触手ノ王 7.そして、含みのラスト
数万度の高熱を浴び続けたリヴァイアサン。撃墜により海に落下。
同時に爆発的な水蒸気が発生。熱を持った頭部が海水で冷やされたせいで大量の水蒸気が発生したのだ。
水蒸気により、カゲロヲ周辺の視界が悪くなった。
「おい、どこいきやがった?」
リヴァイアサンを見失ってしまった。これはマズイ!
「狼狽えるな!」
白面鬼さんより渇が入った。
「ヤツはすぐに顔を見せる。この間を利して、全ての砲門を開くんだ」
白面鬼さんは冷静だ。感情表現に一部欠落があるためだが、こういうときは頼りになる。
案の定、白面鬼さんの予言通り、カゲロヲの艦首近くに巨大な水柱が上がる。
「ギョエェェェ!」
何故か聞くだけで腹が立ってくる叫び声。水柱を割って、リヴァイアサンが顔を出した。
頭部キチン質装甲に、細かいヒビが無数に走っている。
……なんで無敵装甲にヒビが? ……あ!
そう! 石屋が岩を割り出す際、焚き火を焚いて水を掛けるのはなぜか? それは、岩を脆くして加工しやすくするためだ。その原理が、リヴァイアサンの強固な装甲にも採用されたらしい。
オレは、無意識に適切な対処方法をとったようだ! さすがオレ!
「狙ったとおり!」
白面鬼さんの疑わしさ満点の三白眼を浴びながら、次の攻撃を指示する。
「爆裂火槍、全サイロ発射! 主砲、前面へ回せ! 戦艦の戦い方というものを見せてやろう」
第一主砲前面の甲板に設置されたサイロより、爆裂火槍が連続して飛び立った。
真横を向いていた砲塔を回転させ、正面へ向ける。今度こそ止めを刺してやる。
爆裂火槍が三本命中した時点で、リヴァイアサンはカゲロヲの艦首に接近。
ぶつかる!
「主砲発射! 零距離射撃だ!」
二基六門、きっちり並んだエグニ・ブラスタが、ヒビの入った装甲版へと突き刺さる……と見えて、かわされた!
リヴァイアサンの必殺ボディプレス。空中へとその体が舞い上がる。
「必殺技は、何度も使うと対処しやすいだけの大技になりさがるんだぜ!」
カゲロヲ艦首近く、左の海中から、太い柱が飛び出した。
オレの必殺技、質量保存の法則無視の触手パンチだ!
先端を艦体装甲のままにした触手が、リヴァイアサンの無防備な顎の下を突き上げる!
衝撃で舞う水しぶき。
中天にかかる月光を背後に、虹が架かった。
勝利の虹だ。
体をくの字に折り曲げて、リヴァイアサンが落下体制に入る。それは、攻撃を目的としない無防備な落下である。
「今だ!」
艦首右側より、もう一本の触手が伸びる。先端部には同じく装甲を仕込んでいる。
触手の重い一撃が、リヴァイアサンの頭部装甲へ突き刺さる。ヒビが入った装甲へ。
「これが戦艦の戦い方だーッ!」
「異世界人のナイトがここにいれば、気の利いたツッコミが入るであろう!」
冷静な考え型突っ込みありがとう、白面鬼さん。
装甲の破片を撒き散らし、横方向の回転に入るリヴァイアサン。
ひび割れた装甲の奥に、ピンクの柔らかそうな肉を覗かせながら、リヴァイアサンが仰向けに倒れる。
「主砲! てぇー!」
一番と二番の主砲が一度気に吠える!
狙い違わず、亀裂の奥へ吸い込まれていく。
リヴァイアサンの頭部が爆発した。
「前部高射砲塔群、集中!」
小型の重力砲が、不可視の弾丸を容赦なく軟らかい肉へブチ込まれていく。
手応え有り!
海面に大波が発生。カゲロヲの船体を揺らす。
リヴァイアサンが沈んでいく。海面を真っ赤な液体で染めながら。
『遅れてスマン!』
深海の超獣さんから、魔族通信が入った。
『後は任せろ!』
眷属を引き連れて急行してきてくれた深海さんが、沈んでいくリヴァイアサンにえげつない攻撃を加えていく。
リヴァイアサンにまとわりつく眷属達も的確な攻撃を加えて着実に死を近づけていく。
「さすがに深深度用の攻撃手段は持ち合わせていない」
任せるしかない。
でも、決着は付いたな。
これで残る三魔の分体は、リバイアサン2号と3号。ジズ3号。この3体だけだ。
数は3つだが、種類が違う。合体など……。
合体したらどうしよう?
「これが最後のリヴァイアサンとは思えない」
空気を読んでくれた白面鬼さんが、物語を締めてくれた。彼女にも死角はなかった。
「第二第三のリヴァイアサンが現れないとは限らない」
否定の連続である。
「ワレワレの戦いは終わった。諸君、ご苦労であった」
オレ自身でもあるスライム七匹と白面鬼さんの、合わせて八匹に礼を述べる。
「これより、本艦は府中基地へ帰投する!」
全ての触手をしまい込み、形だけ普通の戦艦にもどったカゲロヲは、艦首を大きく回頭。白紙委任の森へと進路を取った。
気がつけば、あたりが白み始めていた。
「全速前進! 水中翼出せ!」
今の人類に目撃されるといろいろやりづらくなる。
五十ノシトを叩きだし、勝者であるカゲロヲは、逃げるようにして母港へと向かった。
さて、 ワタシは芝生のような存在です。
根さえ張れば、本体から切り離されても増えていくことができます。
ゼフの者を使えば、白紙委任の森から離れた土地に繁殖することも出来ます。
このカゲロヲを使えば、海の向こうの大陸にも繁殖することが出来ます。
ワタシは、安穏とした暮らしの終焉を予感していました。
さあ、お遊びはこれからです!
この大地球をワタシの触手で覆い尽くすまで!
ワタシの名の下に世界は幸福に支配するであろう!
そーなりゃおめー、やりたい放題だよウワハハハハハ!
あれだよ、エルフのお姉ーちゃん、いっぱい繁殖させて――
『話がある』
うわっ! なんだ?
いきなり脳に……いや触手だから脳は無いけど。
「あんた誰?」
『神だ』
神が語りかけてきた。ワタシの外部デヴァイスであるスライムに。
超絶的なプレッシャー。スライムの体と長くは保たない。
「な、何の用だ?」
ふんふん、ほうほう……。
……え? ええっ! ちょっ! ええーっ?
「何一人で悶絶している? 体色が悪いぞ」
白面鬼さんがオレを心配していいる。
でもな、白面鬼さん。心配はしなくてもいい。これは一生に一度のチャンスなんだ。
だが、混乱しているのも事実。
ありえねー。ありえるけど、ありえねー!
「白面鬼さん」
オレは静かに語りかけた。あるレバーに触手を伸ばしながら。
「どうした? 柄にもなく?」
オレが真面目に話しかけるのが柄なのか否かは置いといて……。
「神が降りてきた」
「あの神様が? 珍しいな」
「あの神様じゃない。……また会おう」
オレはレバーを引いた。
「またかょ――」
緊急脱出口が開く。白面鬼さんは縦穴に落下していく。
艦橋後部より爆裂火槍は飛び立った。白い煙の尾を引いて、天高く舞い上がる。
陸まで届くかどうか? ちょっち足りないか? 白面鬼さん、泳げなかったっけ?
まあいい。
「邪魔者は消えた。じっくり話を聞こうか?」
カゲロヲの艦橋。その空気が波動を伝える。
特殊な透明金属でできた窓が音を立てて震えていた。
……何かの思念が……空間を……歪め……はじめ……る。
触手さん編終了。
次話「電光石火! 魔獣戦隊DGL+S!」
やっとこさレム君大活躍の巻!




