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魔族による 7.ジレル・ザ・クリムゾンアイ-2

今回、忍者戦法特有の残虐描写有りにつき、心構えお願いします。




「死ねッ! 死んでしまえ! 何故死なぬ!早く死ね!」


 何とか白面鬼を城外へ誘い出せたのは僥倖である。 

 左右に揺れながら白面鬼へ接近。


 イケル!

 体が羽根のように軽い。近年まれに見るベストコンデション。


 混乱していたが、戦いが始まると自然と頭が冷えてくる。

 白面鬼相手に近接戦闘は無謀。


 と、思うでしょう?


 わたしは左手の五指を広げながら腕を伸ばす。

 指先から「斬」特性を纏った目に見えぬほどの細い糸を放出する。

 白紙委任の森特性、高地特級綿糸を特殊加工で精製した幻の一品!


 腕を振り抜いて、白面鬼のいる空間ごと切り裂く。


 腕の動きに遅れて斬檄が走るため、見切りにくい特徴を持つ。

 だが、さすが白面鬼。石のように冷静な判断力を持つ者。あっさりと見切られた。


 でも、躱されるのは予定通り。


「もう一度!」

 指で操作することにより、腕の振りより早く糸を走らせることができる。タイミングのズレをもたらそうとした作戦!


 踏み込みを途中でキャンセルする白面鬼。さすがと言いたいところだが、こちらにはもう一手仕込みが残っている。


 微妙に中指を跳ね上げる。

 白面鬼の足元から斬糸が跳ね上がる。


 捉えた!


 と、白面鬼が一歩足を前に出し、地を踏みしめる。


 逆袈裟に跳ね上がる直前の糸を踏まれた。引かぬ刃で物は斬れない。糸が「斬」の特性を出す前に動きを封じられた。


「スタン・フィスト!」

 フィストと言いながら、白面鬼は足の裏から謎のスキルを発動させる。


 力が糸を遡上する。

 敵の武器を伝って、攻撃を加えるいやらしい技だ。


「ちっ!」

 斬糸を緊急排除――しつつ、スキル発動の隙を狙う。


 後ろへ飛ばず、逆に前へ出る。

 さらに刀を持った右腕を突き出す。一本の槍となった必殺の突き。


 熱い線が腕に走る。

 いつの間に抜いたのか、白面鬼が刀を振りきっていた。


 宙を飛ぶ腕。刀を握ったまま。


 糸を引く赤い血の線は、わたしの右腕の付け根から続くもの。

 わたしの切断された右腕が、刀を持ったまま中を回転している。


「おおおおおおお! 痛い痛い痛い痛い!」


 切断された腕の付け根を握りしめ、膝をつく。


 激痛は辛いところだが、わたしは冷静だ。

 新鋭の魔族相手に腕の一本や二本、とっくに覚悟済み。この状況はかえって奇貨であれう!


 白面鬼は切っ先をわたしの額に向け突きだしている。

「もはやこれまで。諦め――」

 宙を舞うわたしの腕が白面鬼を背後より斬りつけた。幸いにもまだ刀を強く握っている。


 すんでの所で身を躱す白面鬼。

 おしい!


 でも白面鬼の気は、空中の腕に集中している。


 刀を持った腕は、生きている。荒い動きだが、何度も方向転換し、白面鬼を頭上より襲撃する。


 ここが最後のご奉公のし所。隠し持った鎧通しを左腕で握る。

 鼓動に合わせリズミカルに血が噴き出す。一撃だけでいい。保ってくれ、わたしの体!

 目の前には隙だらけの白い体。相変わらず頭上の腕に気を取られている白面鬼。


 取ったっ!


 細い腰。その上部に向けて最後の一歩を――。


 白い体がわたしの頭の上を飛んでいく。

 地面がわたしに向かって迫ってくる。


 違う! 


 わたしが倒れていくのだ。平衡感覚を無くしたわたしの体が、地に向かい倒れていくのだ。


 ガッツリ地面に顔から突っ込んだ。

 起き上がろうとして――起き上がれない。


 腕が上がらない。足が動かない。

 重い重い重い。羽毛のように軽かったわたしの体が、鉛の塊みたく重い。


 ……保たなかった。体中の血が流れ出てしまったのだろう。


 目を動かすのも全力を必要とした

 その目の端で白面鬼を捉えた。


 切り離された腕の上。何も無い空間を刀で一振り。

 それだけで腕はボトリと落下した。


「糸で操っていたのか。小賢しいことを」


 白面鬼は、木の枝から垂れた糸の切れ端に合わせていた視線を下に降ろした。わたしの目と白面鬼の目が合う。


 動け! わたしの体!

 まだ返せていない。返せていないのだ! 

 畜生! 畜生! 重い。体が重い。重さで地面に埋もれていくようだ。


「今楽にしてやる」


 白面鬼が刀を逆手に構えた。わたしの首に打ち込むつもりだ。

 無念!


 わたしはまだご恩を返せていない。 

 我が主、カムイ様。わたしはあなた様のお役に……もっとたちたかった。


 白面鬼の刀が白い光を放つ。


 勢いをつけ、振り下ろされた。






「ホァチョ!」

 白面鬼の顔面に両足蹴りが入っていた。


 格闘家か? 緑のチャイナ服を纏った小柄な少女が、白面鬼に蹴りをくれていた。


「むっ!」

 白面鬼の上体が揺れたが、足を踏ん張って耐えた。


 そこへ第二の刺客が割り込んできた。

「ちぃえすっ!」

 幅広の段平が白面鬼の頭上に振り下ろされる。見事な連携。

 白面鬼は……左腕を刀身に軽く添え、斬檄を大きく反らせた。


 斬檄を放ったのは、白面鬼さんとほぼ同じ長身の持ち主。ピンクのビキニアーマーを纏った女戦士。

 腹筋が見事に六つに割れていた。


「仲間か?」

 白面鬼の左手は刀身に添えられたまま。女剣士の腕の筋肉が盛り上がる。

 ギリギリと音を立て、剣が上がっていく。


「バルキリーズジャベリン!」

 白面鬼が次の動作に移ろうとした時を狙ってか、顔面で爆発が起こった。


 魔法攻撃だ。

 何が起こった?


 また地面が動いた。こんどは体から離れていく。

「ハイパー・ヒール!」

 わたしの体からズシンと音がした。


 途端、痛みが消失。体目に見えて軽くなる。


「あ?」

 切り離されたはずの右腕がくっついている。


 だけど、まだ力が入らない。頭がくらくらする。

 血を流しすぎたためだ。


「リフレッシュ!」

 さらに頭がクラッと来たが、くらみが消えると体が熱くなった。

 体が軽い。力が戻った? 


「あれ?」

 背中に人が密着している。迂闊。背後の人物がその気になれば、喉をかき切られていただろう。  


 すると味方か?

 わたしを助けてくれた術者?

 わたしはまだ戦える!


 振り向くと青い僧侶服を着た妙齢の美女がわたしを抱えてくれていた。

「恩に着……」

 目が……どこにも焦点が合ってない。目に光がない。


 こいつらはなにものだ? 白面鬼はどうなった?

 魔法を喰らった白面鬼は元気に動き泡っている。ノーダメージか?

 女戦士を剣ごと投げ飛ばし、魔法使いに手を伸ばす。


「あたぁ!」

 白面鬼に向かって格闘家が後ろ回し蹴りを放った。それを白面鬼は刀で受ける。

 格闘家の形よいふくらはぎにザックリと刃が入った。


 このまま振り抜けば切断だっただろう。実によい反応。骨にかかる直前で足を引っ込めた。足からは赤い血の糸が引いている。


「ヒール!」

 治癒の呪文が格闘家に飛んだ。


 わたしにかかり切りの僧侶からの呪文ではない。

 白いワンピースに青いマント。背の高い女から飛んだ治癒の魔法だ。


 回復要員がもう一人いるのか?

 格闘家に戦士、魔法使いに僧侶、そして、最後の一人は賢者?


「あ!」

 思いが至った。


 彼女らは「勇者の仲間達」だ!

 主様の声が聞こえる!

「彼女らは勇者の仲間達だ」

 今それ思ってた。


「ヤバイ薬……もとい、洗脳魔法18禁バージョンで、ジレルの支配下にいれた。チミの命令なら皆、命を惜しまぬ! そしてこれはワタシよりの贈り物だ!」 

 ぷすっ!

「あっ!」

 頸動脈に細い針が刺さった。


 ぷす! ぷす! ぷすっ!


 その他ありとあらゆる動脈に針が刺さる。

 熱い液体が針を通してわたしの体に染みていく。


「これは、(カムイ)様の触手薬道奥義『動品具』?」

 習慣性が全くなくもない、臨床実験されていないが体に優しいとされている、謎のどろっとした栄養剤だ!


「おおおお!」

 わたしは雄叫びを上げた。


「力が湧く! 頭がすっきりする! 空だって飛べそうだ! 無性に笑いがこみ上げてくる! ウワハハハハハ!」


 ジャンプ&キック!


 白面鬼が繰り出す斬檄は、1秒前の予見眼で確認済み! さっくりと刀で受けた


 さて、付き合ってもらうぞ白面鬼。長い戦いを覚悟してくれ!


 



 *****


 ここは別の場所。

 例えて言うなら、深海?

 UMAの後をスネークしていた深海さんが、動きを停止していた。


「見失った……どういう事だこれは?」


 


「何だとこの鳥頭!」

「誰が鳥頭だコラ!」

「テメェの頭は鳥ヘッド以外の……おや?」

 お空の彼方でキラリと輝く物が一つ。


「なんだありゃ? トリ・ホークアイ・ズーミング!」

 鳥さんは翼だけの物体を目撃した。


 白銀のボディが太陽の光を激しく跳ね返す。

「うわっ! 眩しい!」

 錐揉みで墜落していく鳥さん。自業自得の鳥頭はほっとくとして……。


「あれは、ジズMK3!」

 しっかり者の空中要塞さんの短い触手が戦慄いている。


「どこへ向かって……あっちは……」


 ジズMK3が向かう先。それは、白紙委任の森北部方面だった。




「少女が魔族を率いている? 魔獣使いの一族か?」


次話「デニス・ファイト」

お楽しみに!

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