魔族による 4.空の要塞vs空中浮遊要塞
「あちょおぉぉぉぉ!」
雄叫びを上げながら、高速機動中の巨大な鳥。
ご存じ、鳥さんこと、蒼空の鳥獣・アーキ=オ=プリタリクである。
「照準セーット!」
鳥さんが狙いを定めたのは、空に浮かぶ要塞。
全長3,000メットル。最大幅1,300メットルのラグビーボール、っぽい魔族。
ジャガイモの表皮を彷彿とさせる窪みが多数。その窪みから、短い触手が蠢いている。
どこが頭でどこが尻尾か(そもそも頭とか尻尾とかあるのか?)全く分からない外見。
その名もバアル・ゼブル。ハンドルネーム空中浮遊要塞さんだ。
正体は、人間から「天空の城」と呼ばれている、バルス級大魔族である。
「神・バードアタック!」
鳥さんの全身が赤い光に包まれた。必殺技である!
様々な効果音を立て、様々な効果線を描いて、鳥さんはバアル・ゼブルのど真ん中に突っ込んだ。
山をも砕く嘴が、バアルの体組織に突き刺さる!
ボヨヨーン。
とある効果音と共に、鳥さんが弾かれた。
「くそっ! なんて弾力性のあるお肌なんだ! おっと!」
体勢を崩した鳥さんに向け、バアルの数ある触手から、謎の光線が撃ち出される。
鳥さんは、それを難なく回避。高速戦闘速度まで持っていく。
「ええい! イライラする!」
ここは大海原の上空。白紙委任の森は目の前だ。
目の前にして、侵入を塞がれている。
「くくくくく! 鳥さんよ、ただで白紙委任の森へ入れると思うなよ!」
「だれだ!」
「てめぇの目の前にいる空中浮遊要塞さんだろうが! 他に誰がいるんだ? この鳥頭野郎!」
「誰が鳥頭だ!」
「鳥さんのヘッドは鳥頭のデザイン以外の何物でもなかろーが!」
「あ、そうか」
鉄板のボケと突っ込みであった。
鳥さんと空中浮遊要要塞ことバアルは、グルグルとお互いの周囲を回り合い、間合いを計っている。
「フッ!」
鳥さんがシニカルに笑った。
「お互い決め手に欠けているようだな!」
双方の攻撃手段が、双方に通じない。
「バカか、鳥頭!」
「誰が鳥頭だ!」
「鳥さんのヘッドは鳥頭のデザイン以外の何物でもなかろーが!」
「あ、そうか」
魔族用語でいうところの天丼であった。
「このまま、鳥さんがここで足踏みしてたら、白紙委任の森を上空から攻撃できる魔族が減るだろうが! お前らの戦略が前向いて進まないだろうが! だったらこのままで俺の勝ちだろうが!」
「くっ、考えたな!」
「てめぇに言われると、何だか底辺のバカみたいに聞こえるから止めろ! 喰らえ!」
バアルの体表に生えている無数の触手より、妙に粘性のある光線が乱射される。さながら対空砲火である。
「あたるか! そんなもん!」
危なげなく回避していく鳥さん。余裕である。
「しかし……」
鳥さんは、徐々に嫌な顔になっていく。
「今は良いよ、今は。体力が有り余っているから。でも高速機動するのって、結構スタミナ持って行かれるんだよ。この調子で長期戦やられちゃ、いずれ限界がやってくる」
「攻略法を口に出すなよな!」
バアルの指摘通り、鳥さんは物事を口に出して考えるタイプだった。
航空力学を無視し、ギザギザの飛行機雲を引きながら、鳥さんは周回している。
「だが、体力の消耗はお互い様だろ? あんただって謎の光線を撃つにゃ、エネルギーの消耗を避けられないだろ? 今のは考えが勝手に口に出たんじゃないからな! 自分の意志で喋ったんだからな!」
「普通、そう思うだろ?」
バアルは意味深なことを言った。
「先生方、お願いします!」
バアルが声を掛けた。
ブバババババッ!
海面から、濃密な火線が上がってきた。
鳥さんを包囲する火線。羽根が何枚か千切れ飛ぶ。
「うおぉぉぉ! なんだこりゃー!」
海面には、紡錘形をした黒い船が多数集まっている。
「触手さんが丹精込めて作り上げた戦艦群だ!」
その数、四隻。艦橋付近に配備された高角砲が、鳥さんを狙って連射されている。
よく見れば、四方より二隻、三隻と群れなして集まってくる。
「フハハハハ! 頭の上は俺に押さえられ、足下は戦艦群にすくわれ、いわゆるサンドイッチ状態。どうやってこの場を凌ぐ? もう撃ち落とされて焼き鳥になるしかないな!」
「ふざけんな! こんな小っこい火力で、空の要塞と呼ばれた俺が落ちるわけウォ!」
鳥さんは全力を超えた緊急回避運動を行った。
風切り羽の先端を焦がす強力な熱エネルギーが3本、通過した。
遠方の艦より大口径砲が発射されたのだ。
戦場を囲むように配置された戦艦九隻による主砲攻撃が始まった。
あのリバイアサンの正面装甲を撃ち抜いた煉獄爆炎波が一艦あたり九門。都合十八門が連射される。
空を飛ぶ者の宿命。装甲の薄さが鳥さん最大の弱点。……それでも人間の武器で貫ける物ではないが。
一発当たれば、この戦いは終了してしまうだろう。
装甲を捨てて手に入れた素早さが、鳥さんの最大の武器。
だがしかし、その最大の武器を持ってして、ギリギリだった。前後左右、全方位に注意を払わないと、痛いのをもらってしまう。
砲撃は連携をとっている。囮の砲撃から、本命の砲撃。未来予想砲撃。さまざまな手練手管を使用し、鳥さんを狙う。
「まだまだぁっ!」
鳥さんの隠し技。翼以外の制御システムを使って回避する。
両者の技量は平行するかのように見えた。
そこへ――。
「俺を忘れてないよな?」
斜め上空より、バアルの砲撃が始まった。
「ちっ!」
舌打ちをする鳥さん。回避自体は可能だが、視野の問題が立ちはだかる。
フレキシブルな首を用いた広い視野を誇る鳥さんだが、下方360度からの攻撃に上方からの攻撃が加わることで、探知能力のキャパがオーバーしてしまったのだ。
ザッシュッ!
左端の尾羽が持って行かれた。機動能力が10パーセント落ちる。
「仕方ねぇ!」
死中に活。鳥さんは、唯一エグニ・ブラスタが打ち込まれない地点へ翼を向ける。
それは――バアルの真下。
太陽の光をバアルが遮る空域。
同士討ちを恐れ、戦艦よりの砲撃が止んだ。
「考えたな、と褒めてやろう」
バアルの声は余裕に満ちたもの。
「だがそこは死地でもある」
バアルの体下方より生えた触手の根元が光る。
輝きが先端へ移動。下面全てより、謎の光線が発射された。
光の速さで無数の光線が鳥さんへ――。
「むうぅん!」
光の速さより鳥さんの回避速度が速かった。
むしろ、発射される前に、回避した。
だが、バアルはまだ余裕だ。
「そして、そこも死地」
バアルの影から出た鳥さん。戦艦群より、必殺の熱線砲が打ち上げられる。
右の風切り羽を2枚持って行かれた。
高度が下がる。
直下の戦艦より上がる高射砲。
正面と左右を位置取った戦艦が、主砲の照準を鳥さんに合わせた。
――だめだ、当たる!――
鳥さんは口に考えを出さなかった。
バアルが勝ち鬨を上げる。
「終わりだ!」
閃光と爆発。
鳥さんを囲んだ戦艦三隻が爆沈!
「待たせたな、鳥さん」
「あんたは!」
深海の超獣さんこと、大海獣ラブカが間に合った!
「よほど……大きな何かが、海底付近を移動したか?」
次話「大海獣ラブカ」
お楽しみに!