表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/152

7.絶対無敵

 巨人、ジャイアント・番場が立っていた。







 広い肩幅、うっすらと浮いた肋骨。


 そう、俺の目の前には、赤いちゃんちゃんこに赤い大黒頭巾をかぶった、ジャイアント・番場が圧倒的に凄まじい迫力で立っていたのだ!


「だめだ! この御大に勝てるわけない!」

 心の底から恐怖が湧いて出てくる。


 俺が生まれた時からプロレスラーだった男。プロレスを体現している男。俺の憧れ。

 ステージはプロレスのリンクとなった。


 ちょっと待て。番場のセコンドについてるの、アントニオ伊波木じゃないのか?

 あっ! 縞柄のシャツ着て……レフリーはテリー・ファンク・ジュニアか?

 ききき、き緊張するっ!


 ゆったりとした動作で、リングロープに身を預ける御大。一見隙だらけだが、騙されてはいけない。この動作、すでに試合は始まっているッ!


「おいレム君! なにビビってんだ! 相手はデカイが、レム君が敵わぬ相手じゃないだろう?」

 セコンドに付いたガル。喧嘩腰である。


「あの人は昔こう言いました『プロレスとは「プロレス」である』どうです? すごいでしょう?」

「いや、すまねぇ。何言ってるかサッパリだ」

 すげー無表情なのが、すげー気に障る。


「ちょっと犬さん! 何これ? レム君、戦う前から負けてるじゃないの。あんたが何とかなさいよ!」

 サリア姐さんが何か言ってるみたいだが、頭の中で意味が構築できない。


「……そうか、あの人はレム君の憧れか。うむ」

 ガルが、なにやら一人ブツブツ言っているが、気にしている時間はない。


「おいレム君!」

 ガルがキャンバスに前足を乗せた。


「まさかレム君、あの人に勝とうって考えてるんじゃねぇだろうな?」

「なに言っんすか! 勝てるわけないでしょう!」

「じゃ、なんでビビってんだ?」


 そしてガルは、横を向いて小さく呟いた。

「あーあ、……こんなチャンスもう無ぇかもしれないだろうに」

「え?」


「だってそうだろ!」

 今度は大きな声で。

「レム君憧れの人だろ? タダで戦えるんだろ?」


「え? よく考えればそうですね」

 そういやそうか。


「レム君のお隣さんは、あの人と戦った事あるか? お友達は? もっと広げて知り合いの中にいたかい?」

「……いませんねぇ」

 いるはず無いだろ。


「だったらこのチャンス、生かさなきゃ失礼だろ? 勝てるわけないなら、勝つ気なんか持たなきゃいい。自分の持ってる技を全力でぶつけて負けてこい。いい思い出になるぜ!」

「それもそうですね」


「よーし、最初から全力出してブチ当たれ。あいつに捕まるまで走り回れ! 連続技を仕掛けていくんだ。そしてあいつの攻撃を食らって潔く負けよう! 思い出作りだ!」


「よーし! 俺、やっちゃうよ!」

 なんか、やる気出てきた。


「よく言った! では、無謀神降臨せよ!」

「無謀神降臨完了! いくぜ!」


 俺は、青コーナーに体を預け、リラックスを心がけた。

 普通は選手双方が中央へ出てきて、ボディチェックから入るんだが、ここはそんな悠長な事をしている場所じゃないようだ。


 レフリーがリング中央へ出てきて両手を挙げている。

 試合開始用意の合図。


 ちゃんちゃんこを脱いだジャイアント番場が、怠そうに両手を挙げ、戦闘態勢を取る。

 見た目に騙されてはいけない。これは脱力。力をフルに出す前の準備であるっ!


 そしてレフリーが手を振った!

「ファイッ!」


 ゴングが鳴った!


 俺はいきなりダッシュ。ホバーも使ってダッシュ。

 体を低くして、ジャイアント番場の膝上に、全体重を乗せたタックル炸裂! 成功! 


 ゴキン!


 変な音がしたけど気にしない! 後ろへ倒れ込む番場はそのまま。勢いが死なないうちに駆け抜ける。


 一息に赤コーナーを駆け上がり、トップロープからジャンプ!

 後方伸身で一回転。ジャイアント番場に敬意を表し、五体投地状態でボディプレス!


 めきゅぼきょ!


 変ナ音ガシタガ、キニシナイ!


 まずは、そのままの姿勢でフォールを宣言!


 すぐ返されるだろうけど、俺はジャイアント番場をフォールに持ち込んだ!

 すげーぜ! こんな俺のショボイ攻撃を全てワザと受けてくれた。なんて懐の深い人だ!


「ワンッ!」

 マットを叩く音。カウントが入る! テリーのカウントが入るゥッ!


「……ツゥーッ!」

 二つ目のマットを叩く音。

 なんか、ゆっくりめのカウント2が入るッ!


「……」

 3つめは滞空時間が長い。


 カウントを取るテリーの腕が、垂直に上がったままだ!

「……」

 長い! 長いぞ! なんて滞空時間の長いカウントだ!


「……」

 まだ入らない! 3カウントとはここまで重く遠い道のりを要するのか! 


「スリーッ!」

 入ったーっ! 3カウント入ったーっ!


 カン、カン、カン、カン!


「試合終了。試合終了。9秒08、巨神レム選手、フォール勝ちです!」

 場内アナウンスが入る。


「やった! やったぞレム君!」

 ガルがリングへ飛び出してきた。


 な、なんかわからねぇけど、お、俺、か、勝ったのか?


「勝っちまいやがった! レム君、初めてだぞ! 認証試験で勝ったヤロウは!」

 そうか! あのジャイアント番場にフォール勝ちしたのか!


「ウィーーッ!」

 俺は勢いよく右腕を上にあげ、勝利の雄叫び上げた。もちろん、牛の角に見立てたて、お母さん指と赤ちゃん指の二本を立てている。


勝者(ウイナー)、巨神レム」

 抑揚の無い声が耳に入った。


 リングが消えていく。


 もう一度番場を見たい。

 振り向いた。ジャイアント番場が消える刹那だった。一瞬、赤い液体っぽいのが見えたけど、ジャイアント番場は消えてしまった……。


 さようならジャイアント番場。さようならバンバ・ザ・ジャイアント。

 俺はこの思いでだけで一生、生きていける……。


 洞窟の主が喋っている。

「ま、まさかっ! 登録の検査でっ、勝利を収める者がいるとはっ!」

 セリフの中身はともかく、全く抑揚のない声である。

 何食ったらここまで冷静でおられるのだろうか?


「……コホン!」

 しつこいようだが、抑揚に乏しい声で喋っているのである。


「巨神レム、登録完了。通行を許可する」

 そして、声と声の気配が消えた。


 ……思うに。よく勝てたと思う。これは奇跡だ。

 世界最強のプロレスラー、ジャイアント番場になんか、絶対勝てないと思っていた。


 ……拳神、マス・オオヤマにも勝つ気がしないが……。

 



「な、なんか凄い戦いだったわね」

 デニスが額に汗を浮かべていた。


「た、確かに。最後はスプラッタだったけど、巨神の抜きんでた強さを再確認する戦いでしたわね」

 デオナも額に浮かんだ汗を拭う。


「ゴドンさん、ビトールさんどうしよう?」

 ジムは比較的冷静だった。

 すっかり魂の抜けてしまったビトールの心配をしてる。


「騎士の情け。せめて魔宮の回廊を抜けるまでは世話をしてあげよう」

 ゴドンも冷静だった。


 既に素っ裸となっていた。これ以上脱げないので、冷静にならざるを得ないのだ。

 ジムはビトールの体を彼の愛馬にくくりつけ、曳いていくことにした。


「よし、あらためて出発!」


 服を着直したゴドンの命令により、一行は再出発をした。

 果たして、ゴルバリオンの侵攻に間に合うのであろうか?




 デニス達一行が去っていった、ステージ近くの回廊。

 また抑揚のない声が聞こえてきた。


「巨神レム。初めて登録検査で勝利した魔獣。やはりあの体は特別であったか」

 小さい小さい声だった。誰にも聞こえない独り言の声であった。


「あのお方に用意された……いや、それは言うまいぞ」

 抑揚のない声は続く。


「勝ってしまってはデーターが取れない。対策を練るのに大きなハンデを負ってしまったが、あの体では仕方あるまい」


 それっきり、声は消えてしまった。 




 残り1日も半分を切ってしまった。ランバルトまで10日の距離である。




誰が何と言おうと、あのお方とダイナマイトキッドは別格です!



「誰が見ても、もはやこれまで」

 ダフネが笑った。



次話「ゴルバリオン強襲」

話が走り出す。


お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ