触手ノ王 6.カゲロヲ
ナガトは、リヴァイアサンの一撃でもって真っ二つに!
主砲だのなんだのがはじけ飛び、ちぎれた艦首と艦尾が、明後日の方向を向いて沈んでいく。
ナガト爆沈!
いや、爆発するようなモノは何も積んでないから、ほとんど火は出なかったけど。ナガトはバラバラになって海中へと沈んでいった。
ナガトは負けた……。
……と、いった状況をオレは見ていた。
「カゲロヲ、浮上!」
艦長職のオレが命じた。
「メインタンク、排水! 機関出力、両舷全速!」
プラチナ色の髪から、雫を垂らしたままの白面鬼さんが、操作盤に白くて細い指を走らせる。
海面に水柱が立ち上がった。柱を割って、巨大艦が顔を出した。
ナガトに似た艦影。
だけど、ナガトより一回り大きい、三百メットル超えの船だ。
沈んだ試作艦を引き上げ、これまた魔改造につぐ魔改造で、生まれ変わった集約型零号艦カゲロヲである。
「魔族ってのはなぁ、一度や二度殺されたくらいじゃ負けを認めねぇ生き物なんだよ。覚えときな、ボウズ!」
オレはスライム。触手ノ王カムイの代理人にして意識共有体であるが、カムイそのものではない。
よって、ナガトと運命を共にした固体は、入れ物の一つにすぎない。
「ゴアッ」
リヴァイアサンが海面を撥ねて宙に舞い上がる。懲りもせず、カゲロヲを押しつぶす気だ。
よってオレは命令を下す。
「回避!」
「突撃!」
「え、なんで?」
頭に昇った血が下りきってないのか、白面鬼さんが艦首をリバイアサンに向け、全速前進をかけた。
仕方がない。
今こそ、触手合気道八段の見せ所だな!
ベリッ、ベリベリッ!
右舷装甲の一部が剥がれて、艦首方向へ回る。
それは野太い触手である。
前方へ回った触手が特殊なカーブを描きながら、宙を舞うリヴァイアサンの体側に、ある角度で触れる。
するとどうでしょう!
リヴァイアサンの落下軌道が逸れ、カゲロヲの右の海へと落下する。
直進する質量体の脅威。その軌道を変えるには、横方向から力を加えるに限る。
「触手合気道奥義、合わせ触手!」
「なんかいやらしいぞ、触手の」
いろんな意味で激しい波がカゲロヲを襲うが、伸ばした触手がバランサーとなり、危なげなく切り抜けた。
そう。集約型零号艦カゲロヲは、触手でできている。
塩を生成できるということは、真水も作れるということ。艦底の一部より、生体膜を通して真水を得ることができる。
水と、降り注ぐ太陽があれば、触手はエネルギーを得られる。そして太陽の光は、昼の間、存分に蓄えた。
カゲロヲは、小さな白紙委任の森なのだ。
CICで索敵を担当するスライムより報告が上がってきた。
「リヴァイアサン、真下です。急速上昇中!」
ま、これもオレなんだけどね。ほかにも機関や火力統制とかで、戦闘艦橋には、七匹のオレがいるんだけどね。
海中に潜ったリヴァイアサンは、カゲロヲの艦底に向け、体当たりを仕掛けてきた。
「対潜防御!」
オレの命令に、カゲロヲ(これもオレなんだが)が反応。攻撃を開始した。
攻撃による反作用で艦が揺れる。
艦底の装甲・バルジ部分より触手が伸び、海中のリヴァイアサンにカウンター・パンチを見舞ったのだ。
カゲロヲに死角はない!
クロスカウンター気味(推定)に鉄拳を喰らったリヴァイアサンは、深く潜行。索敵の有効範囲外へと逃れる。
再キャッチしたときは、カゲロヲの前方へ顔を出した時だ。
巨大な頭部装甲を押し立てて、こちらへ一直線に進んでくる。超高スピードだ。
ナガトの重力砲をはじき飛ばした装甲頭部を押し立て、波を蹴立て進む。初心に戻って、己が最も頼る攻撃に切り替えたのだろう。
「取り舵いっぱーい! 全砲門で迎え撃つ!」
「とーりかーじ!」
オレの意を解した白面鬼さんが、リヴァイアサンに対し真横にカゲロヲを向ける。
口径四十五セソチの主砲三基と一回り小さい副砲二基が、獲物にめがけ、風を切って旋回する。どれもナガトよりワンサイズ大きな砲だ。
リヴァイアサンが飛び上がった。必殺技のダイビングプレスだ!
「主砲並びに副砲、発射!」
「てぇー!」
もう一体のスライムが、発射装置を操作する。
十五門の砲口から、青白い光が飛び出した。それは狙い違わず、リヴァイアサンの装甲頭部のど真ん中に集中する。
「ギョエェーッ」
リヴァイアサンの頭部装甲が赤色化した。
カゲロヲの主砲は重力砲ではない。
炎系の最上級呪文・煉獄爆炎波による熱源放射装置が仕込まれている。
こいつは重力砲のような弾丸じゃない。火炎放射器のような持続性をもって、高温を与え「続ける」のだ。
「主砲、追尾!」
――よって、的に当て続けたまま移動できるのである!
数万度の高熱を4.5セコンダの間、浴び続けたリヴァイアサンが、海に落下した!




