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触手ノ王 1 白面鬼さんといっしょ


 オリュンポス山脈の南に開けるゼルビット地方。そのさらに南端部に巨大半島があります。


 その地の殆どを魔の森が占めています。

 人々は恐れと畏怖を込め、白紙委任の森と呼んでいます。


 本拠地に白亜の神殿を建てたのですが、何故か魔王城と呼ばれています。

 有名なシソデレラ城がベースなのに、変ですね?


 申し遅れました。ワタシはその地そのものである触手の王と呼ばれる存在なのです。


 土地神とも呼ばれている故あって、ワタシはその地を離れることはできません。

 でも、どうしても離れなければならないとき、ワタシはワタシの分身である代理人を仕立てます。


 見た目は粘性単細胞生命体。いわゆるスライムであります。

 身長は1メットルあまり。体色薄いブルーとなっております。

 得意技は触手合気道。八段を持っております。




 その夜、スライムの筐体に身をやつしたオレは、神殿の中心部に立っていた。

 白亜の神殿の最深部にみすぼらしい石塔が安置されている。


 背後でコトリと音がした。

 破棄し委任の森中に張り巡らせた監視システムをかいくぐれるのは、配下のゼフ一族の精鋭ジレルと、もう1人の2人だけ。


 その1人とは……。

 身長百七十五セソチ。真っ白な装甲服っぽい外皮。腰まで伸びたプラチナ色の髪が、神殿の照明で淡く輝いている。手には一輪の赤いバラ

 ワがハーレム勇者撲滅委員会、書記兼経理の白面鬼さんである。


 ちなみに委員長は巨神さん。副委員長は青い犬さんである。

 オレは、ハーレム勇者撲滅委員会副会長見習い心得の肩書きを持っている。


 白面鬼さんは、色白の美少女を自称している。人間からは白面鬼ビィーとか呼ばれていたりする。

 彼女の見た目は、この世界の人間からすれば、昆虫の外骨格を連想するだろう。実際キチン質の一種だ。


 細い肩幅。それなりに丸い胸。くびれた腰に張ったお尻。すらりと伸びた長い手足。

 とにかく白い。


 性別は? と聞かれれば女性と答えるだろう。 


 その昔、なんで美少女の外見を装備しているかと聞いたら「敵の初動を少しでも遅らせるためだ」と、すらりと答えた。

 人間の男子に厳しい魔族である。魔族では珍しいことに、人間と同じサイズなのである。


「十年ひと昔というが……前は鳥の巣みたいな本拠地だったが……しばらく来ない間にずいぶん景色が変わったな」

「神殿建てたし、彫像もってきたし、垢抜けた感じになっただろう?」


「食器類が全部金属製品になっているのもキサマの趣味か?」

「いや、それはお手伝いさんのキャミイの趣味……かな?」

 キャミイとは神殿近くの村に住むエルフの小娘である。ちょっとした経緯でお手伝いさんとしてがんばってもらっているのだ。


 神殿を建てた当時、食器類は磁器で揃えたんだが、片っ端からキャミイが割っていったんで、とうとう金属製になったしまったのだ。


 ……破壊神キャミイ。


 ちらりと視線を送る。

 柱の影から、ちっこいメイドさんがこっちを覗き込んでいる。


「エントランスに飾ってある銅像な。あれ、勇者一行だろう?」

「銅像じゃなくて彫像な。あいつら、しつこく言ってもオレのこと魔王の配下と勘違いして攻めてくるのな。で、いい加減めんどくさくなって、石化して飾っておいたんだ」

「勇者は魔王を倒すまで、何回殺しても復活してくるからな」

「魔王さんは便宜上、魔族自治会長の称号だし、勇者システム作ったのはあの神様だし、何がしたいのかよく分からんのだがな」

 オレは首を傾げた。白面鬼さんも首を傾げている。


「あと、お手伝いさんが、こっそりと柱の陰から、カエルのような目で勇者の銅像を見ていたが、あれはなんだ?」

 キャミイが勇者像を狙っているだと!?


 ……いや、いやいやいや、いくらなんでも、これは壊れないだろう。

 あのコーティング剤は鋼鉄より固いんだぞ。

 ……大丈夫だ。……うん、大丈夫だ……。


 オレは、不安を払拭する為(考えないようにする為)、話題を変えた。

「ところで白面鬼さん、何しにここへ?」

「何しにじゃないだろう!」 

 白面鬼さんから非難の声が上がった。


 彼女は、深紅のバラをナイトの墓石に供える。


「……献花にクリスマスローズはないと思うが?」

「そうか?」

 細かいことは気にしない。白面鬼さんは、男前な性格なのである。


「たいへん刺激的な男だった」

「そういったセリフは誤解を招くぞ。ナイトが持つ知識が刺激的だったのだろう?」

「そういう見方もあるな」

「それしかねぇだろ!」

 白面鬼さんは、第三者が判断する自分の見た目をもっと自覚するべきだ。


「ちなみに白面鬼さん。仕事の方はいかがな具合なんだ?」

「ジズはアレしたし、ベヒモスはアレになった。残るリヴァイアサンの調査に、ここしばらく海岸線を回ったが、人間の間に目撃例はなし。平和なものだ」


 もう何十年も昔。

 オレと白面鬼さんが共同で三魔の一角、ジズの「一部」を倒した。

 3つに分かれて封印されていた体のうちの2つを破壊した。残った1つで復帰したとしても、さほどの脅威は感じない。


 ジズが封印されている場所を白面鬼さんと共に、オレが触手パワーで封印ごと掘り返したのだ。

 この時、ナイトが騒動に巻き込まれたので、白面鬼さんとも顔見知りになったのだ。


 発掘が終了した。さあどう料理しようかと喜んでいたら、ジズは既に起動していて大騒ぎ。取りついていた白面鬼さんごと大空へ。大気圏突破を試みる。

 孤立無援となった白面鬼さんはジズの内部に侵入し、内側から破壊。

 結果、ジズは高高度より墜落、大爆発することになる。


 その大爆発が、ゼクリオン候国の滅ぶ引き金となってしまった。


 ジズを道連れに自爆して果てた白面鬼さんに敬意を払い、魔族総出で魔族葬を執り行っていた時である。


「誰の葬式か知らないが、わたしを呼んでくれないとは、つれないな」

 式場の後部ドアが観音開きに開いた。そこには死んだはずの白面鬼さんが!

 男前である。魔族男子の7割が、自分を嫁にしてくれとすがりついた。



 痛い思い出終了。さて……。

 ベヒモスだが、――最近復活したのだが、青い犬さんが神対処した。


「わたしなら力ずくでしか対応できなかったがな」

 白面鬼さんが感心している。何度思い返しても、青い犬さんの手際は見事の一言に尽きるであろう。

「まさかあのような対処法があったとは」

 ホント、あんな方法があったとは! 目から鱗とは正にこの事であろう。いまだに信じられない。


 残る三魔は、リバイアサンのみとなっている。

 だが、アレは海中の魔物なので、オレ達の担当外だ。ベイクドケーキはベイクドケーキ屋。海中は深海の超獣さんに任せるしかない。


 そうそう、サワムラ・ナイトとは、異世界よりこっちに落ちてきた者。次元断裂に落ち込んで、白紙委任の森に落ちてきた。

 人間のくせに触手であるオレを羨望の眼差しで見つめていた。健全なニホンジン男子は、触手生物に敬意を表する習性をDNAに刻んでいるという。なかなか見所のある青年だった。


 ……もっとも、転移の際、致命傷となる怪我を負っていて、看病のかいもなく三年で死んでしまった。

 孤高を愛するオレの、唯一の友だった。いや、死によって分かれた今でも友だ。


「白面鬼さん、チミはこの世界の人類をどう見る?」

「唐突だな、触手の。だが、これは以前触手のが問いかけたクエストだ。それに対して『前と同じ』と答えておこう」


「そうか、白面鬼さん、いやビィーはこう答えたな、『幼いな』と」


 過去、この場所で同じ問答が交わされていた。

 あの時と違うのは、……ナイトがもういないて事だけだな。


「そう、幼い。目を離すと……危ない事をして、すぐ怪我をする。……話を戻そう」

 オレは白面鬼さんの顔を見上げた。

「実は、オレの体も限界なんだよ。これ以上、縮めておくことはできない。成長はとどまらない」


「だが、体を伸ばすには、人が住む地方を侵略せねばならない。人が大勢死ぬぞ」


 オレはフと笑った。

「あれから人類は進化したか? チミも言ったではないか。『前と同じ』と。人類は、毎日毎日互いの足を引っ張り合うことばかり。裏切りを美徳とする風潮でもあるのかね?」

 見つめ合う瞳と瞳。オレの場合は、目に模した泡だが。

 

「ま、湿っぽい話は横に置こう」

 オレは箱を横に置く仕草をした。

 その箱を蹴飛ばす白面鬼さん。

「あ! こら!」

 オレは転がった箱を取りに行った。


「白面鬼さん、暇だろう?」

「暇だが?」

「じゃ、仕事を手伝ってくれないか?」

「?」



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