12.戦闘中 レム君対チシャさん
「おおおおお! このやろう!」
ブンブンと両手を振り回し、足を蹴上げる。
これ、あれだよ、聖教会編で登場した幻獣だったら、とっくに捉えてミンチになってるよ!
「にゃにゃにゃにゃ! いかにパワーを誇ろうと、当たらなければ意味が無いニャ。お前はこのまま、あちきに足止めを喰らって戦場遅参で恥じかくにゃ!」
おおくそっ! このネコ、腹立つな!
「オオオオオど畜生ー!」
ホバーを使ってまでネコを追いかけ回すも、目で白い姿を捉えるのがやっと。
当たらねぇ! 俺の拳が当たらねぇ!
足でもいい。先っちょでも当たれば、そこから突破口を開くのに!
「はぁはぁはぁ! このウンコ垂れネコが!」
「あちきはウンコしないニャ! 美少女はウンコなんかしないのニャ!」
「なにか? 肛門からはピンクのカプセルしかでないって言い張る口か?」
「肛門肛門と大声で叫ぶなだニャ!」
ばっちり排泄器官名言ってるし。大声で。
……あ、挑発に乗るタイプだ。
よーし! ここは一つ、ガル戦法を採用しよう。
「時間稼ぎばっかしてると、別の入り口からガルが参入してくるぞ!」
そうなれば2対1。挟み撃ちも可能だ。
「にゃっはっは! 愚かなり。青い犬さんは別の魔族が押さえているニャ。別の方面からやってくる魔族も、なまら強いのをぶつける算段だにゃ」
このネコ! どこまで底意地が悪いんだ!
……む? いやいやいや、このネコが考えた作戦じゃない。触手さんが考えた作戦だ。
このネコ、そこまで深慮遠謀じゃない。
とすると、一時的に魔族側の侵攻は平均して遅れることになる。
だったら……、俺一人だけが遅れるのではない。全員が遅れる、と……。
だとすると……戦い方もある。
むっ! 右後方に実体を見せずに忍び寄る白い影が!
「オラァ! この野良猫が!」
右手を裏拳で放つ。当たらないのは織り込み済み。勢いを利用し、予想された進行方向へ向き直る。
ネコは既に手が届く範囲外へ待避済み。
射程はロケットなパンチであるバニシング・ゲイザーでギリギリ。
そこで俺は――
「バニシング――」
右腕を振りかぶった!
白ネコは、ヒョイヒョイと後ろへ下がって距離をとり、ロケットなパンチの射程外へ出る。
「――ゲイザー!」
と、叫びながら――射程の長いディオスパーダを乱射!
必殺! 必殺技Aの名前を叫んでるけど違う必殺技Bを使うの術!
「にゃにお!」
慌てふためく白猫さん。十分すぎる射程距離で迫る14発のミサイル。
某国雑伎団のトップ演技者並の体幹と柔軟性で全ミサイルを避けたのはさすがだ!
俺はその隙に距離を詰める。ディオスパーダの装甲を閉じながら。
「装填完了! もう一丁、ディオスパーダ!」
再び肩の装甲を跳ね上げる。
と、同時に――「うっそぴょーん!」
ロケットなパンチを撃ち出した!
「ノォオオオーッ!」
白い猫さんは、気持ち悪いくらい体が柔らかかったと述べておこうか!
回避したものの、バランスは総崩れ。
俺の左パンチ……ナックルは反則だから、左掌底を喰らえ!
「スキル・見切り発動! にゃおーん!」
海老ぞる白猫。
数㎝の見切り!
白猫さんの顎を掠めて掌底が通過。
あっ! 掌底にした分リーチが短かった! つーか、スキルって何だよ? 俺はそんな便利なの持ってないぞ!
風切り音を立て、美しく連続バク転。白い猫さんが、回避した。
「ずるいニャ!」
「戦いにずるいもウンコもあるか!」
「ウンコウンコいうでないニャ!」
さらに追い詰めるが……距離を開けられた。姿が消える。高速移動だ。
「ババ垂れネコが!」
「だから、ウンコなんか垂れないニャ!」
後頭部に一撃を食らった。
ふり向く。いない。背中に一撃を食らう。ばっと振り向く。今度は膝かっくん。すぐに立ち上がって回頭。腰に良い蹴りが入る……。
「乱撃乱舞!」
白い猫さんが叫ぶ。
よく解らないが、スキルを利用した白い猫さんの必殺技だろう。
超高速の打撃が全方位から同時に打ち込まれた。
さすがに全てを防御できなかった。ほとんどの技を食らってしまった。
ダウンし立ち上がり、また攻撃されてダウン。
どれくらい、そうやって攻撃を食らっていただろうか?
過去最大級のダメージから比べて、上から3番目くらいのダメージを喰らって、顔面から岩場に突っ伏した。
「はぁはぁ、どうだニャ? もうお終いかニャ?」
息が上がる白猫さん。
俺は、ゆっくりと立ち上がる。そしてファイティングポーズをとる。
「肛門拡大症ネコが! 尿道炎で死んでしまえ!」
「だから肛門とか尿道とか、女の子に言うんじゃないニャ! 乱撃乱舞!」
全方向から白猫さんの打撃が入った。
本日二度目の必殺技。
でもね、2割くらい肉球によるネコパンチが含まれるようになった。
そろそろかな?
「ババ垂れた後で股間を舐ってんじゃねぇよ!」
「はぁはぁ……だから、美少女にはぁはぁ……ババとか股間とかゼイゼイ……言うんじゃないと何度言わせるのニャ!」
膝に手を置き、背中を丸めている白い猫さん。
「ダァーッ!」
いきなり両手を挙げて叫んでみた。
ビクッと体を震わせ、飛び退る白い猫さん。
「にゃ!」
踵を岩塊に引っかけて、尻餅をついた。
「びっくりさせるんじゃないニャ……」
顔を上げる白い猫さん。その細い体を跨いで立つ俺。
そう、やっと捕まえた。
「体力の差ですかね?」
わざと攻撃させて、敵の体力を奪う。
ヘビー級レスラーの中には、そういった戦法をつかうのもいる。
アントニオ伊波木とか。いや、俺、伊波木嫌いだけど!
アダマントの体に無限力の五行エンジン。そんな俺に、軽量級の打撃が通じるか?
通じないでしょ? さしてダメージ無かったし。
ってことでマウントポジションを取るべく、腰を落とす。
そうはさせじと、するっと逃げる白い猫さん。
だが、動きが鈍い。
手を伸ばして足を取る。
「離すニャッ!」
離さない。
白い猫さんは、蹴りを繰り出しつつ回転して脱出しようとした。
結果として、それがいけなかった。
特に背後を俺に向けたのが不味かった。
グイと片足を引き、体を手前に寄せ、細い腰を両手で掴む。
激しく抵抗するも、力任せに引き剥がし、後方へ反る。
腰を中心に回転。綺麗なアーチを描く。
これがバック・ドロップだ!
「ブニャッ!」
確かな手応え。
白いネコさんは沈んだ。
「念のため」
もう一度。ネコさんの軽い体を引き上げ、頭から落とす。パワーボム。
恨みはないぞ!
「念のため」
後ろから裸締め。
恨みはないんだってば!
白目を剥いて、だらしなく舌を出している白猫さんを確認。
よし! こんなもんだ!
「リーッ!」
テキサス・ロングホーンを突き上げる!
小よく大を制す?
んなこたぁねぇよ!
私生活多忙次期へ突入のため、次話以後、不定期連載となります。
次話「ガル対レプラコーン」
透明人間さんです。
お楽しみに!