触手ノ王 9 反乱軍の戦力
ちょっと短いです。
「我は神なり」
オレは、頭の痛そうな男の前で……。
オレは、旧神の前で、形だけひざまづいている。
スライムなので、背が若干縮んでいるだけに見えるだろう。
旧神から見れば頭を下げている図。第三者から見れば、縮んでいるだけの図。
初歩的な駆け引きである。
「触手の魔族よ、戦力がそなただけでは心許ないな」
何いってやがる! ……と心の中で叫びつつ、態度には表さない。
今は対等な関係だからな。
対等ってことは、互いに利用しようと手ぐすね引いている状態であると言い換えても良い関係だ。
ちょっとでも弱みを見せれば裏切り行為にでる。旧神もオレもだ。
で、今現在の状況は、オレに分が悪い。
人の肉体に憑依した旧神は貧弱だ。ちょっとでも気の利いた魔族なら、一撃で葬れるだろう。
お利口さんな魔族なら、手を出さない。
なぜなら、この痔持ちの人間体には、ほんのちょびっとしか旧神の本体が入っていない。力のほとんどはアストラル界においてきている。
ここで痔瘻野郎を叩き潰しても、旧神は一向にかまわぬだろう。
旧神にとって時間は無限。また次の機会を狙えば良いだけのこと。
そういうことで……。
オレも、自分を売り込むとするか。
「オレ一人じゃない。強力な魔族を三人ばかり引き抜いた。みんなオレの行動に賛同してくれた者だ」
この日がくるにあたり、オレは水面下でめぼしい者達と接触。説得工作を続けていた。
その甲斐あって、強力な同志が四人も出来上がった。
「ほう?」
旧神は、片方の眉を上げた。
「ネコ耳さんこと、幻惑の魔獣チュシャ。ポイントを『俊敏』に全振りした魔族」
「それがどうした?」
「あんたのベヒモスはパワーに全振りしている。相性悪そうだろ?」
旧神は黙り込んだ。
「二人目は透明の巨獣、レプラコーン」
「小人がどうした?」
「魔宮の回廊に一度も入ってない魔族を恐れるか? 正体が解らない謎の魔獣だからな」
旧神は再び黙り込んだ。
「現にさっきまで目の前にいたんだぞ。気づかなかったか?」
「フッ、馬鹿にするな。それくらい気づいておったわ!」
旧神はキザったらしく前髪を掻き上げた。
「神相手に言うまでもないが、知能の低い生物ほど見えにくいというスキルを持っている」
「フッ、そのようだな」
嘘だけど。
そこにいた、ってのも嘘だけど
さらっと次の説明をしよう。
「天空の城、バアル・ゼブル。上空からの監視は、白紙委任の森全土に及ぶ。魔族の進撃は手に取るようにわかる。あと攻撃が届かない高空からの狙撃はエグイぞ」
「まともに使えそうな駒だな」
「ついでに言うと、こいつも魔宮入りしてない魔族だ。ただし、体格的に入れなかったてのが悲しい真実だが」
三度黙り込む旧神。
魔宮の回廊ネタが利いたのか、入れなかったって悲劇に涙したのかはわからない。
「最後の大物がエルダー・ドラゴンのエティオラ先生だ」
「ちょっとまて。それは受け入れがたい!」
旧神が手のひらをこちらに向けて、俺の話を遮った。
「エルダー・ドラゴン種は、我に戦いを挑んで滅びたはずだ!」
世界創世のおり、神の亜種とも言うべきエルダー・ジャイアントは肉体を持たぬ故、被害は無かった。
だが、肉体を持つエルダー・ドラゴンは神の所業をよしとせず、戦いを挑み、結果、全滅している。
「卵? から孵ったばかりの個体が生き残っていたらしい。親が巧妙に隠していたようだな。その戦闘力は恐る――」
「まて、サラッと流すな! だとしたら、我は親と一族の憎き仇ではないか?」
「だな。だから?」
オレは二股触手の間に、ナス科の葉っぱを乾燥させ紙で巻いたアレを挟んで弄んでいた。
「我の敵に回ることはあっても、仲間になることはあり得ない!」
そうだよな。普通、疑うわな。
どうやって説得するかな?
複雑だから、わかりやすく箇条書きで説明しよう。
「アレだ。
その1、最後の決戦が行われたのは、卵から孵ったばかりだった。
その2、だから記憶が御座いません。
その3、彼が求めるのは、誰にも介入されない静かな生活。ヒントは、何かと騒がしい魔族。
その4、自堕落だが魔族最強戦力だから、丸め込むのに必死だった。
これで察せるな?」
旧神は黙って聞いていたが、話が終わるとすぐに口を開いた。
「……つまり、保守的な引きこもり、だと?」
「いや、本人は軍属だと言ってたぞ。自宅警備兵で、警備所轄責任者だと……ほら、名刺」
オレはカード状の印刷物をナイショの収納箇所から取り出した。
「あ、ほんとだ。書いてある。ってかこの地位を証明するソースあるのか?」
そこから小一時間、中身の乏しい会話が続くも、どうにか納得してくれた。
「次、ゼフ一族なんだが――」
「人間は殺傷対象だ」
早くも交渉は決裂の様相を呈していた。
次話「反乱軍決起集会」
「オゴハァーッ!」
最初の一匹の体が爆ぜた。
お楽しみに!




