表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/152

5.天下分け目の戦い、っぽい何か


 ここは川中関ヶ狭間の盆地。


 日が昇る少し前。いまだ朝靄が消えきらぬ時間。


 この場所は、西の国から東に国へ向かう為、必ず通過する土地にして国境地帯。

 そして、この辺りで唯一、万単位の軍隊を動かせる場所。


 昨夜より、この地に二つの大軍が陣を張っていた。

 ダンクタマール王国軍が東の山を背にして。

 アルトリッチ公国が西の山を背にして。


 両軍の動員数は総計10万とも50万とも数えられている。

 明け方の濃霧は濃く、手を伸ばしてもその指先が見えぬほど。

 霧が晴れなければ、互いにどのような配置をとっているのかも解らない。

 神のみぞ知る。である。

 兵士達は、濃霧の晴れる時を手に汗握り待っていた。


 ダンクタマール国王は、床机に腰掛け、激しく貧乏揺すりを続けていた。


「聖騎士団のいない今。ランバルトが大きく衰退した今。ゴルバリオンが滅びた今。平原を制するのは我らダンクタマールしかない!」


 気が焦る。しかし、鎮めよ。

 彼が敷いた陣形は、鶴の翼に似たもの。受けに特化した形状をしている。

 陣を敷いたのは昨夜の内。

 濃霧が晴れるまで、互いの手の内は見えない。


 ――のだが、既に戦いは始まっている。


 実は、アルトリッチ公国の将の一人、ロックウェルと通じているのだ。


 その将は、本陣の背後の小山に陣取っている。

 先端が開かれれば、アルトリッチの本陣へ突撃することになっている。


「戦う前に勝敗はきめておくものなのだよ」

 王は、必勝を確信していた。だが、貧乏揺すりは止まらない。




 アルトリッチ公国の王は、馬上にいた。


「ロックウェル卿の裏切りは掴んでいる」

 王は片頬を極端に歪めて笑った。


「ダンクタマールは、知られていることを知らない。おそらく、薄い防衛ラインしか引いておるまい。速攻でカタを付ける!」

 王直臣の騎士全員が突撃態勢をとっていた。


「時間が味方してくれようぞ!」

 風が出てきた。

 もうすぐ霧が晴れる。





 再びダンクタマール王国。


「配置完了しました」

 王の陣を中心にして、強固な防御網が出来上がっていた。


「アルトリッチの王のこと。裏切りを察知して、先手必勝でかかってくる。そこを受け止められれば、背後よりの攻撃で総崩れ間違いなし。時間が味方してくれようぞ!」


 日が昇る。空気が緩やかに動きだす。

 目の前の霧が流れていく。

 視界が開く。


「近い!」

 ダンクタマール軍の眼前に、アルトリッチ軍が突撃態勢で展開していた。 

 アルトリッチ軍はダンクタマール軍が広げた翼に押し包まれていた。


 そして……。


 黒い巨体が、両軍の中央にたたずんでいる。


「「……黒い巨体?」」

 二人の王は、小首をかしげた。


 黒い……竜? 


「ギュルルッ! ギョェー!」

 黒い竜が吠えた。


「「毒竜(ベノムドラゴン)、スイートアリッサム!」」

 またもや両王がシンクロして叫ぶ!   


「はいちょっと通りますよ」

 神を狩る狼、フェリス・ルプスの背に乗った少女が、にらみ合う両軍の間をトテトテと進んでいく。

 すぐ後ろに見事な体格の青毛馬が続く。


「うっ!」

 馬の狂気をはらんだ目がダンクタマールの王を射貫く。

「ぐっ!」

 返す刀でアルトリッチの王を睨む。

 それだけで動けなくなる。


 そして真打ち。褐色の巨体。不滅の巨神が、両軍を睥睨して歩を進める。


「リデェリアルの……レジェンドハイマスター、デニス・リデェリアル」

「リデェリアルの魔獣使いが動く時、必ず悪の動乱有り……」


 我らは悪ではないぞ。

 ならば、悪はどこにいる?


 ……まさか! 我らが知らぬ地下で悪が蠢動しているのか!?


「おっさん達」

 青毛の馬に乗った少年が、語りかけてくる

「無駄な体力消耗してんじゃねぇよ。国で大人しくしてな」


 何を言っているのだ、この少年は? 謎かけか?


 災害魔獣とそれを操る少女は、静かに粛々と通り過ぎていく。

「キュルルィ!」

 一声上げたスイートアリッサムが、空へ舞い上がる。

 羽根を一羽ばたき。東の空へ消えた。


「斥候にベノムドラゴンを使うか? なんて贅沢……いや、まるで進軍ではないか!」

 どちらかの王の言葉だ。


「体力は温存すべき。という意味か? ……全軍をあげなければならぬ敵が存在するのか? どこにだ?」

 どちらの王の言葉だろうか?

「リデェリアルのレジェンドハイマスターは、国家規模の諜報能力を超えている強敵と戦おうとしている?」


 これは、二人の王の言葉だ。

「何と戦おうとしているのだ?」

 


 

 その日、両軍はぶつかることなく、整然と引き上げるのであった。

 後日、両国の間に不可侵条約が結ばれた。


 戦争に徴用された人々とその家族は、素直にこれを喜んだという。





「カムイ様。このお方は?」

 何も知らないジレル。

 いいだろう。教えてやろう。



次話、触手ノ王編「邪神降臨」

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ