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魔族による 1.ガル対レプラコーン・前


「おいおい! 入り口が閉まっちまったってか?」

 ガルは魔宮の回廊入り口でウロウロしていた。


「やっぱ予想通り、分断されたか……おや?」

 霧が立ちこめてきた。


「む?」

 ガルは空を見上げた。

 太陽光を遮るという程ではない。つまり、視界を塞ぐための煙幕ではない。


 鼻を動かしてみる

「毒性は認められねぇか。いつぞやの幻覚攻撃でもなさそうだな、こりゃ」。

 そろりそろりと、その場を離れ出す。


「レム君とはこの先で合流すればってウォッ!」

 ガルは横っ飛びにその場から跳躍した。


 足を置いていた地面がパックリ裂けていた。

 その傷は三本線。まるで誰かが引っ掻いた爪のような痕だ。


「これ喰らうと、オイラの毛皮どころか、中身まで持って行かれるな。……誰でぃ!?」


 ガルの目が魔獣の目に変わる。油断無く周囲を見渡した。

 鼻の能力と耳の能力を最大に上げる。髭を張り、体毛を立たせ、周囲の空気の流れを察知する。

 ガルは、レムに三次元レーダー並と称される察知能力を立ち上げた。 

 これでガルに探知できないものはない!

 たとえ、霧や靄の中でも!


 なのだが……、

「え? どこにいるの?」

 場所が特定できなかった。


 そこかしこに大きな木が生えているが、見通しが悪いという程でもない。

 引っかかるのは、自然な風の音か、小動物が出した音。匂いは、この地オリジナルのもの。風に乗って来る匂いに怪しい物は無い。


「どこのどいつだ! 姿を見せろ唐変木!」

 ガルが叫ぶ。


 一見、焦っているように思える叫び声。

 実は叫び声に偽装したパッシブ・ソナーであった。


『姿が見えないとなると、透明人間しかいないだろう? あ、透明魔族か!』


 声は、ガルをぐるりと一巡するようにして聞こえてきた。


 通称、透明人間さん。

 人間からは、牙を持つ竜巻レプラコーンなどと呼ばれ、恐れられている。


 姿は見えない。音も聞こえない。だのに、破壊的な暴力を伴う。

 昼も夜も関係ない。いつの間にか忍び寄られ、建造物はめちゃくちゃに壊される。


 いつの間にやってきたのか? いつ、どこで攻撃を食らうのか?

 恐れられているのは、その破壊力ではなく、見えないという恐怖である。

 存在すら疑われる魔獣。しかし、現実に存在する魔獣。

 透明人間さんは、地味に怖いのだった。


 ガルは牙を剥き出しにして不機嫌さを表現した。

「魔族の中でも、透明人間さんの姿を見た者はいねぇ。魔族BBSでのみ存在を確認される魔族。むしろ、妖精さんじゃね? 的な意味で恐れられている魔族。また厄介なのが出てきやがったもんだぜ!」


 ガルはヒョイと横に飛ぶ。続けて、前に飛び出し後ろを振り返る。

 元いた場所に斬檄が走った痕。横っ飛びした場所にも斬檄の痕。


『二連撃だったんだけど、なんで躱せるかな?』

「カンだ」

 ガルの返事はにべもないモノ。


『……、青い犬さんなら可能かもしれないけど、なんか自信なくしちゃうな』


 ガルは右へ飛ぶ、と見せかけて後ろへ飛んだ。そして高速で走り出す。

 不可視の斬檄は、本来ガルが跳躍する予定だった右側地面を立木ごと引き裂いていた。


『それホントにカン? みんなが知らないだけで未来予想とか自動回避とか、変なスキルとってるんじゃない?』

「うるせぇ! バカヤロゥ! オイラはそんな変態じゃねぇ!」


 ガルは速度と方向を微妙に変え、レプラコーンよりの斬檄をことごとく躱している。


 ――めんどくせぇ相手だ!――

 走りながら、ガルは心の中で悪態をついた。


 ――この霧は? オイラの動きを感知するための素材か?

 ――生物は、完全な透明になれるだろうか?

 ――視覚はどうやって確保する? 視覚に頼らないタイプか?

 ――もしや地中からの攻撃か?


 ガルの進路を塞ぐように爪の攻撃が走る。

「ちぃ!」

 空中へ避難するガル。


 すると、体が勝手に捻りを加えていた。

 わき腹と尻尾の毛が何十本か持って行かれた。危機一髪!

 空中にまで不可視の攻撃が届く?


 ――地中からの攻撃じゃねぇのか?

 ――だけど、だとすると。それしか考えられねぇ!


「やるな!」

 着地と同時に、ガルは強化した視力を使って地面を広範囲に走査した。

 あの爪による攻撃は物理に因らないものだ。攻撃を受けてこそ気づいた。


念力(サイコキネシス)による攻撃だろう?」

『うふふ。どこかの地中に潜んでいて、サイコキネシスで攻撃する。それなら空中にも届くしね。さらに足音で位置が解る。ひょっとしたら、透視と望遠を使ってダイレクトに位置を把握しているのかもしれない。それが青い犬さんの推理だろう?』


 ガルは、再び内心で悪態をついた。

 ――地面ね、地面。

 ずっとやられっぱなし。やられっぱなしは、ガルの矜持が許さなかった。


「そうかもしれねぇし、そうでないかもしれねぇ。情報を多く与えることで、選択肢を増やし正しい結論に辿り着くまでの時間を稼ぐ。だろ?」

 取りあえず、食ってかかった。


『よく解ったね』

 この解答が正解とは限らない。不正解とも限らない。


「オイラもよく使う手だからな」

 特にレム君に、……とは、一言も言っていない。


 ――情報が多すぎる場合は――


 ガルは走った。

 情報が多すぎる場合。敵より与えられた情報は一旦白紙に戻す。

 大事なことは、体を動かすことだ!

 ヤツの本体は近くにいる!


 どこに潜んでいても、その痕跡は必ず見つかる。

 例えば心音。例えば呼吸音。例えば筋肉の動作音。


 必ず……


 ――聞こえねぇ――


 ……どこにもレプラコーンはいなかった。 





『やりやがったな!』

「やっちまったよ」


次話「ガル対レプラコーン・後」

お楽しみに!

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