7.裏切りの日
「触手さんが反乱した。魔族を裏切ったのだ!」
『まさか!』
触手さん。それは白紙委任の森を取り仕切る大魔族。長門型ではないナガト型戦艦15隻を建造中、いや、時期的に所有しているはず。
土地神カムイとか、触手ノ王とか人間から呼ばれる、男の憧れ触手型生命体である。
性格はアレとして、戦闘力だけは、魔族でも1~2を争う実力者。
俺と同じサークル活動をする友人でもある。
それが敵に回ったと!?
何のために? 誰と戦うというのだ?
「次に、もっと悪い知らせを報告しよう」
『今のがもっと悪い知らせだと思ったよ!』
魔王にツッコミ入れるのって、結構疲れるってことがわかった。
「旧神が蘇った!」
『何が旧……』
俺は、脊髄反射的に突っ込もうとして、言葉をとぎらせた。
観客席の魔族も声を失っている。
旧神、それはこの世界を作った神。
「直前まで触手さんと共同でリバイアサン・マーク1と戦っていた白面鬼さんが、決死の行動で脱出。リバイアサン・マーク1との戦いで大怪我をした我を逃がして、事情を説明してくれた」
いったい、どんな激しい戦いがあったのだ?
「そのあと白面鬼さんは、白紙委任の森へとって返し、単騎で突っ込んでいった」
どこまで男前なんだッ!
俺の中で、強さの順位が入れ替わってしまった。
「白面鬼さんによるとだな、リバイアサン・マーク1を倒してすぐ、旧神から触手さんに接触があったらしい。直ちに触手さんが白面鬼さんを排除したところからみると、以前より旧神と手を組む気満々だった、または既に接触があったと推測される!」
『なぜ、触手さんは旧神などと?』
魔族は現行神の手先というか、子供であり戦力である。何故、親でもあり主である現行神を裏切るのか?
「以前より、ゼフの一族を囲ったり、機動戦闘力である戦闘艦を多数建造したりと、外部へ乗り出す準備を整えていたようだ。てっきり新しい遊びを思いついたのかと油断していいたが、この時のための布石だったようだ。ずいぶん手の込んだ仕込みを行ってくれたものよのう」
普通、良からぬ事を考えていると判断すべきだが、魔族は趣味を優先する種的宿痾がある。誰も疑わなかったのだろう。
……俺も戦艦建造に一丁噛んでるから、そういうことにしておこう。
「触手さんとは、旧神を生涯の敵と位置づけ、定期的に戦闘シミュレーションを行い、互いに切磋琢磨してきた仲であった……」
魔王さんが闘技場の天井を見上げている。感にいることがあるのだろう。
不気味な手を垂直に突きだし、拳を強く握りしめる。
「強敵として、せめて我が手で触手さんを――ガハァッ!」
力を込めすぎたのだろう。大量の血を吐いた。
『大丈夫ですか魔王さん』
俺は駆け寄って、その体を起こした。
「案ずるな。大したことはない。ブシュッ!」
炸裂音を伴って、脇腹から血飛沫が噴き出した。
「ダイジョウブダイジョウブ」
口の端からダラダラと鮮血を滴らせながら、男前に笑っている。
『安静にしておいたほうがいいですって!』
「せ、世界中に出現した古巨神は、各地に散った魔族の猛者達が対処しておる。何とか押し切っておる状態だが、次から次へと湧いて出てきおる。ここに招集をかけた魔族達は第二陣の者達。順次、戦場へ、は、派遣せねばならぬ。ゴボッ!」
魔王さんの吐血は続く。
「ハァハァ……じゃが、魔族は一枚岩ではない。残念ながら魔族の中にも、触手さんに賛同する者達がいる。魔族は集中力が無いからのう。最初の頃は団結力も高かったじゃが、長い年月を過ぎることでだらけてきおったのが背景じゃろう」
なんか……なんかこう、子は親に似るとかいうし、こう……現行神の性格が推して計られるというか……。
「触手さんを除いた六体の災害魔獣は……幸いにも、我らの体制側。じゃが、災害魔獣と呼ばれる者達は、目立ちがり屋でもある。災害魔獣に匹敵、あるいは凌駕する実力を持ちながら、比較的控えめな性格の魔族も大勢おるのじゃ」
え? ほんと?
『本当だ』
キリリとした表情のガルが、話に割り込んできた。
『白面鬼さんは災害魔獣と肩を並べる戦闘力を持っている。他にも、いたずらっ子な雷獣さん、気まぐれを起こさなければ災害魔獣クラスと噂されるネコ耳さん、やる気さえ出せば最高戦力と呼ばれる竜人さん、覗き……天性の暗殺戦闘員透明人間さん、魔眼持ち設定の浮遊要塞さんといった、裏災害魔獣と呼ばれる、6匹のハイスペック魔族がいる』
ガルは、肉食獣特有の? 無意味な笑みを浮かべた。
「諸君、そこで情報だ」
魔王さんが、口の端かに血の筋を残したまま、表情を引き締めた。
「触手さん側についたのは、ネコ耳さん、透明人間さん、浮遊要塞さん、そして竜人さんだ」
『え?』
ガルの笑顔が凍り付いた。
「さて、本当の話をしよう」
次話「旧神と三魔と神と魔族と」愛しさと切なさと
お楽しみに!