでかわす。


「大男、総身に知恵が回りかね。おっと!」

 危うく踏みつけられるところだった。


「チョコマカチョコマカと!」

 カイザーがお怒りだ。


 この体格で空中移動できて、俺達並に素早い動き。体重の乗った一撃を繰り出してくる。

 反撃の隙を与えないストロングスタイル。


 腕を取っての関節技。いっそロープへ降ってから打撃技に転じるか?

 いや――。


 おそらく……これは俺のカンだが、こいつにプロレス技は通じないだろう。

 くっ、なかなかやるな!


 降臨したばかりなんで、自分の身体能力を試したいんだろう。それゆえの肉弾攻撃。

 エルダーでジャイアントでカイザーなんだから、光線兵器とか、広域破壊兵器なんかを搭載しているはずだ。

 これを使われたら太刀打ちできない。


「レム君! 後ろ後ろ!」

 しまった! 考え事をしていたら、いつの間にか! 

 カイザーの巨大正拳突きが、俺のすぐ側に迫っていた。


「おっ! おぁー!」

 脊椎反射で(脊椎あったっけ?)グラビティ・スタンピート・バニシング・ゲイザー・重力マシマシマシを水平発射。


「技名を叫ばなくても撃てるんじゃねぇか」

 ガルのツッコミを横に流しながら、ロケットなパンチが、カイザーの正拳突きと正面衝突。


 お寺の鐘(立派なの)を突いた音色が辺りに広がる。余韻の波紋が並のように広がっていく。


 激突の後に重力波干渉。

 激突面を中心に、同心円状の歪みが空間に現れた。


 最初、垂直だった歪みの波紋は、俺の方へ湾曲。バニシング・ゲイザーを弾き飛ばしやがった!


「え? 押し負けたの?」

 帰ってきた右手が合体。突風が吹き抜けていく。重力波の湾曲が風を起こしたのか?


 って解説はもういい!


 見上げると、カイザーが両手を合わせて拝んでいた。

 いや、これは攻撃の準備だ。合わせた手のひらから光が漏れている。


 手を広げていくと、それにつれて光の槍が形成されていく。


 やられる!


 アダマンタイトの体なのに自信が無い。


 カイザーが目を剥いた。

「これは滅雷の槍。巨神よ、お前の体がどんな物質でできていようと、魂レベルで分解してやろう」

 その手には、雷でできた槍が握られている。


 五行ロータリーエンジン全開! リミッター解除!

 気合いが入っていたからだろう。過去最大級の熱量が胸の奥に生まれた。


 滅雷の槍投擲。

 零時間で右腕が回転。

 槍が迫る!


「グラビティ・スタンピート・重力マシマシマシマシマシ!」


 パンチは飛ばさない。腕にくっついたまま高速回転。そして滅雷の槍を殴りつけた!

 雷の槍と漢の拳。ぶつかった面から火花と稲妻が弾けて飛び出していく。


 槍をはじき飛ばせない!

 もっと回せ! もっと!


 熱い! 体熱い!

 負けるものか!


「レム君逃げろ! そのままじゃ、体が溶けるぞ!」

 ガルが安全な場所から叫んだ。


 確かに、アダマントの体がゆっくりと溶けだしている。


「まだまだー!」

 あれ? 関節がギクシャクと……。


 滅雷の槍はほとんど消えている。後もう少しの踏ん張りだ。

「ダラッシャー!」

 気合いで踏ん張ってたら、なんとか滅雷の槍が消えてくれた。


 打ち勝ったんだ!

 ここから反撃……って、あれ? 体が動かしにくい?


 関節が溶けて、くっついたんだ!


 右腕を突き出していたから、右半身を中心にして動きが悪い。かろうじて左腕が自由なだけだ。


 ゴーレム体質な俺は、時間をかければ元通りに修復できる。

 だが、その時間は無いだろう。主としてカイザーの都合で。


 俺のそんな状況を見て取ったか、カイザーは余裕ぶっこいてる。ゆっくりと俺を仕留めようとして、肩を慣らしている。


 次の一撃喰らうと……でかいダメージが通る。それこそ戦闘不能になるような……。

 や、やられる前にこっちから!


 左腕を変形させた。

 終わってから後悔すればいい!

「ストリートでならしたこの上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾!」


「待ちな」

 目の前に舞い降りたのは、青い影


「先輩?」

 ガルが射線上にふらりと現れたのだ。


「レム君にとって、ストリートでならしたこの上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾は、殺すための兵器じゃないんだろう? 守る為の物なんだろう?」

 ガルはきりっとした顔で、カイザーと向かい合う。

 そんなことお構いなしにカイザーは、滅雷の槍を投擲した。


「過ちは、最初に山を消し飛ばした時だけでいい。エターナルグレイシャー・バリアー!」

 ガルの体から青い光が溢れた。


 滅雷の槍が突き刺さる。

 白い光の爆発。ガルの体は、俺の頭を越えて後ろへ飛んでいった。


 三度ほどバウンドして、止まった。

 ガルはぴくりとも動かない。目を閉じて舌を出している。胸だけが細かく上下運動していた。


「先輩!」

「大丈夫だ。あと二回は大丈夫だ」

 ガルは平気そうな声を出したが、これは相当無理をしている。


「やろう!」

 カイザーは、二撃目の槍を手にしている。

 俺だって、仲間の一人や二人は守れるさ。


「ストリートでならしたこの上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾!」

 迷いはしない。

 俺は、こいつを攻撃目的で使うく!


 発射された弾丸は、カイザーの胸に向かって一直線に飛んでいく。


 着弾!

 不発!


「あれ?」

 目が飛び出しそうになった。


「愚かな低脳児め。我は旧神が理を定めし前よりの存在である事を忘れたか!」


 それって物理法則が通用しないってコト?

 カイザーのフィールドでは、ストリートでならしたこの上なく呪われた形容しがたい忌まわしき這いずる元素融合弾が作動しないって事か?


 カイザーは、幻滅の槍を肩の上にまで持ち上げ、投擲ポーズを取る。

 逃げるにも足関節が固まってて動けない。だいいち、重傷のガルをほって逃げるわけにはいかない。


 あ、詰んでる。これはあかん!


「うっ!」

 なんだ? 白い光線が視界を斜めに横切っていったぞ!


 カイザーの胸をあっさり貫いた。背中から抜けた光の束は、空の彼方へと消えていく。


「まだ我は――」

 カイザーの言葉はそこで終わった。


 胸にぽっかりと空いた穴から、光を反射しない黒い球体が発生。

 上半身を飲み込んだ球体。カイザーの下半身と腕を折りたたむようにして吸収。そして消えた。

 なんかX線ぽいのを大量に放出して。


「最後の一発は旧神用に残しておいた物なんだけどな……」

 上半身だけを持ち上げ、首をもたげた竜人さんこと、エルダー・ドラゴンのエティオラさんだ。


「後は任せた――」

 ドウと腹に響く音を立て、エティオラさんは、その長い首を地面に投げ出した。


 これは? いったい?


「ガル先輩。俺への説明が足りなかったようですね?」

 訳の分からん事象は、百%ガルがらみである。


 あれ? 答えが返ってこない?


 ガルが横になったまま……、動いていない? 胸の上下運動すら停止している? 


「先輩ーっ!」

俺の叫びが、叫びだけが、荒れ地を突き抜けていく……。














「あ、デニス嬢ちゃんだ!」

「え? どこ? こっちに来たの?」

 ガルはむくりと身を起こした。  



「おまえが、旧神か?」


次話「創世神」


おたのしみに!

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