13.レム君のヒ・ミ・ツ♪
やあ、レム君だよ!
ネコ耳さんをさっくりと下した後、扉がもう一度開かないかな? と思って、しばらく待機していたがダメだった。扉は固く閉じられたまま。開く気配がない。
「……先に進むか」
ネコ耳さんが言っていた。ガルにも強力な魔族があてられていると。
万が一、最高戦力とされている竜人さんと当たってたりしたら大変だ。
……いや、舌先三寸で神をも騙すガルのこと。心配はいらないだろう。
だったら先を急ごうか、と歩き始めた時だった。
前方の壁に揺らぎが生じ、ぼろりと固まりを吐き出した。
「いよお、レム君。無事だったか?」
それは青い狼。
「先輩! よくぞご無事で!」
小憎らしいまでにガルだった。
「バカヤロウ! 眉目秀麗頭脳明晰品行方正のオイラが負けるわけねぇだろ! むしろレム君を心配していたぜ! 魔族の先達としてな!」
「品行方正かどうかは別の機会に黒皇先生とサリアさんを交えてじっくり話をするとして、ご心配お掛けしました。俺は大丈夫です」
「襲撃者はだれだ?」
「ネコ耳さんです。後ろの、二つほど角曲がったところで気絶したまま放っぽといてますが、ご覧になりますか?」
「ふん」
ガルはちょっとの間だけ逡巡するように考えてから口を開いた。
「……それはいいや。それより先を急ごうじゃねぇか」
ガルは踵を返して歩き出した。
「急ぐなら走りましょうか?」
「うーん、その必要はねぇだろうな。この空間じゃ、走っても歩いても大差ねぇんだ。今の時間は、失った体力の回復と、情報交換にあてるとしよう。オイラが戦った敵は透明人間さんだった。手こずったが無難にかたづけておいたぜ」
何か仕込んでそうなガルだが、まあいや。
「俺は危なげなく逆転勝ちですよ! てっきりネコ耳さんは獣耳要員として残るのかと思ってたんですが、ここでストップですね」
ガルがピタリと立ち止まり、尖った耳をピコピコ動かしながらこう言った。
「オイラじゃ不足か?」
「まずは6つの災害魔獣プラスの戦況を確認しようか」
あの後色々あったが、いまは落ち着いている。もう大丈夫だ。
「 レム君とオイラはネコ耳さんと透明人間さんを抜いた。雷獣さんは残念ながら竜人さんに負けた。
鳥さんは空中浮遊要塞さんと交戦中。長引きそうだ。
深海さんは触手さんトコの艦隊を蹴散らし、現在リヴァイアサン・マークⅡとⅢっぽい物体を追跡中。
白紙委任の森魔王城に乗り込んだ白面鬼さんは、ゼフの精鋭と交戦中。これも長引きそうだ。」
二勝一敗……二分け? 深海さんは……棄権か?
「デニス軍団やや優性ってところか?」
魔族正規軍をデニス軍って呼ぶなよ。まるでデニス嬢ちゃんが魔王みたいじゃないか。
「次にこの迷宮のことだ」
ガルは左右の壁をぐるりと見回した。
「迷宮の回廊は旧神が作った物だ」
「え? なんですと?」
驚いた。さらりと重大なこと言った行為に驚いた。
たしかに、この迷宮は謎だらけ。歪んだ空間に正体不明の管理人、初回限定公開戦闘付き。
「先の魔神対戦のおり、旧神が自分の陣営のために造った回廊だ。特に足の遅いベヒモスの高速移動を主目的に造られた物らしい。
あの戦法には魔族も苦汁を飲まされた。
ちなみに初回限定の戦闘試験は、侵入者のスキルを記録するためのものだ」
「え、だとすると、皆さんの能力は詳しくレポートされていると?」
「まあな。でも巨体ゆえ入ることのできない空中浮遊要塞さんや、自分で飛ぶ方が速い鳥さん、その他は入ってない」
そりゃそうだ。海洋生物たる深海さんや、現在絶賛敵対中の触手さんも入れないだろう。
あ! てか、それ不味いんじゃん! 筒抜けじゃん!
ガルともあろう者が、気軽に戦いの推移や作戦の内容……。
いや、いやいやいや!
ガルのことだ。ここを使うことや、ここでの会話が筒抜けなのも、全て織り込み済みなんだ。
……そういや、迷宮で記録が取れていない同志の、空中機動要塞さんと鳥さんが戦っているのは偶然だろうか?
リヴァイアサンを追いかけている深海さんも記録が取れていない。
何か焦臭いぞ。ガルが示唆する一駒一駒がパズルのピースみたいに見えてくるぞ!
「ついでに言うと、ここでの会話も記録され、適時旧神へ転送されている」
この説明はガルの一押しだ。裏に気づきかけている俺へのメッセージだ。
よく解らないけど、この迷宮での会話もそれも旧神を追い詰める作戦の一つなんだ。
よし、ここは一つ、気づかぬフリをして話に乗ってみよう!
ってな事を考えていたところ――。
「そういうこった」
ガルが牙を見せた。口角を上げたのだ。元々笑みとは、獲物を前にして歯を剥く仕草の名残と言われているそうな。
俺が理解したことを感知した合図だろう。
「へー、……すげぇっすね」
迷宮が、ではない。ガルが、だ。
「まあ、もっとも、エルダー・ドラゴンである竜人さんが、旧神側に付いた点が想定外だったな。
絶対こっちに付いてくれると思ったんだがな。旧神から、アプローチがあったのかな?
なんにせよ、攻略方法を考えなきゃならねぇ。竜人さんは、旧神より厄介だ」
竜人さんは魔族ではない。古の種族の生き残りだ。旧神に一族を滅ぼされているから、無条件で魔族側に付くと、俺も思ってた。
油断を突かれたか?
「戦いへ向かうにあたり、レム君にお知らせしておきたいことがある」
なんだろう? まだ何かあるのか?
ガルは、俺に背中を向けたままだ。足を出す度、背中の筋肉が動いているのを俺は見続けている。
「レム君、君のその体は、三魔の一つ、ベヒモスと呼ばれる魔物だった物だ!」
「はあ……え? うん? はあ?」
「なんだその気の抜けた返事は!」
ガルはこっちを向いて吠えていた。俺の返事が気に入らなかった模様。
「いや、先輩、なんとなくね。そうじゃないかと思ってたんで……」
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし、心当たりあるけど、……外れていてほしいって希望もあったが、まあいいや。
「面白みのねぇ野郎だな。……まあいや。話を続けよう」
ガルは俺に並んで歩き出した。
これは、アレだな。作戦に関係ないな。旧神に聞かせてもいい内容だ。
いや、作戦に関係あるのかな?
とりあえず、平静を装いながら、かねてよりの疑問を聞いておこうか。
「じゃ先輩、俺が目覚めた洞窟ってベヒモスの格納庫だったんですかね?」
ゴーレムっぽい土の三体と戦って、えーと、どんな順番だったっけ? 風のジン、火のイフリート、水のリヴァイアサンだったっけ?
土と風と火と水の四大元素を取り込んで、ようやく強力なゴーレム? ベヒモス? になれたんだよな。
「あの洞窟、変だろう? 地上から入れば、エネルギー源である四大元素獣を倒して、三つに分かれた弱い本体を倒して、辿り着いた先は行き止まり。
実は逆だんったんだよな。攻略手順が」
じゃ、俺のが正解だったのか。
まず、最深部の頭脳ゴーレムに憑依して、三機合体、四大元素エネルギーをチャージする。完全形態になってから外へ出て行く、と。
「あ、先輩、そろそろ出口ですよ」
外へ出ると出口という言葉が重なったが、これは偶然である。上手いこと言おうなんてこれっぽちも考えてない。
「どこかで上手いこと言えた感が何故かするんだが気のせいだろう。よし外はいきなり白紙委任の森だ。ここからは飛ばすぞ! 回廊での会話は筒抜けだが、なあに! 今回は用意周到な電撃作戦だ。敵の準備は間に合わねぇって!」
「了解っすよ! ネコ耳さんや透明人間さんが足止め役をしたせいで、迎撃態勢が整っていそうな気がしますけど、一気に突っ走りますよ!」
五行ロータリー機関起動! 戦闘準備万端!
「行くぞレム君! 無謀神よ我らにご加護を!」
「合点承知! 無謀神の名の下に!」
俺達は必要以上の速度をもって次元の闇をくぐった。
「おりゃー!」
「ちぇーす!」
眩しい日の光。
芽に鮮やかな緑の森。
戦闘形態の竜人さん。
ちょっと数えるの嫌になりそうな数のジャイアント軍団。
ばっちり迎撃されていた。
「君がレム君か? 早速だが死んでもらうよ」
次話「激突! デカイのと、もっとデカイの」
おたのしみに!