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4.小悪党会議

 やあ、レム君だよ。


 某国出張が決まったよ!

 ただし出張手当は出ない。おまけに手弁当である。


 問題は……。

「いかにしてデニス嬢ちゃんを連れ出すか? だな!」

 先ほどからガルが頭を捻っている。


 リデェリアル村は全滅したわけではない。二十数軒を成す村人が無事だった。

 ただし、長はもういない。


「そうですね。嬢ちゃんは村に必要な人物ですし、発言力も大きいですからね」

 デニス嬢ちゃんは、その実績により若輩ながら、村の重鎮となっていた。ちなみにジム君は秘書扱いである。


「レム君、なにか良いアイデアはあるかね?」

 困っているガルを見るのもまた楽し、である。

「ここは一つ、サリア姐さんの幻術で……」

「嫌よ」

 はいちょっと通りますよ。といった風情で、サリア姐さんが右から左へ歩いていった。


「うむ、将を射んと欲すればまず馬を射よ。だな」

 その諺は、地球のものなんだが、……あいかわらずガルの世界観が解らない。

「よし、ちょっくら黒皇先生に話してくる」

 ガルは身軽に走っていった。


 ……だいたい解った。

 先ず馬を射よ、か。

 黒皇先生に正義とか世界のオワリなどをとくとくと説くのだろう。

 ……馬だけに。

 ウマいこと言えた。HAHAHAHA!

 ……。

 あれ?

 



 その夜。


 草木も眠る丑三つ時。

 リデェリアル村は、ミルクのような濃い霧に包まれていた。


「起きなさいデニス。世界の危機が訪れようとしているのだぞ!」


 デニス嬢ちゃんの夢に、前の長である父と、師匠であり先代の長でもある祖父が姿を現した。

 ついでに言うと、嬢ちゃんだけでなく、村人全ての夢に両名は出演していた。


 どうせ嬢ちゃんのこと。村人への説明でアワアワするのが目に見える。だったら、いっそのこと全員に同じお告げを聞かせて。アワアワを省いてあげようという魔族のフォローである。


 一応、立ち位置は、父ちゃんと爺ちゃんの一番近くに嬢ちゃん。少し後ろにジム君。間を空けて村人の集団となっている。


 嬢ちゃんはポカンとお口を開けて、父ちゃんと爺ちゃんを見つめたままだ。

 ガルが書いた台本と、ちょっと違う展開だ。

 ここは、デニスが二人の肉親に抱きつくシーンのハズである。


 そこはさすがサリア姐さん。神対応をしてくれた。

「デニス、よく頑張ったね」

 父ちゃんが褒めた。厳つい顔に浮かぶのは、優しい笑顔だった。


「おっ、おとっ、お父さん!」

 デニスはわんわんと声を上げて泣き出した。

 この光景にジム君はもちろん、村人達ももらい泣きしている。自分の死んだ肉親に重ねているのだろう。

 なぜか先輩ももらい泣きしていた。


「デニス。顔を上げなさいデニス」

 呼びかけが、野太い声から、ダイヤモンドを転がす様な声(本人談)に変わった。

 いつの間にか、父ちゃんと爺ちゃんの前に、美女(当社比50%増量中)が現れている。


「私の名は、サリア。リデェリアル村の創始者サリア」

 村の創始者にして、初代レジェンドマスター、サリア様顕現である。


「デニス。事、此処に至る故、今だからこそお話ししましょう」

 全てをうやむやにしてしまうお言葉をいただいた。


「いままでの不幸な出来事。聖教会の乱。ゴルバリオン帝国の侵略。そして、巨人の出現。すべてがこれから起こる動乱の予兆なのです」

 いつの間にか、そういう設定になっていた。

 ガルが本気で本を書けば、どんな出来事が襲ってきても辻褄を合わせてくれる。


「それは一体……何が起ころうというのですか?」

 嬢ちゃんの立ち直りは早い。身の丈に合わない背伸びが、見ていて忍びなかった。


「ガル、レム、スイートアリッサムを連れ、アンラ=マンユに会いに行きなさい」

「え? 魔王?」

 嬢ちゃんの動揺が激しい。目が盛んに泳いでいる。


 アンラ=マンユ。それは魔王。――実は魔族の自治会長。

 6大災害魔獣中、最大の戦闘力を持つ。――と魔族公式設定書47pに書かれている。

 魔王の名を聞いて、背景と化していた村人達もざわつきだした。


「お姉ちゃん、落ち着いて!」

 さすがジム君。こういう時、真っ先に我に返る。参謀タイプ。そう、けっして主人公になれない参謀タイプである。


「わたしは何をすれば……」

 ジム君の言葉で嬢ちゃんが落ち着きを取り戻したようだ。一杯一杯だが。


「その目で物事を見極め、その耳で真理を聞き、世界の崩壊を防ぐ方策を見つけ、行動するのです」

 サリア様の背後に光り輝くスクリーンが現れた。

 映し出されたのは大地球の地図。この世界にない技術革新である!


「アンラ=マンユが潜んでいるのはここ」

 指し示された場所は、遙か東の大オリンポス山脈を越えたコア帝国。

 ここに魔族闘技場会館があるのだ。


 ……ふざけたことに、コア帝国王都、ゴッドリーブにあるドーム型コロッセオの地下に、極秘で設けられていた。魔族収容人員3万人を誇る巨大施設だ。(ガル氏談)

 ……もう人間を嘗めているとしか思えない。


「近くまで行けば、ガル達がアンラ=マンユの元へ導いてくれるでしょう」

 サリア様のお姿が薄くなっていく。


「もはやこの世を救えるのはあなたしかいません。行くのですデニス。皆の者は、デニスへの尽力を惜しまぬように」

 すーっと姿が消えた。


 リデェリアル村の住人達は、深い眠りへと落ちていった。


「ハイ、カッート!」

 ガルより一発OKが出た。




 翌朝。


 リデェリアル村は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなっていた。

 デニス嬢ちゃんは、案の定アワアワしていた。


「くーっ! たまらねぇぜ!」

 どこからか高度なフェチに浸る声が聞こえてくる。


 アワっているデニスを置いといて、ジムの指揮の下、村人総出で準備が進められていた。


「食料品チェックリストー! 野宿用品そっちに回せ!」

 村人達もノリが良い。自分たちが選ばれた一族であると誤認した模様。

 これが選民意識というものか!?


 ……こうやって新興宗教は起こっていくのだな。

 ……一件落着したあとで、一度シメとかないといかんな。


「後のことは考えるな!」

「この村は俺たちに任せ、デニスは先に行け!」

 微妙に死亡フラグを織り交ぜながら、旅の準備は進む。


 夜の送迎会を恙なく終え、翌朝、日の出と共に俺たちは出発した。




 何故か先頭は俺。ガルに乗ったデニス嬢が次。黒皇先生に乗ったジム君が続き、殿がサリア姐さん、といった一列縦隊である。


「だいたいパーティの先頭は一番強い戦士と相場が決まっている」

 最強戦士。それは俺!

 さすがガル。よく解っておられる。

 先頭は俺に任せとけ!

 


 さて……、


 パーティーの目的地はオリンポス山脈の向こう、コア帝国首都。

 世界の背骨と呼ばれるオリンポス山脈。7千メートル級の山々が連なる、ゴンドアナ大陸最大の難所を越える旅である。


 まともに進めば、どえらい苦行となるのは必須。

 デニス嬢ちゃんとジム君は、口を真一文字に引き絞り、その目に覚悟の炎を映している。


 実のところ、例の回廊を使えば、それほど時間はかからない。

 最初の入り口は、村から半日先の地点に出現予定、という話だ。


「サリア、体調に不備はないか?」

「ええ、なんて事ないわ」

 サリア姐さんをかばう黒皇先生。言葉に甘えるサリア姐さん。胸焼け激しいガルと俺。


 そんな感じで、緊張しまくる人間二人をよそに、俺達人外は、のんびりと歩を進めていくのであった。

 


 


次話「天下分け目の戦い、っぽい何か」


「斥候にベノムドラゴンを使うかッ!?」

お楽しみに!


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