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魔族による 8.デニス・ファイト


 白紙委任の森、西側に存在する王国ダッガー。


 ダッガー騎士団は、以前より触手ノ王カムイの活性化を観測していた。

 よって、事ある時の軍展開は速かった。


 ダッカー王は、刻々と変化していく触手の森を観察していた。

「しかし、どうにもならんな」


 王が直接軍を率いる、いわば親征軍である。

 五千の軍を遙かに超える規模で、触手が蠢いていた。十キロメットル以上離れた本人からでも見えるってどうよ?


 ダッカー王はできた王である。

 全軍の兵士が意気消沈している中で、一人気を吐いていた。



 白紙委任の森、ダッカーとは反対側の東側、オトリッチ公国。

 こちらも、王が直接率いる三千の軍を白紙委任の森に沿って薄く展開させていた。


 迫り来る触手の群れに対し、金属武器、火、魔法、攻城兵器、その他考えられる全ての物質を持ち防御戦を展開していた。


 そう、防御戦である。


 どう転んだって、逆立ちしたって、触手ノ王には敵わない。

 極限まで楽観主義を肥大化させた者以外、軍崩壊の予想をせぬ者はいなかった。


 もはやこれまでか、陛下お供致しまする。おお、その方もこれまでよく働いてくれた。まずは私が一当て致し、あの世の露払いを致しまする。

 そんな汗臭い男共の会話がなされていた。


 そんな時である。

 オトリッチ軍の背後より現れた巨大魔獣の群れ。


 まさか、我が軍の戦い様を見て加勢に現れたか? 獣ながら天晴れな心がけ――。

 ――とはいかず。


 背後よりオトリッチ軍を蹴散らしながら、触手の群れへ突撃を敢行した。

 いわゆる軍と呼べそうな魔獣の集団と触手ノ王の戦いのゴングが鳴らされたのである。


 

 同じ戦いが、ガバゴス、ブラッカ、ドラン、各王国で繰り広げられていた。

 同じよーに、魔族の大軍が人間の軍を蹴散らし、あるいは無視し、触手ノ王に突っ込んでいった。

 人知を斜め上に大きく外した超バトルが繰り広げられる事となった。




 ここ、コア帝国の南部でも、帝国軍と触手ノ王との決戦の火蓋が切って落とされていた。


 中興の祖として名高き武烈帝クリスト神王より下って五代目の王が、軍を率いていた。


 白紙委任の森による浸食で遷都し、そのせいで国力の低下を招いたとは言え、腐ってもゼルビット方面に覇を唱えた帝国である。

 純戦闘要員だけで五万人を動員した。

 現在、絶賛蹴散らされ中である!


「右翼! 飛び出しすぎだ! 元の位置まで下がれ!」

 もう一つ軍運用に暗い現王に代わり、勇ましく指揮を執るのは、あの勇者である! 女にだらしないが!


 先日リバイアサンとの一戦で死んでしまったが、コア帝国の神殿で復活を遂げたのである。所持金は半分になっていたが。


「せめて、仲間がいてくれたら」

 勇者は、パーティ1のナイスバディを誇る女戦士の体や、女格闘家のちっこいけど引き締まった体つきや、お姉さんタイプの女賢者の体、未だ恥ずかしがる女魔法使いの体や、上から目線の女僧侶の体を思い浮かべていた。


 妄想……もとい、歯噛みしていても仕方ない。触手ノ王は魔王を倒す前のボスキャラ!


「喰らうがいい! 神の怒り! パトリオット・オリュンポス・リバース墜とし!」

 ぶっとい雷が触手の群れに落ちた! 勇者オリジナルの雷撃系極大呪文である。


 バラバラと散らばる触手の破片。

 ところが、散らばった触手以上の数の触手が地を割り生えてきた。


 これでは、ヘタに触手を刈り取っても、戦力を増強されるだけである。

 触手は、半島大陸の八割以上の面積に密生している。その質量が全てここに押し寄せてくるのでは? 


 騎士、兵士の間に迷いが生じた。その迷いは、厭戦気分となり全軍に広がっていった。


 そして決定的な事案が発生。  

「後方に魔獣が現れました」

「なんだと!」


 巨大タイプの魔獣が十二匹確認された。

 前面の狼、肛――後門の虎。

 軍が総崩れにならなかったのは奇跡だった。


「見てください! 先頭に人がいます!」

「むっ!」


 物見兵が指す方向。黒いドラゴンの前。黒い馬に乗った少女らしき小さな姿。勇者は、それが少女である事を特殊なスキルで確認した。 


「少女が魔族を率いている? 魔獣使いの一族か?」

 勇者の、その一言がいけなかった。


 目の前には勝てそうにない大魔獣・触手ノ王。後ろには、ひ弱そうな子供に率いられた魔獣が十二匹。


「かかれー!」

 左翼の部隊長が、勝てそうな相手を敵と定めた。


「まて!」

「オオーッ!」

 勇者が止めるのも聞かず、全軍が雪崩をうって少女が率いる魔獣の群れに突撃を敢行した。


「一番槍はオビス隊がもらったー!」

 立派な羽根飾りをつけた白銀の騎士二十四騎が、先頭の「黒馬」にちょこんと乗った少女に向け、ランスを構えた。


 鎧を装備した軍馬と、超重量フルプレートアーマースーツに身を固めた騎士の総合質量に速度を掛け、光り輝くランスの先端にその破壊力をのせた騎乗突撃である。

 地上においては竜種であろうと、深刻なダメージを与える人類の必殺技の一つである。


「新たなる神よ! 御照覧あれ!」

 あの神に祈り、地響きを立て、少女が騎乗する「黒馬」に向かって破壊力そのものが迫る!


「おおおおおおおおお――」

 騎士の雄叫びが尾を引いた。


『ヴフィヒヒヒーーーン!』

 なにやらエフェクトのかかった嘶きが平原に轟いた。


 ズッシャァァアアァアア!

 黒馬の蹄が大地を叩いた。

 円形に岩盤が陥没。


 騎士を乗せた戦馬がピタリと止まった 


「おい! どうした! 止まるなこら!」

 騎士が叩けどすかせど、愛馬はピクリとも動かない。筋肉をこわばらせ、ねっとりとした汗を全身にかいている。アポクリン腺以外からも汗を流しているッ!


「何がどうなって、ウッ!」

 騎士部隊長の目と、黒馬の目があった。


 その目は、何万何億の生命を刈り取った者のみが持てる目。

 なんて巨大な馬! 鬣は白く長く、風も無いのに靡いている。


 あかん! これ、戦ったらあかんルートや。


 騎士部隊長の脳に、そんな言葉が皺となって刻まれた。


 黒馬が開いた口から、白い息となって闘気が漏れ出たッ!

『ブルフィフィ!』

「魂レベルで分解して欲しいのか?」

 騎士部隊長が、黒馬の嘶きを意訳した。


 少女を乗せた黒馬が、静かに前進する。

 黒いドラゴンを後ろに従え……あ、これベノムドラゴンのスイートアリッサムだ。

 ついでにロバに乗った少年がいるが、これは無視してもいいな。


 二十四騎の軍馬が左右に分かれた。黒馬はそれが当たり前のように平然と前進する。


 その後ろで、五万の軍勢も真っ二つに割れていた。


 悪魔の黒馬に跨がった少女が、優雅な動作で右手を挙げる。


 それが前に振られた時。

 十二匹の「影」災害魔獣が、その持てる最大の速度で白紙委任の森へ向け飛んだ。


 残ったのは黒馬と、それに騎乗する少女のみ。


 だが、コア帝国軍五万は、誰一人として少女に刃を向けなかった。

 徴用雑兵から、騎士団長まで、震撼せぬ者はいなかった。


 勇者が、渇ききった唇を振るわせる。

「あれが……あれが、リデェリアルのレジェンド魔獣使い。デニス」


 これだけで終わらない。

 

 デニスがこの戦場へ来た方角。そう、オリュンポス山脈を背景とした方角。

 そちらから雲霞のごとく、無数の魔獣共が出現した。


 空を飛ぶ魔獣の大軍は、日の光を遮り。

 地を行く魔獣は、あらゆる突起物を蹴散らしながら。

 さながら、空と地を魔獣のモザイクで埋めたかのよう。

 非現実的にして幻想的な光景。人々は皆それに見とれていた。

 魔獣の軍団は、白紙委任の森へと一斉進撃を開始した。


「はっ! いかん!」

 勇者が我に返った。

 これは千載一遇のチャンスなのだ。


 勇者の剣を頭上に掲げた。

「全軍! リデェリアルのデニスに続けーっ!」


 上空から戦場を俯瞰する目があったとすれば、デニスがコア帝国全軍を率いている風に写ったであろう。



 ここに、触手ノ王を敵とする全魔獣の戦いが、全世界に知られることとなった。




「行くぞレム君! 無謀神よ我らにご加護を!」

「合点承知! 無謀神の名の下に!」

 俺達は必要以上の速度をもって次元の闇をくぐった。


次話「レム君の秘密」

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