開かずの踏切
少し昔の話。
僕が住んでいる古いアパートからは開かずの踏切がよく見えた。
ある夕方、小学生と思われる少年が、なかなか開かない踏切をくぐった。
途中で転んだ彼は特急列車に弾かれた。
バラバラになる小学生の体。
大きく開けていた僕の部屋の窓から何かが飛び込んできた。
それは壁に当たって畳に落ちた。
少年の右手だった。
手首から切断されていた。
僕はそれをサランラップにくるんで冷凍庫に保管した。
ある夜、誰かが扉を叩く音で目が覚めた。
誰ですか? と聞いても返事がない。
しかし、薄い木の扉の向こうに気配がする。
僕は扉を開けた。
廊下に立っていたのは、事故にあった少年だった。
体のあちこちに縫い目があり、顔などは半分砕けた状態だ。
彼は、自分の手を返してほしいと言った。
見ると彼の右手首から先はちぎれてなくなっていた。
そこから血が滴り落ちて地面に広がっている。
僕は冷凍庫からカチンコチンに凍った右手を取り出して少年に渡した。
彼は、それを受け取ると暗闇の中に走って消えた。
地面に溜まっていた血もなくなっていた。
それ以降も、開かずの踏切では、さまざまなものが轢かれた。
犬とか猫とか老人とか。
時々、彼らの一部が飛んでくることもあった。
でも僕は、もうそれを持っておこうなどとは思わなくなった。
完
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「孤独の醸造」 「どうにもならない喪失感との戦い」 「静かなる美の追求」
人が何に価値を見出すのか。
不完全な人々が過ごす日々の静かな美しさを小気味良い会話や都会的でクールな舞台を背景に読みやすい文体で描く
テーマの重さ、暗さとは対照的な爽やかな作品です。