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触手ノ王 11.エルダー・ジャイアント


 世界創世の余波を受け、肉体を持っていたエルダー・ドラゴンは滅んだ。

 彼らは、肉体を持っていた故に滅んだ。


 だが、エルダー・ジャイアントは違っていた。


 彼らは肉体を持たない存在。もう一つの神族とも言うべき巨人。

 彼らは、創世の時を迎えて尚、どこかに精神体として存在し続けていたのだ。


 それが、今ここに受肉している。


 全長10メットルを越えようという巨体が現れた。

 なぜ?

 オレオレ、オレだよオレ!

 オレが体を用意してやったんだよ!


「神よ。感謝する」

 変態を終えた、もとい……メタモルフォーゼを終えた、髭面の厳ついおっさんみたいな巨人……変態でいいや……が旧神に挨拶をしている図である。


「――と、ついでに矮小な魔族よ。裏切り者のお前にも、特別に礼を述べておこうか」

 むっちゃ腹立つな。


「あ・り・が・と・う・よ!」

 ズドン!


 ヒゲ巨人の脇腹に、超高速でぶつかる巨大触手があった。

 お寺の鐘突みたいに、突っ込んできた大木(巨人サイズで)状の触手が、景気よく巨人を吹き飛ばした。

 ヘフー! とか言いながら、隅っこでズザーしている。ありゃ肋骨、逝ったな。


 下手に肉体を持つとこうなるという見本だ。……しかし、死んでないところが脅威だな。


「おいおい! 巨人なんかの手を煩わさずとも、オレ一匹でやれるんじゃないのか?」

 斜めに構えて、旧神を睨み上げるオレ。

「ふふふ、まあそう怒ってやるな。あいつらも後がないんだ」

 後がない。

 そうだろうな。


 現状では物質界に顕現できる術を持たない。高位の次元に住んでいるのだろうけど、そこでは何もできない。ただ、こちらを監視しているか、思考に耽るだけ。

 オレの手助けが無きゃ、なんもできんヒッキーだ。

 ぼくがかんがえたさいきょうのせんし。も、使うところがなければ、空しさだけが募るばかり。


「私は、エルダー・ジャイアントをもって、最大の障害である魔族に当たろうとしている。利用しようとしている。と言い換えても良いが、彼らも利用されることに甘んじている。きっと役に立つさ」

 おそらく、申し入れは、エルダー・ジャイアントの方だろうなんだろうけど……。


「こんなんで役に立つのぉ? 疑しいなぁー」

 オレの不安を見て取ったのだろう、旧神は初めて笑みという物を見せてくれた。

「役に立たなければ……それまでだな」

 おおぅ。冷たいぞこの声色。声に呪術的な、いや、神性の何かが混じっている!

 逆強姦罪でも神は神か!?


「仲間が失礼した」

 声が上から降ってきた。

 頭に角が二本生えたジャイアントだ。


「我が名はセンザイン。巨人族百人隊長だ。我が名に免じて許しを請う」

 ズイと巨大な顔を近づけてくる。

「お、おおう!」

 なかなかの迫力だ。スペクタクルだ。

 巨神さんより、頭一つデカイわ。


「まあ、任せておけ。魔族など一ひねりにしてくれる。ガハハハハ!」

 この時は、豪快に笑うゼンダインであった。


「よしっ! 次だ!」

 オレの号令で、次々とゴブリンが運ばれてくる。

「あと、90匹用意してある。存分に暴れてこいや!」

 オレは、ちょびっと震えながら、さらにジャイアントの受肉化作業を進める。

 大地球を終わりに導く力を持つ、最強ジャイアント軍団が量産されているのである。




 30人ばかり。巨人を受肉させた頃だった。

 いい加減飽きたので、勇者の仲間達の像を美術目的で鑑賞していた頃だった。

 勇者の仲間達とは、女戦士、女僧侶、女魔法使い、女賢者、女格闘技家達5名のことである。

 全てがリアルな裸像だが、美術品なので何の問題も無いったら無い!

 高尚な目的で鑑賞していた時だった。

 

「ゼンダインよ」

 旧神が言葉を発した。小さな声だが、不思議と耳に届く声である。


「ここよりはるか東の山に、リデェリアルという村がある。魔獣使いのレジェンドマスター・デニスなる者が住む村だ。大地球を壊す前にそこを襲撃し、殺してこい」

 巨神さんと青い犬さんが居候している村だ。


「人間を殺すのに、我がわざわざ出向くのかね?」

 不満顔のゼンダインである。いやいや、チミねぇ、それは考え違いだぞ。

 巨人さんの剛力と青い犬さんの搦め手を舐めてたら即死だぞ。


 旧神は、またもシニカルに笑った。

「レジェンドハイマスターは、このカムイに匹敵する戦闘力を持った魔獣三匹を従えている。現時点で、人類側最強の抵抗勢力だ」


 うむ! 従えているかどうかだが、その真の関係を暴露するとあまりにも旧神が可哀想なので、英国紳士たるオレは黙っておくことにした。


「なるほど。戦略的見地に見方を転ずれば、レジェンドハイマスターさえ倒せば、あとは無人の野を行くが如し。戦略上、重要な案件であるな」

 ゼンダインは、ギラリと擬音をたてながら笑った。器用である。メモしとこう。


「いいだろう。ここにいる連中を連れて行くぞ」

「まかせる」

 三分の一ばかりのジャイアントを引き連れ、ゼンダインは神殿を後にした。


 どうやって遙かリデェリアルまで行くんだろう? 目立たなければ良いんだが……。


「さてでは、こちらも用意するか。ジレル!」

「はっ! ここに!」

 後ろで控えていたはずのジレルが、オレの眼前に出現した。空間とか時間とか、お前旧神が定めた物理法則を舐めてるだろう? 


 ……、まあいい。


 ゼフ一族の中じゃ、ジレルはオレのお気に入り、とかいった位置にいるらしい。その派閥の権力は、長老を凌ぐとされている。……どんな時代でも人は権力志向に溺れるのだな。


「兵共は用意しておろうな?」

「ぬかりなく!」

 軍事関連は実質的に掌握しているらしい。


「では、ナ1号作戦を発動する!」

 これが事実上の宣戦布告となる。


「はっ!」

 ジレルが再度、低頭。そして声を張り上げる。


「特殊部隊召喚!」

「え? 特殊部隊?」

 ジレルが何か言った。


「巡回処刑戦隊前へ!」

「巡回処刑戦隊、ここに!」

 黒いニンジャスーツに身を包んだ若い男女四人組が、突然現れた。


「タテオオカ隊長は惜しいことをした!」

 巡回処刑戦隊の若者が、顔を伏せた。

 あ、なんか、人望厚かった隊長格の人が殉職したらしい。


「君達は風の戦士団だ。彼の分までがんばれ。ダッガー方面へ展開せよ! 命を惜しむな名を惜しめ!」

「はっ!」

 シュバッっと音を立て、姿を消した。


「おい! ちょっ、ジレル、ちょっ――」

「続いて、神魔死天王! ドラン王国でゲリラ戦を展開せよ! 恐車八部衆はオトリッチの港で破壊工作につけ!」

「いや、あの、こいつら何……」 


「ゼフリオン十六神将はブラッカへ進軍! あの時の恩を返してもらうぞ! ゼフトラーゼ三十二死装族はガバゴスへ! 存分に死の闇を振りまいてこい!」

「ジレル? ジレルさん?」

 オレが詰問する間もなく、戦隊シリーズは蜘蛛の子を散らすようにして神殿から消えてしまった。


「さあ、我らもうかうかしておられませんぞ! ささ、長老!」

「うむ、誰を信じ、誰を信じないか。全員装着(スタンディング・バイ)!」

 ザシュッと衣擦れ音を立て、ゼフの者共総員が、腹にベルト状の何かを巻いた。

 ヨボヨボの婆さんから、おくるみの赤子まで……

 端っこから火薬臭い糸が……。


「我ら、万が一の刻は、魔王城を枕に爆死の覚悟でございまする!」

「神殿な。おちつけ! おまえらどこの戦闘国家だ!」

 ペシペシと触手で床を打ち付ける。


「陸上の警備は万全だが、白紙委任の森を成す半島は海に囲まれている。海からの攻撃が心配だ」

 旧神は、左手で顎を支えるポーズをとっている。

「この状況で冷静でいられるとはさすが神」

「よせ」

 満更でもない顔をする旧神である。別に褒めていない。感情的にアレだと言ってるだけだ。


「安心したまえ、キリリッ! 既に艦隊を展開させている」

 オレに死角はない。


「主要施設には量産型カヤ、シラヌイ、シグレと実用1番艦ムツ、そして量産特防型ノワケとユキカゼを配備している。周遊打撃艦隊として発展型カイ、キイ、ヲワリの第一戦隊。並びに量産型特攻ムツキ、ムラクモと、量産改修型マキナミの第二戦隊が明日出撃する。さらに予備艦隊としてカゲロヲとオボロを待機させている。こちらも万全だ」

 オレが考えたさいきょうかんたいである。


 戦闘力は折り紙付き。一艦が深海の超獣さんに匹敵する戦闘力を持っているのだ。


「まだあるぞ! 勇者を消去した実績を持つ高出力荷電粒子砲、グランドキャノン改がベスギア=ガノザの大穴より全方位を睨んでいる!」

「カデンリュウシホウ? よく解らんが、体の芯を熱くする言霊だな」

 男の子で受肉した以上、旧神も熱き呪いより逃げることは敵わぬ!


「そして最期の一手! シャミイ!」

 オレは、満を持してエルフのメイドを呼んだ。


「何か用ですかよぅ?」

 柱の陰から小っこいメイドさんが出てきた。奥を掃除してくると言っていたが、表の騒ぎに興味津々だったのだろう。さっきから柱の陰でこっちを伺っていた。


「勇者の仲間達の像を掃除せよ。丁寧にな!」

「……腕が鳴るですよぅ」

 返事をするシャミイの目が、妖しいく光っていた。


「何をさせる気だ?」

 旧神は、勇んでお掃除用品を取りに行ったであろうシャミイの後ろ姿を不思議な面持ちで眺めていた。

「フッフッフッ! 人類最高クラスの個人戦闘戦力が稼働準備に入った。とでも言っておこうか!」

 こいつらは、ジレルの下へ配属する予定だ。駒として存分に使ってもらおう。 


「薬で……もとい、魔力で人の意思を狩ったり、植え付けたりはお手のもの。洗脳18禁バージョン発動!」

 汁っぽい音を立て、本体より、本気の触手注射針が地を這って神殿奥へと伸びていく。

「ふむ?」

 旧神は合点がいっていないようだ。


 プロの曲者集団であり、凝りに凝りまくった戦術を芸術に昇華させた魔族達に、ぽっと出の古巨人が敵うとは思えない!

 特に、森林戦に特化した白い魔族。あいつは厄介だ。

 ――ってセリフは飲み込んでいる。


「失敗したらカウンターで白紙委任の森に挑む魔族が確実に一人いる。そいつへの布石だ」

 オレは目的のための手段を選ばないことで魔族の皆さんより評価が高いんだ。用意周到、それがオレのチャームポイント。


「そうか、魔王城の守りは完璧だな」

 旧神は勝手に納得していた。

「そうだ。……神殿な」


 そして、オレは空の一点を見つ、ふと笑った。自分でも嘲笑(シニカル)だったと思う。

「旧神よ」

「なんだ?」

「ジャイアント共を引っ込めろ」

「なぜだ?」

 オレは怒声を放つ。

「ジャイアント共は役に立たねぇぞオイ!」



 真上に出現した小さな点は、すぐに大きくなる。

 昔、ナイトから教えてもらった。

 戦場を面ではなく点で捉える空挺隊の存在を。


 ……ああ、なんでこんな事になっちまったかな……。


 白面鬼さんが、白紙委任の森心臓部に突入してきた。

  





次話「魔族の巣窟」

高い場所からこちらに顔を向けている何百という魔族達


魔王さん、がんばるの巻。

お楽しみに!

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