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触手ノ王 10.反乱軍決起集会


「ゼフの者とエルフさんだけは譲れない!」

「何を言うか! 異世界神の作った者共は全て綺麗さっぱり消してくれん!」

「ばっ! おまえバカだろ? ご褒美無しで働くバカがどこにいる? オレだってそうだ! 世界中に根を張るって約束がなきゃ、真っ先に腹パンしてるぞゴラ!」


 オレと旧神との契約内容の枝葉に関する確認事項は続いていた。

 時間がないのは旧神の方だ。オレは何日だって係争してやれるぞ!

 とはいうものの、少しばかり落としどころの案内をしておいてやろう。


「エルフってのは、あんたが作った精霊が受肉した者を始祖とした一族だ。粗末に扱うのはどうかと思うぞ」

「むう!」

 旧神は言い及んだ。


 いわゆる血縁的な身内に冷たい態度を取れば、それはすなわち、現在の協力者であるオレにも、いずれ同じ扱いをするって可能性がある。なんてことを考えてるぞと、示唆してみた。


「同じく、ゼフはオレの眷属だ。オレの不自由な部分を補完してくれる存在だ。無碍にはできない!」

 それは殺気立っている。もういっそここでケリ付けて後は俺だけで計画遂行してやろうか?


「まさか、我をここで殺そうとか考えておらぬか?」

 旧神の目から重力にも似たプレッシャーを感じる。

「フッ、まさか」

 オレはプルプルと体を震わせて拒否した。


 旧神は、神とはいえ、それが持つ膨大な魂、つまり処理能力の全てをこの少年の体に移設したわけではない。

 物理的生物学的に無理である。

 よって、ほんの一部の魂、つまり限定的な機能を移設し、それで良しとしている。


 オレの本体が、スライムであるこの体に全ての機能を移せないのと同じだから、よくわかる。オレの場合は、必要な事項だけをコピーして自立性を与えているのだが。


 何が言いたいのかというと、ここでこのボウズを滅しても、旧神にとって大したダメージはないということだ。

 この程度の容量だと、深爪した程度のダメージだろう。逆にオレの方が手がかりを失うというダメージを喰らってしまう。


「ふふふ、まあ良いだろう。ゼフ一族と、エルフさんは限定地域のみで繁殖を許す」

「そうこなくちゃ!」


 予想より旧神の能力が低かった。

 いや、いやいやいや、これはオレの交渉能力が優れていただけだ。


「では、契約成立と言うことで」

「うむ」

 触手を伸ばして、握手を求める。

 旧神は、なんだ? とばかりにオレの触手を警戒した。


 握手には契約成立の意味があると、某商人に教えてもらったんだが?

 ……ああ、そうか。美少年の脳細胞を徹底的に書き換えたんだな。握手の習慣すら残ってないのか。


「じゃあ、次の行動に移ろうか」

 オレは、旧神を案内しながら神殿の外へ出る。

 ホールに並ぶ「勇者の仲間達」と題された彫像の間を抜け、テラスに出てきた。




 ここから見下ろせる庭に集まっているのは、ゼフ一族の者共。長老や主立ったリーダー達を先頭に、老若男女、大勢の者達が集まってざわめいている。

 不安なんだろう。オレが姿を見せると、ざわつきが小さくなった。


「よーし者共、静まれぃ!」

 オレは声を張り上げた。

 水を打ったように静まる魔王城、じゃなかった神殿前広場。


 オレを見上げる目、目、目。

 その目に恐怖はない。


 思えば、苦労の連続だった。

 単純戦力は魔族最強なんだが、その性質上、この地を離れられないオレ。

 絆が強く歴史も深い。されど、祖先の指導者が、ほんの一個だけボタンをかけ違っただけで安住の地を失い放浪するゼフ一族。


 両者の利害は一致しているのだが、ついこの間まで運命が邂逅を許可しなかった。


 きっかけは、小さな出来事だった。

 ヒビが入ったガラス細工をオレが拾うことで……。

 まあよい。今はそんな感傷に浸っている時ではない。


 ハレの時。

 さあ――。


「オレを信じろ!」

 オレが一声かけるだけで、ゼフの者達は、その場にひれ伏した。


 ヤツらにとってオレは神。旧神やアレな神を信じず、オレという神を信奉する集団。

 この地に住まわせた恩。子供達が健やかに育った恩。綿布市場を席巻したネタを提供した恩。白い塩の専売権を与えた恩。


「ゼフの者共よ! 過の時の恩を返してもらうときが来た!」

 オレの声は、磁力式音声増幅装置を仕込んだ石柱型触手により増幅され、広場全体に流されている。


「カムイ様よりの大恩。一族郎党、全てが命をもって報いる所存。何なりとご命令を!」

 ハゲ散らかした長老が、朗々と歌う。


 オレからは一言だけ。

「死んでくれ」

「合点承知!」

 長老は、二つ返事だった。


 判断とかしないのか? 判断する能力が欠如したのか?


 老人性痴呆症でない証拠に、ゼフの集団より歓喜の声が湧き上がった。

 拳を突き上げ、その決意を表示する。

 流浪の民をこの地に住まわせただけのこと。それだけで、この物共は犬のようにオレを慕い、祭り上げてくる。


 そうだ。

 オレはこれから、この者達と共に、セカイそのものへ戦いを挑む!


「ずいぶん飼い慣らしたものだな」

 旧神がシニカルな笑みを唇の端っこに浮かべて、この状況を見学していた。


 こいつは、こういうアツイのに興味がない。外の世界の出来事くらいにしか思ってない。

 それでもいい。


「ふふふ、そう思うかね?」

 泣きじゃくる女の子。未来を仲間に託して倒れた大人。光沢綿糸。白いけど黒い塩……。いろんな言葉が湧いては消えていく。


「よーし、静まれ、静まれ、どうどう!」

 オレの合図で騒ぎは収まった。


「では手筈通り、例のものを!」

「ははっ!」

 オレの合図で、人の群れに割れ目が入った。


 静かな熱に溢れる人々の間を縫って、ちょっとした行列が現れた。

 ゴブリン兵の集団である。


 ゼフの者達は、ボランティア係員の指示で、両脇へと移動。空間を必要以上に大きく空けた。

 粗末な装備で武装したゴブリン兵が連れてきたのは、手鎖足鎖で戒められた同族のゴブリン達。


 こいつらも犯罪者だ。

 どれもこれも目つきが悪い。……ゴブリン兵も目つきは悪いが。

 その数、10匹。


「これで良いか?」

 オレは旧神に、わざわざ向かって聞いた。


「いいだろう」

 旧神の目が赤くぼやけた。

 その目は鎖で繋がれたゴブリンに向けられている。


「よし、では召喚の儀式をはじよ」

 はじめよ! と言われるが、召喚の儀式なぞ打ち合わせになかったぞ?


「具体的には何をすれば良いのだ? すぐに用意できるものなのか?」

「簡単だ。要は、対象者の霊的レベルを墜とせばいいのだ」

「どうやって?」

「……まあ、一般的には堕落させることかな?」

 あ、こいつ、詳細を知らないな。


「具体的には?」

「堕落と言えば、有名なのが『七つの大罪』であるな。七つの大罪の再現を命じよ!」


「七つの大罪ってなんだ?」

「暴食、強欲……スズナ、スズシロ」

「春の七草混じってるし! しかも7つの内、4つで打ち止めかよ!」


「むうっ! 低レベルで降りたので、記憶に欠如があるのやもしれん」

 腕を組んで真剣に記憶層をまさぐる旧神。徐々にポンコツ臭がしてきたぞ。

「いだろう。オレが七つの大罪を列挙してくれん!」

 胸を張って一歩目へ出るオレ。


「それは『暴食』、『強欲』、『怠惰』、『傲慢』、『薄い本』、『児童ポルノ』、『マッサージ中の睡眠』これぞ七つの大罪!」

「ええっと、前の4つと後半3つの語感が違う気するが……」

「え? 後ろの間違ってたかな?」

 旧神に指摘されたら、自信がなくなってきた。


 いや! ここは強気で押し切る場面だ!

「はぁ? だいたい合ってるだろ? 怠惰的な意味で」

「まあ、確かに。堕落的な意味で」

 自信の無い旧神と、確証のないオレは頷きあった。


 そんなふんわかした空気が流れようとしたときである!

「ゴウワッ!」

 一匹のゴブリンが悲鳴を上げた。


「うわっ!びっくりした!」

 ゴブリンは、口から泡を吹き出し、苦しそうに喉を掻きむしる。


「ふっ」

 旧神が意味ありげに笑った。

「どうやら始まったらしいな」

「七つの大罪、意味無かったな」


 ついには転がって悶えだすゴブリン。

 隣で繋がれていたゴブリンが、不安な目で、藻掻く仲間を見つめていたが――


「ゴフゥッ!」

「ケポッ!」

 同じく、苦しみだした。


 苦しみが伝播する。鎖に繋がれているゴブリン共が、次々と泡を吹き出した。

 慌てて逃げ出すゴブリン兵。

 うむ、それは正しい判断だ。


「オゴハァーッ!」

 最初の一匹の体が爆ぜた。


 血を吹き出しつつ、その血を吸収しつつ、また肉が爆ぜ、肉が再生し、巨体化していく。

「オオオオォォンン!」

 完成されたのは――


巨人(ジャイアント)?」

 オレの後ろで小さな声が上がる。ジレルだ。


 驚愕の眼差しで、それでも表情を動かすことなく、その現場を見つめている。

「違う、巨人族だ。古巨神族(エルダージャイアント)だ」


 こいつは、古の創成期以前より住んでいたとされていたエルダー・ジャイアントである。




次話「エルダー・ジャイアント」


……ああ、なんでこんな事になっちまったかな……


お楽しみに!

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