魔族による 5.大海獣ラブカ
「俺は男前の大海獣、ナイスガイ・ラブカ! 眷属と共にここに推参! そいやー!」
勢いよく海中を進んでくる深海の超獣さん。多数の眷属を引き連れ、戦艦群に戦いを挑む。
上空から、深海さんの姿を見ることができない。海中に潜む故。
ぶっちゃけ、深海さんは、どんな姿をしているのか誰も知らない。
巨大イカ説、触手を持った鯨説。いや、鉢巻き締めたでっけぇタコだ説等々。深海さんが、意図的に偽情報を拡散した形跡も認められるので、真の姿は定かではない。
ただ、これも同じく正体不明の眷属なる、小型クジラ型魔獣を多数従えている所から推測されるに、触手を持ったクジラ説が根強い人気を誇る。
もといして……。
「中央を食い破る!」
鳥さんを包囲する戦艦郡の一角、東に展開する三隻を沈めた深海さん。勢いそのまま、一直線に中央部の四隻へ突き進む。
艦隊も、そのまま手をこまねいてなぞいない。
迎撃のため、隊列を変更しつつある。
「先手必勝! 行け! 眷属共よ!」
白い航跡を残しつつ、生物的にあり得ない速度で先行する八頭の眷属共。一隻あたり二頭が受け持っている。
艦船より海面に向かって、山なりの榴弾が多数打ち込まれる。着水した榴弾は、最短距離で眷属共の元へ走りだす。
「対魚雷魚雷か? 小癪な!」
愉快そうに口の端を歪める深海さん。男前である。海面下なので、視認できないのが残念だが。
眷属共は、直線で近づく魚雷を複雑な軌道であっさりと回避。
「ふふん! 単純な運動だけじゃぁ、俺たちを沈められないぜ。よーし、叩け!」
先行していた戦艦のどてっ腹に、白い水柱が上がる。もう一本上がる。
残りの三隻は回避行動に入っていたが、逃げられない。順次、水柱をあげることになる。
これで十三隻中、三隻が沈み、四隻が動力を停止した。
「ふふふ、残り六隻。軽いぜ!」
ところが、これが曲者だった。
残った艦艇はいずれも量産型だった。しかし、内、二隻は特防型。もう二隻は特攻型。
対潜攻撃に大きく振った設備構成であった。
特防型は爆雷を雨のようにばらまき、深海さん達を遠ざけようとする。
海中での爆発。
空中と違い、その爆破による衝撃は海中だとシャレにならない。
これがなかなか効果的である。三半規管や内臓に衝撃が伝わるのだ。眷属達は、思ったような軌跡を描いて泳げないでいる。
特功型は魚雷を扇状にばらまきはじめた。
隊列を乱した深海さんと眷属へ向かって一直線。
「温いぜ!」
深海の超獣さんと眷属は、各々の意思で回避行動にでる。
爆雷だの魚雷だの所詮、意思を持たぬ爆裂弾。直線で迫る魚雷など、見極めてからの回避で十分だ。
と思った時期が深海さんにありました。
魚雷が、進行方向を変えた。
一基、また一基と眷属へ命中。被弾した眷属達は、海底へ沈んでいく。
「ちぃっ! ゴーレムの一種か!」
それは意思を持った魚雷。触手さんの仕込みはハンパない。
片側八門が二隻、都合十六門より追尾型魚雷が放たれた。
「眷属共! 散開しろ!」
深海の超獣さんは喉の奥に隠された器官を解放した。必殺技を使うようだ。
それは音響爆弾と称されるソリトンウェーブの一種。
水中という高密度を利用した、広範囲破壊兵器。
「だけど……」
深海の超獣さんは、十二倍に加速された思考の中で先を考えた。
数日前。触手さんは大型船で暴れ、リヴァイアサンを呼んでしまった。
それはこの近くの海域。
海上でこれほどの大規模戦争。とんでもない物を目覚めさせる……かも。
……三分割されたリヴァイアサンの一つは、触手さんが潰し、俺が止めを刺した。
残ったのは不完全形態の二つ。一つずつなら相手にできる。
深海さんは、魔族でも一、二を争う突っ込みの名手。頭の回転が速い。
……そういうことか。
意識を戦闘に向ける。
魚雷が視認できた。
「眷属一番から四番まで。四方の海底を探索!」
深海さんが大きく口を開ける。
彼の前で海水が揺れる。
VvOo!
水中で衝撃波が発生。水中音速で進んでいく。
衝撃波に巻き込まれた魚雷が爆発。その衝撃は後方へ広がる。
続いて、四隻の戦艦とそれを守る二隻の計六隻を直撃。
ただちに沈黙した。
これで十三隻全てが脱落した。全滅である。
「むっ!」
四方へ放った眷属より、連絡が入る。何かを見つけたようだ。
「上は……」
深海さんは海水越しに上空を見上げた。
「いい加減落ちろや! ニワトリ野郎!」
「なんだとコケー! ニワトリがエンシェント・ドラゴンの進化形である事を教えてやるぜ!」
「教えてみろよ、鳥頭!」
「誰が鳥頭だ!」
「鳥さんのヘッドは鳥頭のデザイン以外の何物でもなかろーが!」
「あ、そうか!」
別の角度から見ても、互角の戦いが続いていた。
「渡り鳥を代表する鳥族のスタミナをなめんじゃねえ!」
「さっき、スタミナが心配だとかいってたろーが!」
「鳥の体力なめんじゃねぇ!」
「俺だって、自力で浮いてるんじゃないからな! 飛行に体力使わねえ物体の体力なめんじゃねぇ!」
「おまえら、漫才してないで、ちゃっちゃと白黒つけろ……いや、まてよ?」
深海さんは考えた。
高空監視役の空中浮遊要塞さんは、鳥さんにかまけて役目を果たせていない。
この調子だと鳥さんも、2・3日は戦い続けられるだろう。
となると、厄介な空中浮遊要塞さんは、働きが封じられたも同然!
「よし!」
深海さんは、眷属の先導で暗い海中へダイブした。
光の届かない海の深部。この海域の見通しは悪い。
暗いからではない。
深海さんは暗視のスキル持ち。光が届かぬとも、昼間のように見張らすことができる。
不可視の原因は、泥が舞い上がっている事によるものだ。
「よほど……大きな何かが、海底付近を移動したか?」
やや浮上。泥が沸き立つ水域帯を俯瞰する位置に付ける。
予想通り、何者かの移動した跡だった。
「大当たりだな」
深海さんは、全ての感覚を全方位へ放って警戒態勢を取った。
眷属の四匹を先行させ、追加で眷属を四匹召還。後方に配置して警戒に当たらせる。
猫のヒゲのようなものだ。眷属達に何かあると、自動的に深海さんへその情報が伝達される。
どんどん先へ進む。
海中の濁りは、徐々に収束していく。航跡は緩くカーブを描いている。
「この方角は、白紙委任の森方面?」
獲物が近いことを悟った深海さんは、追跡速度を上げた。
上げてしまった。
「むっ?」
先行させていた眷属の存在感をロストした。
急速潜行。
濁りの中へ体を潜り込ませる。同時に後方に配置した眷属を前に押し出す。
浅い部分を泳いでいた二匹の眷属が消えた。あきらかに攻撃を受けた消え方だ。
残りの二匹が、前方より近づいて来る何かを察知。
とてつもなく大きなプレッシャー。
眷属共は、深海さんの命令を待たずに回避行動へ出た。それは、なりふり構わず逃げるという行為。
一匹よりの繋がりが希薄となった。大ダメージを受けたのだ。
続いて、もう一匹との繋がりが断絶。
「これは死んだな」
深海さんは生命活動を低レベルに落とし、生者としての気配を消しに掛かる。
グポーン!
赤い目が二つ、暗い深海に灯る。
深海さんは浮上をはじめた。
「フッ!たった一匹で? この深海の超獣様に挑もうと?」
グポーン!
「もう一匹いた!」
深海さんは潜行した。
「合体してないのか?」
二体だけでも合体してしまえば、戦闘力は数倍となるハズだが……。
邪魔者を全てかたづけたと判断したのか、二体のUMAは、回頭して去って行く。
「こいつら、何をする気だ?」
深海さんは、コソーリと後をつけていくことにした。
それは信頼の証!
次話「ジレル・ザ・クリムゾンアイ」




