14.激突! デカイのと、もっとデカイの
ここは白紙委任の森の先端部。二つの角の付け根から、数十キロメットル内側に入った森の中。
エルダー・ドラゴン、エティオラこと竜人さんの背後に、多数のジャイアント軍団。手に手に武器を携えている。
竜人さんが眠たそうな目をしながら、こっちを見ていた。
「君がレム君か? 早速だが死んでもらうよ」
「ちょいと待ちな!」
ジャイアントの中でも、頭一つでかいのがしゃしゃり出てきた。
「千人長のヒラハッタだ。ゼンダインを倒した魔獣はお前か? ちょいと相手になってもらおうか」
品の悪そうな笑い顔。ちょっと関わりたくないなタイプだなぁ。
「レム君ご指名か? じゃオイラは横で見てるだけでいいよな?」
俺の考えを言おうか?
何とかしてガルを盾にできないかな?
「旧神に与えられた指揮官は僕だよ。なに勝手にしゃしゃり出てくれるかな?」
竜人さんの目が半眼になっている。これはこれで怖い。
「旧神の命令なんか関係ねぇだろう! 俺の方が年上だぞ! 年長者の意見を聞けよ小僧が! 生意気な口を聞いてんじゃねぇ!」
おや仲間割れか? こりゃ好都合だ。どんどん争っておくれ。
「ふー、やれやれ。めんどくさい人だな」
竜人さんが首を左右に振った。半眼と相まって非常に小憎らしかった。
「千人隊長と僕。どっちが上か、解らせてあげてもいいんだよ?」
「おもしれぇ」
ヒラハッタンが刀を構えた。
竜人さんの目が、自慢げに吊り上がった。
「僕の状態異常魔法は凄いんだぞ!」
「ははっ! 状態異常? 人間のスペルだな。遅延魔法がこの巨体に効くか、やってみろコラ!」
ヒラハッタンは余裕をぶっかましていた。
竜人さんは呪文に入った。
「状態異常! 腸内環境悪化! ゲーリー様降臨!」
「うぐぅ!」
あ、利いてる。
「コンボ! アヌス神を生け贄に捧げて筋肉弛緩!」
「あ、ちょと、それタンマ!」
ブリブ……(しばらくお待ちください)
(しばらくお待ちください)
オプチカル処置中です。
(しばらくお待ちください)
「さて、君がレム君か? 早速だが、死んでもらうよ」
何も無かった。
一般ジャイアント、竜人さん、ガル、この場の全員が何も無かったことにしている。
エルダー・ドラゴン、エティオラこと竜人さんの口に青白い光の粒子が集まってきている。
「ちょ、ストップ! ストップ!」
竜人さんの口先で、複雑な魔方陣が幾重にも形成されつつあった。
ジャイアント軍団は、俺達を包囲すべく左右に分かれて展開。ブレスが外れたら、即物量作戦に移るつもりなんだ。
「ここはオイラに任せて、レム君は竜人さんを頼む! たー!」
……ガルが逃げた。
”滅びのバースト・ストライク・オリジン”
引き裂かれた時空の悲鳴だろう。生物だったら確実に鼓膜を持って行かれる発射音と共に、ブレスが発射された。
眼前に迫る白色彗星。
「グラビティ・スタンピート・バニシング・ゲイザー!」
緊急発射! 超重力波を纏ったロケットなパンチを撃ち出した!
こいつは酷でぇ性能だぜ! ゴルバリオンのロケット弾五百本以上を一度にたたき落とした改良版だ!
中間地点で二者が激突。
光とか闇とか稲妻とか、なんか変なのがいっぱい出てきた。風とか重力とかエネルギーとかの混ざった嵐が発生した。
俺は、フート部分に重力を増築して、翻弄されるのを防いだ。
なんつーか、こう……「薙ぎ払え!」の後的な静寂が訪れた。
顔面をカバーしていた両腕をゆっくりと下げた。
緑の森、実は触手さんの触手を吹き飛ばし、黒々とした土が剥き出しになっていた。
黒い土質は栄養豊富な証?
いわゆるクレーター状? 直径……視界の続く限り?
いやいやいや――。
竜人さんの閉じられた口から、白煙が上がっていた。
その姿は目を閉じ、ダメージに耐えている姿。
背中の翼に穴が空いている。ボロボロ状態?
竜人さんはゆっくりと目を開けた。
俺を見つめる目に、先ほどまでの光りは無い。
グラリと上体がかしげ、ドウと倒れ伏した。
あれ? 打ち勝っちゃった?
「あーあ。めんどくさかったんで勝負を急いじゃった」
鋭いかぎ爪を僅かに振り上げ……。
「通常攻撃から入ればよかった……がく!」
腕が力なく落ちた。
竜人さんの目が、ゆっくりと閉じられた。
え? 勝ったの?
「レム君! 油断するな! エルダー・ジャイアントの皆さんが残っている!」
ガルが俺の背後から飛び出した。
一旦散ったジャイアントの皆様が、四方より攻めてきていたのだ。
青い犬は、お座りしたまま後ろ足で顎の下を掻いていた。
「あれ? ガル先輩、俺の背中に隠れてましたね?」
「細けーこたーいいんだよ! 敵を殲滅するのが先だろ!」
ああああああ、俺にばっか戦わせる気だろう! そうはいくか!
「絶体絶命の危機を乗り切ったらデニス嬢ちゃんの――」
「任せろ! たー!」
ガルが、ジャイアントの群れに突っ込んでいった。
さすが! 女が絡むと戦闘力が三倍になる男。頼りになるぜ!
「俺はこっちを!」
肩のパネルが音を立てて跳ね上がる。
「ディオ・スパーダ!」
全弾発射! 同時に右腕を回転! 連続攻撃だ。
「グラビティ・スタンピート・バニシング・ゲイザー!」
こいつは超重力の波動をばらまくロケットなパンチ。
ジャイアントの群れの一角に、ディオ・スパーダが着弾。地を掘り返し、巨人共を舞い上がらせる。そこのど真ん中に超重量な鉄拳が突き刺さる!
バラバラと落下する残酷現的な何か。
四方の内、一方が崩れた。
その左側……は、ガルが嬉々として蹂躙していたので、右側に突撃!
迎え撃とうとして、手にした武器を振り上げるエルダー・ジャイアント達。そこへ、このタイミングで撃ち出した右手が帰ってきた!
慌ててブレーキをかけるジャイアント達。遅い! つーか、予想しろよ!
「グラビティ・スタンピート・バニシング・ゲイザー! 重力マシマシ!」
もはやマップ兵器と化したバニシング・ゲイザー。
突き刺さった地点を中心に地殻が盛り上がる。某人型兵器に薙ぎ払われた昆虫型絶対生物が、宙に舞う絵の再現がなされている。
せめて、見応えのある絵だったと言っておこうか!
「おおおお!」
大きく振りかぶって最後の一角、後方に向けて吠えた!
……左翼を貪り尽くしたガルの餌食になっていた。
「嬢ちゃんのためにワオワオワオーーーーン!」
勝利の雄叫びだ。非常にどす黒い雄叫びだ。
結果はどうあれ、勝利に違いない。
辺り一面、エルダー・ジャイアントの死体で埋め尽くされている。
これどこの地獄の一丁目だよ?
「なあレム君」
ガルは、叫ぶだけ叫んだら冷静さを取り戻した模様。
感情が高ぶると叫んで冷静さを取り戻すタイプらしい。泣き叫ばれたり爆笑されるより幾分マシである。
小首をかしげて可愛い子ぶっているが、口腔を中心に血みどろとなっていたので、本人が思っている以上に可愛くない。
「この惨状を利用したら、魔神の一匹や二匹、召喚できるんじゃねぇかな?」
その発想はなかった。
「あり得ますね! たしか、強い存在をこの世に召喚するにはより多くの生け贄が必要って、先輩が言ってましたもんね!」
ズズン!
「おう!」「あう!」
生け贄の大地が揺れた。
「何がいったい――うぉ!」
慌てて飛び退ける。
俺の足元から地面を割って大木状の何かが……触手だ!
「あ、こっちも!」
ガルの背後からも、俺が移動した先の地面からも大型の触手が、天に届けとばかりに勢いよく飛び出してくる。
十本や二十本じゃない。三十本か四十本だ! 全部足元から飛び出してくる。
「待避だ! 待避!」
高速度を生かしてジグザグに飛び跳ねるガル。触手のことごとくを避けていく。
俺はホバーを吹かし、直線ながらも速度で触手の追撃を振り切っている。
「忘れていたが、ここは触手さんのフィールド! 一旦森から出るぞ!」
「ラジャー!」
北の荒れ地に向かって……触手の壁がそびえているよ!
「逃げ道を断たれたってわけかい! 油断したぜ!」
ガルが苦い顔をするのは、小芝居以外初めて見たぜ!
周囲を囲まれたか! 地の下は触手が根を張っている。
残りは上か?
何かないかと空を見上げて……。
「先輩! アレ! 上! ほら!」
「おっ、さすがレム君。何かいいの見つけたか! 違げーだろアレ!」
上空からどす黒い気流が降りてきた。どう見ても状況が悪化するタイプの現象だ。
どす黒い気流が大地に接触。叩き付けられるような音を立てた。
実際、衝撃が発生した。俺達はエルダー・ジャイアント共の死体が宙を舞う光景を目にすることとなる。
「なんすかこれ? さっきの戦いが原因でダウンバースト?」
「だったらいいのにな。あそこ見てみな、仰角60度だ」
ガルが示す空域に視線を移動する。
「なあに、あれ?」
空中に漂う物体が……。こう、白い……人型っぽい……あるいは人型っぽいのを形成するための部品?
「まさか、エルダー・ジャイアントの死体の皆さん?」
「そんなこと観察する暇あったら、ここからずらかる手立てを考えろや」
空中に舞い上がったエルダー・ジャイアント。数百の死体が、渦を巻いておられる。
それはすぐに渦の中心部へ集まっていき、ぐっちゃんぐちゃんに一塊となった。
白い粘土を捏ねるように、団子状と成り、アメーバー状へと変化していった。
もう一度団子状になった。数百人の巨人が固まった団子である。でかい。ドーム球場何個分だろう?
触手の攻撃が止んでいる。触手さんも、アレを見ているからだろうか?
と、突然その団子が発光した。
「眩しい!」
とっさに視界に遮光フィルターをかけたが、それでも眩しい。こいつは物理的な光じゃないぞ!
脈打つように、二度三度と発光現象が波打っている。
「おや」
光は、発光しだしたのと同じくらい唐突に消えてしまった。
「竜人さんじゃないが、めんどくせぇ事になっちまったぜ」
ガルが見上げるのを諦めた。
「確かに」
光っていた空域に、嫌なのが浮かんでいた。
でかいなー。
全長二百メートルほどあるんじゃないか?
古代ギリシャの布を巻き付けた、例の服みたいなのを纏っている。
背中に白い羽を六枚ばかり生やした、偉そうな生物っぽい何かが、俺達を睥睨していた。
「我はカイザー・ジャイアント。エルダー・ジャイアントの総意にして、統べる王である!」
なんかホント嫌だなー。
「さあ、無慈悲に殺してあげよう」
こっちを怖い目で睨んでいた。
俺は肩をすくめてこう言った。
「どうします先輩? あいつ勝った気でいますよ」
「教育の必要があるな」
ガルは片方の耳を激しくピコピコさせていた。
ガルが横になったまま……、動いていない?
次話「フェンリル狼・ガル」
おたのしみに!