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8.旧神と三魔と神と魔族と


「魔王さん、順序立てて教えてください」 


 デニス嬢ちゃんだ。


 魔王さんは人間語で話していた。

 それだけでも、およその状況が飲み込めたようだが、因縁や因果まではわからない。


 しかし、人間であるデニス嬢ちゃんに――


「よしよし、なんでも教えてあげるよ」

「はい」

 嬢ちゃんはガルの背から降りた。倣って、ジム君も黒皇先生から降りる。

 真面目に聞こうとする態度の表れである。


「まずは情報の修正からはじめよう。デニスちゃん。君達人間の間で伝わる神話をかいつまんで話してくれぬか? 世界創世、つまり世界を作った話と旧神、神の辺りでいい」

「わかりました」


 嬢ちゃんは、頭の中で話を思い出していた。

「えーと、神がこの世界を作りました」

 デニス嬢ちゃんは辿々しく話を始めた。


「泥の固まりから、空と大地と海を作りました。その影から最初の魔獣生まれました。えーと、空の影からは巨鳥ジズが。陸の影から巨人ベヒモスが。海の影から巨大魚リヴァイアサンが生まれました」

 へー。人間の神話って、こんなストーリーだったのか。


「えーと、最初の魔獣は、神の命令を聞かず、好き放題に暴れました。えーと、神も、この者共の対処に手を焼きました。えーと、なにせ、これら最初の魔獣は、空や海の大きさだったからです」


『デニスちゃんがんばってー』

 嫁さんのいない魔族男子から、芥子黄色の声で応援が飛んだ。

 嬢ちゃんはビクリと震えた。彼女にとって、遠吠えとしか聞こえなかったようだ。


『だが、それも良い』

 それも種族的にはご褒美であるらしかった。俺には高度すぎてわからないが。


「コホン。そ、そして、神は自分の影を召喚しました。新しい神を作ったのです。新しい神が船に乗って海の向こうからやってきました。

 その神はとても強い力を持っていました。新しい神と三つの魔獣による戦いは、七日間に及びました」


『はっ! これが俗に言う、炎と氷と僕らの七日間戦争!』

『確かに俗っぽいな。でも、念のため僕のプロット帳に書き記しておこうか』


 無駄な合いの手が入るが、嬢ちゃんは無視して話を進める。

「全世界を火で覆った戦いは新しい神の勝利で終わりました。最初の魔獣は三魔と呼ばれるようになり、この魔獣の血や肉や毛や鱗などから、小さな魔獣達がたくさん生まれました。これが今の魔獣達の祖先です」


 俺は隣でお行儀良くお座りし、静聴しているガルに聞いてみた。

『三魔は先輩達のお母さんだったんですか?』

『ちげーよ、バカヤロウ。その辺はあとで魔王さんが解説すっからよ。黙って聞いてな』


 嬢ちゃんの話は続く。

「その戦いを見ていた古い神は、新しい神の力を認め、この世界を任せる事にしました。こうして古い神は、お隠れになりました。新しい神は、沢山の生き物をお造りになり、全世界へ放ちました。最後にこの世界を治めるために造られたのが人間の祖先です。お隠れになった神を旧神。新しい神をそのまま神と呼ぶようになりました」

 嬢ちゃんの話が終わった。


『隠居した動機が薄いな。途中で人称が変わるのが読んでいて辛いです。あと、最後まで物語を完成させましょう』

『そういう評価じゃなくてさ、まあ、キャラ立てが弱いかな。次作に期待しましょう』


 魔族の間から、辛口の批評が出ているが、……魔族ってこんなモンだ。通り一遍の見方しかできない古い考えの持ち主だ。主流は変わってきているというのに!


「うむ」

 魔王さんは頷きながら、目尻の涙を指でぬぐった。今の話のどこに感銘を受けたのだろう?


「さて、本当の話をしよう」

 魔王さんが、その背にオドロ線を背負った。無理して傷口が開かねばよいが。


「これからの話は、他言無用、ここだけの話にしてほしい。世の中が混乱するのでな」

 重々しい前フリだ。


「人間の神話は、歴史を重ねるごとに歪んで伝わっていった。よって、事の次第は、とてもじゃないが正確に伝わっているとは言えない。これから述べるのは、我がこの目で見た事実である。疑うことは許さぬ」

 嬢ちゃんが重く頷く。ジム君は生唾を飲んだ。


 いや、たぶん、魔族が神話の改変に一丁かんでると思うぞ。しかも、興味本位で。


「旧神がこの世界を造った。それは間違いない。この世界には緑が溢れ、多種多様な生命に満ち溢れた。今の神が現れる前から、空には鳥や羽虫が、海には魚や貝が、陸には動物や人間が生命を謳歌していたのだ」

 原始地球だな。

 恐竜はいたのだろうか? アノマロカリスはたぶんいなかったと思うが。


「では、生き物は旧神が造ったのですか?」

「自然発生したのだから、旧神が造った……と言って良いだろう」


『無意識に発散していた神の加護が生物に降り注いだ。そのため、特定の進化を遂げた一つが天下を取って人類となった』

 ガルの親切な解説が入った。


 魔王さんお話は続く。

「旧神は、それが我慢ならなかった」

「え?」

 嬢ちゃんとジム君が、目を見開いた。

 聞きようによっては神の裏切りである。聞きようによらなくてもだが。


「自分のコントロールが及ばない『生物』という者を嫌ったのだ」


『つまりよぅ』

 ガルが横合いから解説しだした。

『園芸は好きだが、虫は嫌いって手合いだな』

 あー、いるいる。自然保護主義の人たちの間にも、生命体である虫を毛嫌いする連中はいる。


「害虫を駆除するために益虫まで駆除たり、希少な花を守る為に、元気に咲いている花をむしったりする趣向の園芸家の感覚だ」

 魔王さんは、ガルの言葉を引用した。


 そういや、元の世界にもいたな。

 海洋生物を神と仰ぎ、金の……もとい、生命保護のためなら人命を奪うことすら厭わぬ人種が……。


「旧神は、人類を含めた生物を駆除しようと画策した。殺菌感覚だな。そこで使われる殺菌剤感覚のシステムが、はじめの魔獣と呼ばれた、ジズ、ベヒモス、リヴァイアサンの三魔であった。ここまではよいか? 真実だぞ」


 デニス嬢ちゃんとジム君の顔色がやや青い。

 この世の真理に恐怖を覚えているのだ。


 魔王さんの話は続く。 

「ちょうどその頃、何かの偶然か、神の采配を超えた天命か、異世界より新しい神が現世に降臨されていた。そのお方が後の新しい神だ。

 新しい神はあふれかえる生命を愛しんだ。当然、旧神と対立することとなる。

 我ら魔族は、新しい方の神に造られた超越生命兵器なのである!」


 魔王さんは言葉を切り、嬢ちゃん達の様子をうかがった。

「大丈夫か? (チユら)くないか?」

 なぜか幼児言葉の魔王さん。目尻が下がっている。

 嬢ちゃん達の怯える姿に、新しい扉を開いたのではあるまいな?


「大丈夫です。話を続けてください。わたしたちは全てを事実として受け入れます。魔王さんを信じていますから」

「うぐっ!」 

 信じていますから。信じていますから。信じていますから。信じて――。


 ツルペタ美少女の言霊に、魂をシャウトさせる魔王さんである。


「みなさん! ここにいる魔獣、いえ、魔族の皆さんも信じています」

『グハッ!』

『ヒデブ!』

『ラメェッ!』

 魔族達のソウルも鷲づかみにしたもよう。


 ……魔族、チョロくないか?


「話を続けよう。その後は、おそらくデニスちゃんの想像通りであろう。我ら魔族と神対、三魔達と旧神の戦いが始まった。

 その戦いは7日ではない。70年以上に及ぶものであった。

 多くの仲間達が格好付けのため……もとい、仲間に後を託して死んでいった。

 ジンジ、ゲンドウロス、ベーム、ベラー、ベーロー。多くの仲間が倒れていった……」

 今倒れたやつ連れて来い。説教してやるから。


「多くの犠牲を払いつつ、我らは勝った。三魔を封し、旧神を次元転移させた。具体的に述べれば、三魔の二つ、ジスとリバイアサンは、魔族による複雑にして趣味感溢れる不必要に込み入った攻撃を受け、そのプレッシャーリカバリーのため、三つに分散し、戦闘力を放棄することにより完全消滅を回避、逃走した。我らもできる限りの呪封を施しておいたから、外部よりのアクセスがないと、永久に休眠することになる。残りのベヒモスは……」


 そこで魔王さんはは少しばかり言葉を滞らせた。そして斜め上を仰ぐ。


「……ベヒモスは、旧神が、自らの復活に際する依り代として封じた。旧神は、物理的ボディを無くし、アストラル体になって高次元へ移行した」


 もう一度、魔王さんは言葉を置いた。


 視線をデニス嬢ちゃんへ落とした。

「三魔は力を無くした。旧神は現世を攻撃するためのデヴァイスを失った。――実質的な我らの勝ちだな。以後、我らは、直接戦闘を終了し、分離した三魔を探しだし、行動不能にするための作戦行動へ移行したのである」

 嬢ちゃんとジム君はポカンと口を開けたまま、魔王さんの熱い話を聞いている。


「さらに時代は降り、我ら魔族の弛まぬ努力によって、三つに分割されたジスのうち二つを破壊した。同じくリバイアサンも三つの内一つを破壊した。……ベヒモスは別の方法で永遠に封じた。もはや、三魔が復活しても、脅威ではない」


『ちなみに……』

 ガルのワンポイント解説が入る。

『ジズ二つを破壊したのは白面鬼さんだ。リバイアサンの一つを破壊したのは触手さんと白面鬼さんのコンビだ。他の魔族は役に立たなかった』

 魔王さんは、全魔族が力を合わせて悪に打ち勝ったかのように、話を誘導していたな……。


「なるほど。凄いです」

 何も知らないデニスが両手を合わせて微笑んだ。


 へー、そういう歴史があったのか。

『魔族の完全勝利ッスね!』

 俺は魔族の偉大さとその性格的ギャップに感心していた。


 だが魔王は、目をつぶり、ゆっくりと首を振っていた。

「旧神が蘇ったのだ」

 魔王は、遠い目をしている。


 デニスに反応は無い。

 笑顔を顔に貼り付けたまま、額に汗を浮かべている。


 そして口を開いた。

「えっとぉ、言ってる事が難しくて解りません!」

「うおぉぉぉーっ! こんちきしょー!」


 魔王は、生まれて初めて泣いたという。





出撃の刻は来た!


次話「総員先頭配置」


お楽しみに!


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