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魔族による 2.ガル対レプラコーン


 ガルは駆け巡る。


 直径1キロメットルの輪の中を複雑な軌道を描いて駆け巡る。

 不可視の攻撃を回避しながら。


 透明人間レプラコーンはどこにもいない。


 どこにもいないって事は、どこにでもいるのと同じ意味。

 どこからでも攻撃ができる。


 ガルが逃げ出さないのは、ここで倒すべき相手だと認識しているから。

 ここで取り逃がすと、いつ、どこで、どのようにして襲って来るかわからない。

 戦略的暗殺者。


「せっかく、向こうから出てきてくれたんだ。ここで始末しておくと後が楽になるってもんよ!」


 直線で、ジグザグで、一回転して元通り。

「回避パターンAの13! 回避パターン小文字hの4!」

『どんだけ回避パターン持ってるんだよ!』


ガルは一瞬、とある方向へ視線を這わせた。気配を感じたのだ。


 ――いや、フェイクだな。


 前傾姿勢。一気に速度を上げる。

 螺旋を描いて、徐々に外側にふくれていく反時計回りの円運動。

 レプラコーンが繰り出す連続攻撃。息つく暇も無い。

 それを右に左に前に後ろに上に下にと、軽やかに避けていくガル。


 相変わらず、謎の薄い霧に包まれたままだ。

 円運動の直径は1キロメットルを超えようとした。


「あぶねぇ!」

 今までの攻撃とパターンが違う。

 ガルの右側に大型の攻撃が集中。ガルの背を超える土煙が高く上がる。


「まるで鳥さんの爆撃だな。こんなの喰らったらひとたまりもねぇ! うぉっ!」

 ガルの進路を防ぐためか、右前方の土煙が壁となって空へそびえ立つ。


「これ以上遠くへ逃げるな、ってか?」

『その通り』

 レプラコーンの声がどこからともなく聞こえてきた。響く。


「ふん!」

 鼻息一つ。ガルは内側へと螺旋を描いて走り続けた。


『そのままだと追い詰められるぞ。そらそら』


 レプラコーンの攻撃を躱しつつ、ある時はゆっくりと、ある時は音速超えで。

 そして、元いた場所、螺旋の中央へ。後がない。


 ガルの動きがピタリと止まる。

 レプラコーンの攻撃が止んだ。


 代わりに、レプラコーンの声が聞こえてきた。

『ほほう、追い詰められて潔く諦めたか?』


 対するガル。その目が熱を帯びていた。

「いいや」


『諦めていないと?』

「ちげーよ! 追い詰められたのがテメェだって言ってんだよ!」

 ガルの体が膨張した。体毛全てが逆立ったのだ。


『魔力放出か? そんなヤケばちな攻撃を……うん?』


 ガルの四本の足、その四つの接地面から、青白い波紋が広がった。

 ガルを中心として、大きな輪が青い光で描かれる。

 と、思った次の瞬間、爆発的に輪が広がっていく。

 いや、円を基礎デザインとした複雑怪奇な文様が描かれていく。


『違う! 描かれていくのではない! 元々描かれていた文様に魔力が流されたので浮き出したのだ!』

 初めて慌てた声を上げたレプラコーン。相変わらず位置が特定できないが。


『貴様! さっき円運動で走ってたのは逃れる為じゃなく、魔方陣を描くためだったのか!』


 霧に包まれた空間の全方位から、レプラコーンは叫んだ。


 ガルの策を看破したが、もう遅い。

 瞬き一つの微少時間で、直径1キロメットルの巨大魔方陣が成立した。


 複雑にして多重構造。霧がスクリーンとなり、脈動する光が立体的に浮き上がる。

 外縁部が魔法陣で囲まれ、形成された檻の背は高い。

 結界である。

 魔法陣の中央部分より、青白い光が空に向かって立ち上がった。


『やりやがったな!』

「やっちまったよ」

 口の端を歪め、牙を剥き出すガル。


 青白い光が天空へ吸い込まれていく。霧の存在により、通常より視認性に優れた光の柱。

 時間に比例して太くなっていく。


 空からキラキラした何かが降ってくる。

 それはダイヤモンドダスト。

 空気中の水分と、霧を構成する水分が氷となって降ってきた。

 ガルの魔法陣は、閉ざされた空間を超低温で包むためのものであったのだ。


「あばよ!」

 ガルは、超高速で駆けだした。


 拡張していく光の柱に飲み込まれないよう、必死で走る。

 レプラコーンの攻撃が再開されるものの、円の半ばで潰えた。


『きさま、青い犬さん! 俺の秘密を見抜いたな!』

 全方位から聞こえる声。

 それもそのはず。

「透明人間さん、てめぇの本体は、ここに立ちこめている霧だ!」

『おおおお』

 レプラコーンは吠えるだけ。


「直径1キロメットルの空間がてめぇの体だ。どこにもいないってことは、どこにでもいるってこった。どこにでもいる、だから声が全方位より聞こえるって寸法よ。ここはあんたの体の中だからな。どうでぇ、体の内部より凍らされていく感想は?」


 さらにガルの長台詞が続く。

「霧の一つ一つが透明人間さんの体細胞だ。常識的な本体の位置を特定できねぇ筈だぜ!」


 希薄な体組織、つまり気体化した体故、固体であるガルの体は突き抜けてしまう。物理攻撃が通用しない。

 反面、魔法や特殊攻撃は通用する。


 ただ、本体を見極められず、当てずっぽうで攻撃しても、効果は薄い。巨体故、小規模の魔法やスキルの攻撃で与えるダメージは微々たるものだ。

 一方、レプラコーンは、獲物が本体を見極めるまでに倒してしまえる。


「ま、賭だったけどな」

 走りながら、ガルは舌を出してペロリと鼻の頭を舐めた。


『おおおおおおお!』

 それはレプラコーンの断末魔の叫び声か?


 体を構成する細胞が、固体化し、大地へ落ち、積もっていく。

 やがて、声は聞こえなくなり、霧が晴れた。


「あぶねぇあぶねぇ。尻尾の先が凍ってら」


 魔方陣の外へ飛び出したガル。

 体を丸めて、凍った尻尾の先を舐めていた。


「レムくーん! すぐに合流するからねー!」


 ガルは、次の入り口に向かって走り出した。

 

 

 


あれは、魔獣タマモ!


次話「黒雲の雷獣さんVS世捨て人の竜人さん」

お楽しみに!

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