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8.ゴルバリオン強襲

予定の7日が過ぎた。


 ゴルバリオン帝国軍は、ランバルト公国軍と接しようとしていた。


 大軍の動きを察知しない国などない。

 ましてや、ダフネ大将軍が率いる武闘派ランバルト基幹軍なら。


 ランバルト基幹軍15万がフーランの丘に陣取っていた。

 ダフネは、最近もっぱら遠くが見えるようになってきたその視力で、いち早く敵の接近を視認した。


「現れたな、小僧共め!」

 フーラン下の緑が広がる平原に、ゴルバリオン軍が姿を表した。


「老骨の散り場所はここと決めた。デオナ姫にもう一度お会いしたかったが、そうもうまく行かぬか。これも人生!」


「将軍、攻撃の命令を!」

 国より指名された新参の参謀長が、焦っている。


 ――経験不足か――


「まだだ。叩くのは引きずり出してからだ」


 ゴルバリオン軍が部隊を展開させつつある。

 そこに隙は無い。

 下手に突けば逃げられる。追えば地の利を失ってしまう。


 ――そんな事もわからんのか?――


 ゴルバリオンは常に戦ってきた軍隊だ。強弱はあろうが、戦場慣れしているのが、物腰から解る。


 対して、ランバルト軍は聖教会遠征軍のみが戦場を経験している。残りは実戦経験が不足しているが、使えないほどじゃない。中心は遠征軍となろう。


「ざっと30万か? 倍だな。どうする?」

 念のため、ダフネ将軍は、先ほどの参謀長に聞いてみた。


「ここまで来たら、こちらから撃って出るのは危険です」

「これだもの」

 肩をすくめざるを得なかった。


 ――敵の配置が終わるまで待ってどうするの?――

 ダフネの愚痴は止まらない。


 ――こんな時、デオナ姫様なら――


 見る間に、ゴルバリオン軍の中心が左右へ移動を開始した。部隊展開が第二段階へと進んだのだ。


「よーし、全軍押し出せ!」

 ランバルト軍の左右両翼と中央が、横一列となって走り出す。


 ゴルバリオンは横一列に並ぼうとしている様だが、左右の展開が間に合いそうにない。 両軍、ガッツリと組み合った。


 勇壮果敢に挑みかかるランバルト軍に対し、展開が遅れ死兵が多いゴルバリオン。

 趨勢はランバルトに利がある。一気に破れないのは、ひとえにゴルバリオンの数が多いからだ。


「我が軍が有利です!」

 そんな事、わかっとるわ! とは言わない。


「もう少し粘られると、不利になるぞ」

 ダフネの言葉に、ムッとした表情を浮かべる参謀長。


「気を害するも、気を高ぶらせるのも、生きておる間だけじゃ。自分の仕事をしろ」

 ダフネは、にべもない。


 戦いは拮抗状態に入った。

 こうなると、数の上で有利なゴルバリオンが押してくる。






 元聖騎士バザム・マールは、ゴルバリオン軍の左翼に配置されていた。

 中隊長として、多くの自称「騎士」を従えていた。


「前に出ろ前に!」

 バザムは叫ぶ。


 戦いは苦しい状況が続いていた。

 ランバルト軍は強い。鉄の規律で鍛え上げた軍隊は、酒焼け傭兵の2倍は強い。

 それでも、バザムは、ともすれば逃げ出そうとする部下達を叱咤激励し、戦線を維持し続けた。


「もう少し粘れ! そうすれば楽になるぞ! 味方はいくらでもいる!」

 バザム達先発隊は、ランバルト軍のチャージを受けきればいい。時間を稼ぐ事が第一義である。


 長い長い時間を耐え抜いたバザムの部隊は、間もなく肩の荷を下ろす事になるだろう。

 第三陣までが戦場に到着したのだから。




 多くの犠牲を払いながら、ゴルバリオンは両翼を展開しきった。こうなると戦の趨勢は一気に傾く。


 羽根の両端は、ランバルト軍の両翼より幾分長い。

 ランバルト軍は、ゴルバリオン軍に包まれる形となった。


「誰が見ても、もはやこれまで」

 ダフネがフッと笑った。とてもいい顔だった。


 敵は鶴翼の陣を完成させた。厚みは薄いが、翼を畳まれつつある。

「では、温存しておいた遊軍に頑張ってもらうとするかのう!」


 ランバルト軍より伝令が飛び出した。

 間もなく、ランバルト軍の一群が、ゴルバリオンの左翼に襲いかかった。


 ダフネ子飼いの将が率いた一軍が戦場を迂回、チャンスを虎視眈々と狙っていたのだ。

 満を持して、襲いかかるランバルト遊撃軍。薄い羽根に鋭い爪で斬りかかる。





 バザムは悪夢を見ている心地であった。

 敵を包囲したと思ったら、いつの間にか左翼を食い千切られていたのだ。


 バザムの前を馬と一体化した敵騎士が走り抜ける。

 いい様に食い荒らされている。


「下がるな! ここを持ちこたえるんだ! 援軍はすぐ来る!」

 バザム叫べど、場の空気に聡い傭兵達は聞く耳を持たない。全力で逃げ出した。


「くそっ! なんて粘りのない軍だ!」

 一人で戦っていても何も得るものは無い。バザムも傭兵に続き、戦場から退却した。





 ゴルバリオン軍、総崩れ。


 敵の左翼を食い破ったランバルト遊撃軍と、味方の右翼が一丸となって前へ出る。

 今度は逆にゴルバリオンが、ランバルトの広げた翼に包まれる形となる。


 ゴルバリオンの中央と右翼が包囲された。口が開いた部分もあるが、そこはボトルネック。混雑が輪をかけて混乱と殺戮を生む。

 見る間に数を減らしていくゴルバリオン軍。完全敗北である。


 そこへゴルバリオンの第4陣が到着。だが遅かった。

 勢いを駆るランバルトが、一息に第4陣を飲み込んだ。


 戦いにすらならなかった。


「勝ったぞ!」

 陣頭指揮を執るダフネが、剣を握った右腕を高く上げる。


 戦場から鬨の声が上がった。

 倍以上の敵に勝利したのである。興奮するなと言う方が無茶だ。


 そこに、一つの報告がもたらされた。

「敵、本隊を確認!」

 平原の向こうに、整列した軍隊が姿を見せた。


「全軍集結!」

 ランバルトは鉄の軍隊。どんなに隊が乱れても、号令一つで整然と陣を組む事が出来る。


 まずは方陣。


 ここから、あらゆる陣へと変形させる、基本の陣形だ。


 激戦を終えたというのに、ランバルト軍の士気は高い。


 もう一戦だけならいけそうだ。

 そう判断したダフネ。

「一気に食い破ってやろうか?」

 激突を覚悟した。


「おや?」

 ダフネは気づいた。敵は前面に見慣れぬ機器を敷設している。


 攻城兵器に見えない事もない。

 だが、数がやけに多かった。

 横に広がっていたし、後ろにも三段ほど並んでいる様だった。


「あの部隊は、要塞・デッドヒル攻略の為のものではありませぬか?」

 初めて、参謀長と意見が合った。


 だから嫌な予感がした。


 しかし、その程度で攻撃を中止する理由にはならない。

 彼我の差はバリスタでも届かない距離。

 まだゴルバリオンは動けないだろう。ダフネと彼の参謀はそう判断した。






 一方、ゴルバリオンのバザムは……。


 総崩れとなった見方の殿を勤め、撤退中であった。

 ようやくランバルト軍の追撃を振り切れた。

 ここにきて、味方の本体と接触できたのだ。


「先発隊は後ろへ下がれ! 後は皇帝直衛隊が始末する!」

 ハンネス皇帝が直接率いる皇帝直衛隊であった。


 ひとまず安全が確保できた。後ろからの脅威が消えた。

 傷ついた仲間達は後ろを気にする事なく、一目散に走って直衛隊の後方へと逃げ込んだ。


 バザムは、逆に走る速度を落とした。自分の役目は終わった。

 本体の邪魔にならぬ様、道の脇をとぼとぼと歩く

 彼の横を大型の機器が通過した。


「なんだあれは?」

 攻城兵器にしては使い方が解らない。


「どけどけ!」

 大型の機器は一つではなかった。何十基、いや、三桁は揃えている。


「なんだこれは?」

 口を半開きにして機器の展開を見守っていた。


「そこの男! 手が空いてるならこっち来い!」

 肺腑にしみる大声。


 バザムが声に振り向くと、恰幅の良い大男と、彼を取り巻く立派な鎧を纏った男達がいた。


 一目でわかった。

 この方はゴルバリオン皇帝ハンネス陛下。


 兵士達が慌ただしく動いて、幕やテーブルを設置している。

 どうやら、ここに本陣を設営している様だ。バザムはその騒動に巻き込まれているのだ。

 皇帝がお呼びである。寄らないわけにはいかない。


「はっ、これに」

 バザムは皇帝の前に進み出て、膝を付いた。


「馬に揺られて肩が凝った。揉んでくれ」

「は?」

 皇帝の言葉をそのまま受け取ると、肩をマッサージせよとの意味に取れる。


「失礼致します」

 状況を飲み込めぬまま、バザムはガントレッドを外し、ハンネス皇帝の肩を揉み出した。




 ランバルト陣営。

 ダフネは、戦力が整いつつあるのを満足して見ていた。

 みな、戦いの興奮より冷めていない。


 総力戦であった。ダフネは全てを出して戦いに没頭できた。


 デオナ姫様は――

 死ぬような人じゃねぇ。


 あの者が必ず助け出すであろう。

 だとすれば、結婚か……。

 子供か……。


 これは是非とも生き抜いて、老婆心とやらを発揮して、夫婦生活の心得を伝授せねばならぬな!


「もう少し長生きせんといかんな」

 そう思った時である。


 攻城兵器群から、一斉に炎と煙が上がった。

 無数の何かが、煙を噴き上げながら空を飛んでいる。

 飛び道具でも届かない距離が二つの陣営に跨がっているが……。


 ヒュルヒュルと不気味な音が聞こえてくる。


「いかん! 獲物が届くぞ! 方陣を解除! 全員間隔を広く取れ!」

 ダフネが命令を出すが……、その命令は甘かった。


 魔弾(バーストジヤベリン)の正体をダフネは知らなかった。誰も知らなかった。知っている人物は、こちらへ向かっている最中で、まだ姿を見せていない。


 バースト・ジャベリン1千発が、密集状態でランバルト軍15万の頭上に降り注いだのであった。




 ランバルト軍15万。全滅。

        



皇帝が命じる。

「全弾発射!」


次話「バースト・ジャベリン」

お楽しみに!

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