3.天動
やあ、レム君だよ。
ちゃちゃっと巨人をやっつけて、村へ戻ってきたんだけどね。なんだろう、あの巨人?
「古巨人族だな」
明後日の方向を見ているガルが、オレの言葉を拾っていた。
「なんすか? それ?」
「え? 何のこと? オイラ何も言ってねぇし! ブズズー!」
吹けないくせに口笛を吹こうとする。
「またなんか、こう、古代から続く種族みたいな……でも先輩は知らないみたいだし」
「古巨人族とは、古竜族と並び、神がこの世い秩序をもたらす前の、混沌の時代より住んでいた種族だ。高い知能と攻撃力を誇る。なめてかかっちゃ火傷するぜ」
知らないんだろうと、と煽ったら解説しだした。
……チョロい。
「そこら辺で出没している巨人とは全くの別種。根源が違う」
いわゆる……もの凄く強い古の種族って事だな。……オレは一撃で葬ったけどな!
「問題は、なんでそんな大御所が、今更の様に出てきたのかって事ですよね?」
ガルは目を右斜め上に向けたまま、黙っている。
何かを考えている様でもなし、ボーとしている様でもなし。デモンズ・ペディア・サブフレームとかを覗いている時の癖だな。
「各地で古巨人族が出没しているみてぇだな。複数の魔族が観測している。たいがいは人間の大都市を襲撃してるけみてぇだが……、魔族のやんちゃ共と一戦交えてるらしいぜ!」
そのやんちゃ坊主がここにいます。
「情報の共有化は便利ですね。緊急事態に力を発揮しますからね」
「え? うん。まあそういう使い方もあるな」
ひょこっと目を丸くするガル。……あれだな、魔族のサブフレームは、無駄な使われ方しかされてなかったな!
「あ、てぇへんだ。魔王さんが戦いに巻き込まれて大怪我したらしい」
ガルの表情が引き締まった。
「魔王さんがやられたって……勇者にですか?」
大怪我をした魔王さんが心配だが、戯れに作った「ハーレム勇者撲滅委員会」の会長職を拝命している俺としては、黙ってはいられない。
ちなみに副会長がガルで、書記が白面鬼さん。
「勇者じゃねぇ。勇者は触手さんが押さえている」
触手さんも、我がハーレム勇者撲滅委員会の副委員長見習い心得という重鎮である。
「じゃあ誰に?」
「……耳貸せ」
俺はガルの口元に耳を……俺の耳ってどこだって?
俺はガルの口元に側頭部を近づけた。
「あのな――ゴニョゴヨ」
「なんですって!」
た、大変だ! 大変な事になっている!
「じゃあ、エルダー・ジャイアントの出現も、これに関係しているとみて……」
「おそらく、それは正解の1つだ」
ガルが目を細め、回りくどく答えた。何か悪巧み……もとい、思考に耽っている時の癖だ。心の中が顔に表れるタイプなんだな。
「ちぃと、魔族格闘技会館へ出向いてみるか。レム君も顔貸してくれや」
魔族格闘技会館とは、魔族が顔をつきあわせて下らない遊びをする、もとい……会合を行う施設である。
「それはかまいませんが、先輩もリデェリアル村を出るんですか?」
「そうだよ」
「デニス嬢と離ればなれに?」
「何言ってやがる!」
突如としてガル先輩が切れた。
「オイラと嬢ちゃんは一心同体! 嬢ちゃんの筆頭使役魔獣の名にかけて、一時たりと離れるわけにゃいかねぇーぜ!」
この人(狼)、デニス嬢ちゃんのことになると、簡単に人生を棒に振ってしまうのな。
「謎を解くため、オイラと嬢ちゃんは旅に出る!」
そう言って、ガルはこちらをチラ見した。
「どうぞ、行ってらっしゃい」
行きたいんなら行けばいいじゃん?
途端にガルは悲しそうな目をしだした。
「おめぇそりゃ冷たかろう? オイラ達ゃぁ生死を共にしてきた仲間じゃねぇのか? 言わば戦友だろ? よし解った! オイラの為じゃねぇ。世界平和のために立ち上がる、か弱き嬢ちゃんのために戦士として立てばいいじゃねぇか! 嬢ちゃんのために、いや、この大地球を悪の手から守る為に、いっちょ命を捨てようと思わねぇか?」
「長げーよ。簡単に命捨てたくねぇし」
「何だと! よーし、もう一度いちから説明する!」
「わかりましたから、一緒に行きますから、これ以上長台詞でくどくど言わないでください」
「わかりゃ良いんだよ、わかりゃ!」
ガルの勝ち誇った顔が小憎らしい。
「あーそうそう、先輩……」
「何だね? レム君」
見下し目線が腹立ちますわ!
「まだ何か隠してますね?」
「……え? ボクなにも隠してないよ」
カマをかけたら、あっさりゲロりやがったよこの狼。
いったいどこまでの台本が書かれているんだろうか?
俺は何も言わず、ジト目でガルを見つめ続ける攻撃に出た。
「よし解った! レム君の肝が座るこの瞬間をオイラは待っていたんだ!」
さらに無反応でガルを見つめ続ける。
「……うむ、なんだ、レム君には魔族忘年会……もとい、魔族会議に出てもらおうと思ってな」
さすがに空気を肌で感じたのだろう。ガル先輩の態度が軌道修正された。
「そこで、今回の出来事について、その因果を含めて話がされるだろう。事はこの世界の生成と終焉に関わる事態だ。今回に限って、……いや、今回だからこそ、レム君に参加してもらいたい」
……どういうことだ? 世界の終焉って?
「詳しく話を聞かせてください」
俺はガル先輩に覆い被さるようにして身を乗り出した。
「今はダメだ。今の、この内容程度でも話すだけで危険なんだ。そして、そんなレベルの敵なんだ。察してくれレム君」
巨大なインチキ宗教。暴力による世界征服物語。
過去、俺達が関わってきたストーリー。
それは世界を揺るがす出来事だった。
ただし、人間界の。
ガルが言っているのは、……おそらくこの世界、大地球の根幹に関わること。生物、無生物に関係なく、平等な危機が訪れること。
「そういう事なんですねッ! 先輩ィッ!」
「魔族闘技場会館へ行こう。今はこれしか言えねぇ。……すまねぇレム君。やっぱ巻きこんじまった……」
耳を垂れ、項垂れるガル。
わかった。
俺も男だ。
この力。この体。役に立つのなら立たせてみよう!
「行きましょう先輩。魔族達の元へ!」
ガルは黙って頷いたいた。
おおおおおおっ! やってやるぜ! 俺の力は世紀末のためにあるのだ!
「そうと決まれば、いろいろと準備が……」
おれは小用を済ますため、急いでこの場から離れた。
ガルは、小走りに走り去るレムを、じっとその目で見つめていた。
そして一言。
「……チョロい」
次話「小悪党会議」
レム君、某国へ出張する の巻!
お楽しみに!