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11.滅びを与えしモノ

「あれだけのバースト・ジャベリンを一発で消した?」


 元聖騎士バザム・マールは驚いていた。いや、ある予感に恐怖を感じていたと言い換えても良いだろう。


 風に乗ってここまで声が聞こえる。

 声はデオナ・デオナと連呼していた。

 ランバルトのアイアンメイデン、デオナ姫その人であろう。


 不安になると、どうしても心の拠り所を求めてしまう。

 よってバザムは、判断を下してくれる人物に視線を向けた。 


 ゴルバリオン帝国の初代皇帝ハンネスは、野戦用の玉座に足を組んで座っていた。

 肘掛けに乗せた片手に顎をあずけ、じっとランバルトの帝都ブラストを見ていた。


 ハンネス皇帝は、高速で思考を巡らせている。


 7千5百本の魔槍をたった一発の弾で消滅させた。

 巨神が現れた。リデェリアルの巨神が「神の左腕」を使った。


 ――どうやって10日近い距離を埋めたのか――


「まあいい」

 ハンネス皇帝は考えるのを止めたようだ。


 デオナが使った手妻に心当たりはない。しかし、10日の距離を飛ばして、デオナが目の前に立っているのは事実。


「どうせリデェリアルの天才が、秘伝の技でも使ったのだろう」

 ハンネス皇帝は徹底した現実主義者だった。


 自分の目で見たものは信じる。どんなに予想外の出来事であっても。

 傭兵が使役される戦場ではよくある話だ。

 事実、皇帝の周りで狼狽えているものは若い連中。皇帝とつきあいの長い連中は、びっくりこそすれ、狼狽えてはいない。


 皇帝は次の手を考えた。

 敵が代わった。これよりはリデェリアルの魔獣共が相手となる。


 最も警戒すべきは巨神。バースト・ジャベリン7千5百本の威力を軽く超える武器、「神の左腕」を持っている。


 だが――。


 報告に上がっている過去の戦歴から、それは連発がきかないらしい事がうかがえる。

 ならば、対処の仕方もある。


「次槍の装填状況を知らせよ」

「現在、後方予備の一列2500本だけなら、まもなく発射可能です」

 老獪な幕僚より、的を経た回答が帰ってきた。  


「目標をリデェリアルの巨神に合わせ。残りの魔槍も至急装填せよ。動きの鈍い者は斬り捨てよ!」

「了解!」

 命令を伝えるため、伝令が走る。


 ここでハンネス皇帝が立ち上がった。

 腕にかかったマントをバサリと払いのける。


 バザムは敵をしかと見つめた。


 巨神レムが走っている。

 その巨体から想像できない速さだ。

 後ろには青いフェンリル狼が付き従っていた。

 みるみるうちに、ゴルバリオンの陣営へ近づいてくる。






 やあ、レム君だよ!


 もうね、俺の手にかかりゃね、マップ兵器なんてイチコロだよ。


「クックックッ! ざまぁねぇぜ。ゴルバリオンの連中の顔さ、見たかい? 王手かけたのに、もう一枚王が出てきた将棋やってるマヌケ顔だぜ!」

 ガルが詐欺師……もとい、悪党そのものの顔で笑っていた。どっちも大概だが。


「クックックッ! しかもこの位置。一段小高くなった場所からの助っ人宣言! これ一度やってみたかったんですよね!」

 俺も悪のりしていた。


 足下には、デオナ姫様に促され、ゴルバリオン陣営を指し、命令を発するデニス嬢がいる。


「クックックッ、デニス嬢ちゃんからオーラを解き放てとの命が来た様だぜ!」

「クックックッ、公的なお許しが出ましたね」


 サリア姐さんが、スゲー侮蔑感の籠もった視線を送りつけてくるが気にしない。ドラゴンとはいえ、所詮姐さんは女。戦いを前にした男の高揚感など解るはずない。


 ……戦いとか関係無しに、侮蔑の視線を単純送信してるだけかもしれないが……。


「さあ、レム君、無謀神崇拝のお時間だ。頭の悪りぃー連中に、蹂躙って言葉の意味を教えてやるがいいぜ!」

「絶対神無謀の、神の名の下に!」

「続け! レム君! イエス・マイ・デニス!」

「イエス・マイ・デニス!」

 俺達は駆けた。


 瓦礫を蹴散らし、一気に小山を駆け降りた。






 皇帝は、珍しく真面目な顔で命令を下す。さすがの皇帝も緊張しているのだ。

「バースト・ジャベリン第一列、面制圧!」

「仰角15度。左右展開範囲1番! 全弾発射!」


 2500本のバーストジャベリンが射出された。ランバルト主力軍を消し飛ばした数量の2.5倍。大要塞デッド・ヒルを灰燼に帰した数量の半分が、巨神だけを目標に飛んでいく。


 巨神はそれを避けない。真っ直ぐ突っ込んでくる。


「いけるかもしれない!」

 バザムは心の中で叫んだ。


 2500本の着弾。

 発光!


 大地の表皮が捲れ上がる。

 土煙が天まで上がる。


「やったぞー!」

 ゴルバリオン陣営から歓声が上がった。


 思わず、バザムも拳を握りしめていた。 






 やあ、再びレム君だよ。

 敵陣営から雲霞のごとく面制圧兵器が飛んできた。


「あっ、ちくしょう! やべぇ、まだ持ってやがったか!」

「あれだけの数、実弾作るのに、どれだけの制作費と人件費をつぎ込んだか。それ考えるとスゲー無駄遣いですね?」

「この世界の魔性石をほとんど買い占めたんじゃねぇか? どうにかしてアレに使った何分の一かの銀貨を横取りすること……ウヒャー!」


 俺は頑丈だからいいけど、ガルは生身なんだから、余計な事考えてる暇があったら、隠れるなり待避するなり……、あ、俺の後ろに隠れやがった!


 ざざざと音を立て、日の光を隠す面制圧兵器群。

 そして着弾!


「おひょーっ!」

 人の事は言えない。俺も変な声を上げてしまった。それだけ迫力があったんだ。


 爆心地にいてくれれば理解してもらえる自信がある。

 地面が、文字通り泡立った! 


 巻き上げられた土砂が上下左右前後から押し寄せては引いていく。

 俺の巨体からなる重量をバルサ材細工の人形扱いだ。


 いきなり、上下の感覚がなくなった。

 土煙で目が利かない。だから、地面に叩き付けられて初めて、爆風により吹き飛ばされていた事が解った。


 顔面でスライディング。金属で良かった。


「痛て!」

 俺の背中にガルが落下した。金属だからさぞ痛かったろうざまあみやがれ。


「レム君! どこだレム君! 怪我は無いか!?」

 ガルはキリっとした顔で立ち上がった


「先輩の下です。おかげさんで怪我はありません」 

 ガルが俺の背中から飛び降りた。


「レム君大変だ! 土煙が晴れる!」

 俺は顔面を地面に突っ込んで、お尻を突き上げるという、不格好なスタイルで固まっていた。


「それは大変だ!」

 このままでは格好悪い! 五行エンジン全開! 

 俺はフルパワーで埋まった顔を引っこ抜いた。対魔神戦のときより出力3割増しである!


 ギリギリセーフ! 


 薄まった土煙を両手で割る様にして、前へ体を押し出した。見た目、何事も無かったかのように!


 そして叫ぶ!

「アンギャーッ!」

 微動だにしなかったフリをする。


「よしよし、その調子だレム君。連中ビビってるぞ!」

「クックックッ! やつら腰が引けてますよ」

 俺たちは、狼と(まんまだが)狐の目をしてほくそ笑んだ。





 

「不滅の巨神といえど、所詮はゴーレム――」

 ハンネス皇帝の顔に、不適な笑みが蘇る。

「――あれだけの魔槍にかかれば……」


 煙をすかして、二つの赤い光が灯った。

 煙を割り、巨神の巨体が現れた。


 全くの無傷。


 巨神は雄叫びを上げ、足を一歩踏み出した。


「あれだけ受けて、ダメージが無い?」

 ゴルバリオンの騎士達が、恐怖に突き動かされ、足を一歩引いた。


 巨神が歩き出す。

 巨神の一歩は大きい。着実に距離が詰まりだす。


 顔を引きつらせながら、バザムは、また皇帝を見た。

 皇帝は沈黙している。


「第二列、並びに第三列発射準備整いました。第一列、待避完了!」

 そこへ報告が上がってきた。


「今回は一基ずつ時間差で攻撃! 第二列は水平発射。第三列は通常発射! 二列と三列の着弾は同時とせよ。発射のタイミングは現場に任せる! 次で潰すぞ!」

 ハンネス皇帝の言葉に力が込められていた。


 幕僚、および兵達は皇帝の言葉を信じている。脇目もふらず作業に取りかかっている。

 仕事のある者はいい。体を動かす事で、余計な事を考えずにすむから。

 バザムは閑職である故、どうしてもこれまでの結果から、暗い未来を予想してしまう。


「第三列発射! ……第二列、順次発射!」

 一基50本のバースト・ジャベリン。それが2ペアで計100本。一列50基につき、100本のバースト・ジャベリンが50回繰り返される。


 初弾が巨神に迫る。


 50本は弓なりに飛び、上空から巨神めがけて落ちてくる。

 残り50本が前方より一直線に突っ込んでくる。


 二度目の着弾。黒煙に包まれる巨神。ほぼ全弾が巨神に命中した。

 それが50回繰り返される事になるのだ。






 やあ、三度(みたび)レム君だよ!

 ちょっと埃っぽいけど、遠目にはわからんだろうから、そのまま歩いてる。


「おっ! 懲りずに第二弾撃つつもりだぜ! オイラは迂回して、連中の柔らかい脇腹を咬み千切ってくるぜ! 敵陣で会おう! 無謀神の加護大からんことを!」


 それっぽいセリフを残してガルは姿をくらました。

 ……逃げたな。


 で、今度は小ぶりなのが落ちてきた。

 直撃したが、アダマントの体はビクともしない。


 この程度で俺を落とそうとは……また飛んできた?


 よし! いいだろう! プロレスラーは敵の攻撃を全て受ける! 受けて受けて受けきって、最後に逆転勝利するのである!


 第2弾直撃! ふふふ、なかなかの命中精度じゃないか!

 この程度で……第3弾直撃!


 な、なかなか……第4弾直撃!

 ちょ、ちょっと……第5弾、第6弾、いや、あのね、第7弾、ちょっ第8弾、プ、プロレス第9弾、プロ、プロレスラーは第10弾、全部受けて第11弾、12弾、13弾……。


 20弾目には、動くのを止めた。両手で前面をガードして腰を落とした。

 30弾目には、なんとかこの場を離れようと模索する事を思いついた。

 40弾目には、いろんな事を諦めた。

 50弾目。敵の攻撃がピタリと止んだ。


「フッフッフッフッ……。え-加減にせーよ! コラァ!」

 頭に来た俺は、黒煙をかき分け、走り出した。





 ゴルバリオンの長い攻撃が終わった。

 ゴルバリオンの者達の多くは、同じ感想を抱いた。


 一カ所に集中して沸き上がる黒煙は、まるで天を支える柱の様ではないか。

 太い柱である。何せ、天を支えるのだから。


 ゴルバリオンは、神に届く偉業を成し遂げるのであろうか? いや、すでに成し遂げたのだろうか?


「第4列、発射準備完了」

 心強い!


 誰もが――バザムまでもが――ふと、笑みを浮かべかけた時だった。


 天を支える柱を割って、巨体が、その姿を見せた。


 体のどこにも傷が無い。

 悪魔の様な黒い体。禍々しく光る赤い目。正に、人類に災害をもたらす死そのもの。

 この怪物にバースト・ジャベリンは通用しない!


「だ、だめか!」

 バザムが、漏らした言葉にハンネス皇帝が反応した。


「全軍、突撃準備!」

 皇帝は声高らかに命令を下した。

 今更、人の手による攻撃も何もあったものだろうか? バザムの顔に焦りの色が浮かぶ。


「バースト・ジャベリン、第四列、全弾通常発射! バースト・ジャベリンで巨人の足を止める! そこを人の手で絡め取るのだ! ロープで縛って大地に縫い付けてやれ!」

 無茶な命令だが、傭兵騎士達には名案に思えた様だ。


 ほぼ全騎士が武器を手にした。

 バースト・ジャベリン群の第2と3列が後退し、4列が前に出た。

 ハンネス皇帝は、ふてぶてしく笑った。

「戦いはこれからだ!」



防御ってモノを捨てた鋼鉄の固まりが、敵中心部に突入したぁッ!


次話「蹂躙戦」


のこり2話


お楽しみに!

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