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疵魂の聖人は異世界に眠る  作者: 怠惰
幼少期編
10/12

8/学ぶこととは何か


 季節は春も半ばに差し掛かり、アドラ・スラッカスという名を騙るのにもそろそろ違和感を感じなくなってきました。

 あれからクラス全員の女子と仲良くなり、男子の何人かとも友達になることが出来た。最初のうちは男子に話しかけてもみんな顔を真っ赤にして逃げ出すので、嫌われてるのかとも思ったがそれは杞憂であったようだ。

 クラスメイトの年齢はやはり多少のばらつきがあったが、殆どは三年後に卒業と時を同じくして成人と認められることになる十二歳であった。

 そしてそれから一つ年齢が下がるごとに更に人数は減っていき、七歳の私を除いた最年少はふたりの九歳の男の子だった。逆に十三歳を越える子供はいなかったので、学校に通うのは成人するまでというのが一般的なのだろう。

 この位の年頃の子供というと、前世で言えば小学校高学年から中学生くらいか。性別の違いを自覚しつつも、お互いにどう行動すれば良いのか分からないような年頃である。

 だから男子たちは一応今だけは女子に分類されている私に初々しい態度で接していたのだろうが、しかし七歳児に赤面するとか大丈夫かお前ら。

 貴族なら妾とかそういうので年下の若い女を侍らしたりもするんだろうけど、それだって年取ってからの話だろう。今のうちからそんなんじゃペドとか幼女趣味とかになるぞおい。


 そんな余計なお節介はともかくとして、姉とユーゼリカの橋渡しのお陰で私はなんとかクラスにも馴染んでいる。

 昼食にはよく誘われるようになったし、勉強で分からないところは無いかと親切に教えてくれる子も、逆に教えてくれとせがんで来る子も出てきた。

 ところで、この間姉を含む数名で話していたら隣に座っていたクラスメイトに一度自分のこともそうやって呼んでみてくれないかと請われたので快くおねえちゃんと呼んであげたら、なんかその次の日には大半の女子の呼称におねえちゃんをつける羽目になったんけどどういうことなんだろう。

「アドラちゃんがおねえちゃんって呼んでいいのはあたしだけ!」と涙目の姉が学校中に響き渡るような叫びをあげたことでそれは終了したのだが、どういう遊びだったのだろうか。

 ユーゼリカおねえちゃん? 言い切る前に前髪がお亡くなりになったので黙ってることにしました。

 とりあえず、クラスメイトたちに嫌われたり苛められることがなかったのは何よりである。


 私が今過ごしている場所は学校であり、学校という場所は何かを学ぶ場所である。では何を学ぶのかといえば、この場合は上流階級でのマナーなどである。 

 といっても、貴族の子弟というのはもっと年少の頃からそのような事に関しては専門の教育者などを呼んで手取り足取り学ばされている。今更学ぶようなことなどほとんど残ってはいないだろう。

 ではわざわざ高い金を払ってこんな所に通わせてまで何をさせようというのか。

 まず考えつくのは貴族間の横の繋がりを得させること。貴族向けの学校というのは国内でもここにしかないため、自然と国中の貴族の子弟がこの場所に集まることとなる。

 聞くところによればこの学校は国が設立したのではなく、裕福な貴族がわざわざ出資して建造したのだという。いわゆる私立校というものだ。

 そのため、まあダンスとか音楽なんて授業がある時点で特殊だとは分かっていたが、実際には普通の学校で行っているような教育とは多少逸脱したものが行われているらしい。

 つまりここは貴族による貴族のための場であり、国の意向をある程度超越した集まりということだ。貴族たちが自分の知らないところでこっそり手を結ぶなんて、国からしたら厄介以外の何者でもないだろうしな。


 そしてそのおまけとして学校に通うことにより求められるものが、自分で考えることのできる頭だろう。

 貴族ってのはとにかく我が強い生き物であるというのはユーゼリカの談であるが、ここでの生活の中で私の目にもそのような節は確かに見受けられる。

 使用人やらメイドやら、顎で使えるような連中に囲まれて蝶よ花よと育てられてきた連中である。両親が躾に厳しい方々であったとしてもそりゃあいくらかわがままに育つのも仕方なかろう。

 しかし学校に放り込まれればそんな存在はどこにもいない。みんな平等で、みんな一人きりである。そんな環境の中で生きるのであればどうしたって自立しなければいけなくなる。

 最低限の事は自分で出来るようになれという甘ったるい飴で出来た愛の鞭、あるいは頼むから出てくる頃にはもう少しまともになっていてくれという最後の賭けみたいなものと考えれば良いだろうか。


 それら全部ひっくるめて私にとってはどうでもいい話である。

 だって私、貴族でもなければ親御さんの立場でもないし。まあ上流階級のマナーとかは一見無駄なようで実は色々な由来やそうするだけの理由があったりと興味深いから習っていて嫌ではないが。

 ぶっちゃけた話、私や周りの学生たちにとっては今が楽しければそれでいいのだ。二度目の子供時代を送っている私でもそう思ってしまうほどに、この時期というのは身の回りの全てが刺激的に見える。

 特に次の授業なんてまさしくファンタジーな学問で実に面白そうじゃないか。


「魔術なんて、目にすることはあっても実際に習うのは初めてだよ」


「今日のアドラちゃんはいつにも増して楽しそうだねぇ」


「どうせどんな魔術を教えてもらえるのかってワクワクしてるんでしょ、変なところで子供っぽいんだから」


 むしろ勇者に憧れるべきでしょうに、それでも王国民なのあんたというユーゼリカの呆れたような言葉も今の私は右から左である。魔導書までは手に入らなかったものの関連文献についてはこれまでにも多く目を通してきた。詠唱魔術、それをついに教わることが出来るのだ。

 この世界には魔力を用いた技術が三種類存在し、それぞれ神聖魔法・精霊魔法・詠唱魔術と呼ばれている。

 神聖魔法とは神の加護を得た者にのみ扱うことが可能となる魔法であり、治癒や浄化の力に長けている。また加護を与えた神ごとに固有の魔法を操ることが可能となる。

 精霊魔法とは世界に満ちる精霊の力を借りることで顕される魔法であり、場に合わせて強力な属性魔法を行使することが可能となる。

 これら二つは詠唱魔術に対し魔法と呼ばれるが、それは人の力を超える何かの手助けにより再現される、理を超えた法に則った力とされるからだ。

 消費した魔力が何故このような形となって効果を表すのかという理由が全く分かっていないので、世界中で広く認知されていながらある意味で最も謎に包まれた技術であるとも言える。

 それに対して詠唱魔術は、人間がそれらの魔法を真似て自ら作り出した魔力利用の技術であるとされている。

 詠唱や紋章、触媒などの型に魔力を流し込むことで魔術という形を作り上げる。それは完全に体系付けられた論理であり、ただ使うだけならば特殊な技能を要さず万人に行使可能な汎用性を持っている。

 魔術の研究は今でも盛んに行われており、例えば魔術式を組み替えることで魔術灯に魔術炉という別製品に光熱を生む魔術ひとつで対応していたりする。

 だがそんな便利な魔術であるが、製品はともかくとして術式そのものの知識は世間に広まってはいない。というのもまあ考えるまでの事もなく単純な話で、金になるというのと危険性が高いという二つの理由から国が制限しているだけである。


 じゃあなんでここでは国に規制されている魔術を習うことが出来るのかだが、それはもっと簡単な理由からである。国に金払ってるから。

 市民に持たせたら危険な力でもモラルの高い貴族なら上手に扱えますから平気ですよ、それともあんた自国の貴族のこと信用してないんですか? ということで後者の問題については論外である。

 わざわざ学校で魔術を教えることになった経緯についてまでは知らん。過去にそんなわがまま言ったガキがいたか、あるいは創立者が魔術の使い手だったりしたんじゃなかろうか。

 私にとっちゃ学べるという事実だけで十分なのだよ、結局の所ね。今日は投げやりな結論が多い気がするがそれだけ気が浮ついているってことなのだ。それでいいのだ。


 ちなみに、早く授業始まらないかなーとニコニコ上機嫌で机に両手で頬杖をつき、伸ばした足をぱたぱたと上下に動かしていたアドラの姿を目撃した何人かのクラスメイトが咄嗟に鼻を押さえねばならなくなる事態に陥ったそうだが、それは特に本筋と関係ない出来事である。




*****




「えっと、ここはこうかな?」


「いや、文字の並べ方が違うみたい。これだとうまく発動しないんじゃないかな」


 魔術を扱うために必要なものは魔力を帯びた言葉により大気中の魔素に働きかける詠唱と、集めた魔素に特定の役割を持たせるために必要な魔術陣。そして場合によっては全体の補助としての役割を担う触媒が用意される。

 今回は初歩の初歩である魔術ということで円に三角形を書き加え、三行ほどの魔術言語で書かれた文を添えた魔術陣を各々で作成することが課題として出された。

 書き終えたものから順次それを担当教員である老年の魔術師に見せ、及第点に達したならばさらに詠唱を教授して頂き実際に発動させることを目指すという手順で授業は行われた。

 黒板に大きく描かれた見本となる魔術陣を書き写すだけの簡単な作業に見えて、実際は些少な線の歪みも許されないような繊細な工程であった。ささっと書き上げてすばやく提出したクラスメイト達は全員が一目でやり直しを命じられるような有様である。

 単純な図形であっても普段から書きなれていなければ、フリーハンドで綺麗に描くというのはなかなかに難しいことだろう。私はまあ前世の経験が幸いしてこの程度造作も無いとまではいかないものの、そこそこ整った魔術陣を描くことが出来た。おかげでクラス内で最初に合格を貰えたのである。

 残りの詠唱に関しても、用いる言語は魔術を使用する際にしか用いられないような専門用語ではなく日用している大陸共通語であり、込める魔力の量にさえ気をつけていれば難しいものではなかった。

 私も神々の加護を得てからの期間でそれなりに神聖魔法は練習してきている、魔力の扱いにもそれなりに慣れてきてはいるのだ。

 そんなわけで二段階目も軽く突破し、授業時間を大きく残して今日の課題を全て終わらせてしまった私は手間取っていそうな友人の手伝いに回っていた。


「エルゴ、イーハ、アッシュ……うー、書きにくい」


「我慢我慢。ほら、ペン先を付けっぱなしにしてると滲んじゃうよ」


「にゃっ!? みゅう、また書き直しかぁー」


 うみゃー、と私の教える目の前で羽ペン片手に面倒くさそうにだれているのは、交友会の際に友人となったワーキャットのリュカである。

 顔の作りや身体構造は基本的に私たちのような人間と変わらないし、全身がもっさりと体毛に覆われているということもない。外見上でのワーキャットの特徴は頭頂部にある一対の猫耳と細く長い尻尾である。

 彼らは獣人の中でも特に俊敏性に優れた種族であるとされており、持久力に長けるワーウルフ、筋力に優れるミノタウルスたちと並んで街中でもごく普通に見かける一般的な種族である。

 リュカは王国内では珍しい爵位持ちの獣人であるが、それは別に王国に獣人蔑視の風潮があるというわけではない。ただその機会が与えられなかったというだけのことだ。その辺りについては歴史的に色々な事柄があったわけだが、今はどうでもいい話なので割愛しておく。

 私が彼女と知り合ったのは入学してしばらくした頃に行われた例のお茶会が切欠であった。私も獣人を見たことはあったものの向かい合って話す機会は殆ど無かったため好奇心から話しかけてみたのだが、それから意気投合して友人付き合いをさせて貰っている。

 学校内でも珍しく、クラスでは唯一の獣人というだけでも目立つ彼女だが、その在り方はそれ以上に周囲から際立った個性を放っていた。といっても、奇行に走ったり自己顕示欲が激しいというわけではない。むしろ、普通すぎて目立つのである。

 普通ならはしたないといわれるような行為、大きな声を上げて笑ったり、机に腰掛けたり、教科書で扇いだりといったことを彼女は平気で行うのだ。それは貴族というより平民のような姿である。

 クラスにはそれを疎ましげな目で見る人も少なからずいるようだが私はむしろ好感を抱いた。


「アドラは凄いよねー、あんな簡単に合格貰えちゃうんだもん。こんなよく分かんないものよく書けるね」


「まあ僕は勉強しか取り柄がないから、普段から色々と本を読んでるし。魔術に関しても予習してあったからね」


 ちなみに私の一人称に関して入学前までは「私」を使おうと決めていたのだが、ついうっかりと普段から使っていた「僕」を何度かクラスメイト達の前で口にしてしまい、いちいち取り繕うのも面倒になったので堂々と僕を名乗ることにした。

 兄がいるわけでもないのに女の子で僕を使うのは少々不自然に思われるかとも思ったが、周囲は案外あっさりと受け入れたようであった。むしろ私という一人称を使っているほうが違和感があるとまで言われたほどである。

 ところで一人称を僕に変えてからしばらく、会話の最中に視界の外から「僕っ子、だと・・・」とか「病弱僕っ子とか新境地にも程が、いやまてアリか・・・」とかそんな言葉が聞こえてきた気がするが精神衛生上全力で無視させていただきたい。


「でもさ、勉強したからって普通実習は別じゃないの? 魔力操作とか本読んでどうこうって話じゃないでしょ」


「そこはほら、僕は昔から父さんによく魔法掛けて貰ってたからさ。今も姉さんによく魔法掛けてもらってるし、それで魔力を感じるのには慣れてるから」


「あ、そっか。ごめん、気が利かなくて。そうだよね、回復魔法はよく使ってもらってたって言ってたし」


 本当は自分で神聖魔法使えるから初歩の魔力操作など既に身に着けているのだが、私が加護持ちであるという事は秘密にしているため別の理由で誤魔化す。

 七歳で加護持ちという事が異常であるというのは私自身よく分かっているし、この学校に入った原因でもあるため大っぴらにする事はできないのだ。


「まあ姉さんとか他の加護持ちの子はまだ魔術陣を書くのに手間取ってるみたいだし、一番を取れたのは運がよかっただけだと思うよ」


「そっか。んー、でも、やっぱりアタシは魔術とか興味ないや。体動かしてるほうが好きだなー」


「それでも今は魔術の授業中だからね。ほら、集中しないとまた間違えるよ」


「みゃー。分かったよ、センセーっ」


 黒板に貼られたお手本と睨めっこしながら手元の紙に写していくリュカ。狐色のふわふわした毛に包まれた猫耳の先端は力なくへにゃんと垂れている。


「…………」


 必死に陣を描くリュカは席を寄せて隣に座る私に注意を払っていない。その様子を確認して、悪戯心が湧いた私はこっそりと背後から両腕を伸ばす。

 気づかれないようにゆっくりと手を上げた先には、柔らかそうな二つの耳が。それを優しく、されど逃さぬようにしっかりと両手の指で摘むと。


「みゃあっ!?」


 指先にはふにゃんとした繊毛の内に、薄くしなやかな肉の感触。そして耳元で甲高い鳴き声が一つ上がった。

 突然の大声にクラス中の生徒が振り向き、声の主であるリュカを見る。彼女は口元を押さえて顔を真っ赤に染めた。


「そこ、授業中ですよ。相談はいいですが大声を上げないように」


「す、すみませんっ!」


 老年の教師は穏やかな声で嗜め、それからまた彼の前に並んだ生徒たちに視線を戻す。それに合わせて他の生徒たちも関心を無くしたように自分の作業へと戻っていった。

 ユーゼリカはリュカではなくその隣に座る私へと冷たい視線を向けていたが、私がにっこりと笑顔を返すと呆れたようにしてまた列の先に顔を向けた。

 それから背後に何か物凄い圧力を感じたので振り向いたが、姉がどこかすねたような様子で外を眺めている以外に変わった様子は無かった。


「うーん気のせいか」


「何の話よっ! むしろ何よ今のはっ!」


「リュカ痛い、痛いからやめて」


「痛くしてるのっ!」


 ふしゃーと赤面しながら牙を剥き私の頬を抓り上げるリュカは、どうやらご立腹のようだ。いや他人事じゃないんだがね。


「いやほんの冗談のつもりだったんだよ、ごめんねリュカ」


「耳は敏感なんだって前にも言ったでしょ! 急にあんな風に触らないでよっ!」


 まさかあんなに驚くとは思っていなかったのだ。流石に恥をかかせてしまって申し訳ないと思っているのは嘘ではない。誠意のしるしとして、せめて抵抗だけはせずに頬を引っ張られたままリュカを見上げる。

 しかし本気で恥ずかしかったのだろう、リュカの指に込められている力には遠慮が無い。小さな女性とはいえ獣人の膂力による痛撃に反射的に涙が溜まって来る。


「もー! 先に終わって暇だからって、教えてくれるのはいいけどさっ! 邪魔するならどっか行ってっ!」


「あひゃぅ」


 更に摘んだ指を上下に揺さぶられて痛みが大きくなる。咄嗟に手を振り払いたくなる衝動に駆られるが、悪いのは私の方なのでそうするわけにもいかんだろう。

 せめて言葉で許してもらおうと思ったのだが頬を弄られている為上手く喋れず、結局変な言葉になってしまう。おまけに涙が瞼の貯蓄限界量を突破して目尻から零れ始めてしまった。


「冗談にしたって、今のはひど……あっ」


「?」


 こちらを見下ろすリュカと目が合い、ぴたりとその手が止まった。指先からも力が抜けて僅かに痛みが和らぐ。

 興奮して聞く耳持たない、という様子だったのが一転して戸惑うような表情に変わったのが気になるが、とりあえず今ならこちらの言葉も聞いてくれるだろう。


「ご、ごめんなひゃい……ぼくがわるかったです。ゆるしてください」


 ぼろぼろと泣きながら、舌っ足らずな口調での謝罪。滲んだ視界の中でリュカが苦々しい表情になるのが分かった。

 指が離れ、代わりに手のひらがそっと頬を撫でた。私はなんだかみっともない気分になりながら、ぐじぐじと零れた涙を拭った。


「……ごめん、やりすぎた」


「謝らないでよ。悪いのは僕なんだから」


「な、泣かせようだなんて思ってなかったの。咄嗟にやったから、力加減出来なくて」


「いいんだって。なんともないから」


 リュカが撫でるたびに頬の痛みは薄れ、痺れるような熱となって拡散していく。彼女はなんだか悪いことをしたような顔をして私のことを見ていた。

 悪戯をしたのは私の方だし当然の仕置きだと思ってくれて構わないのだが、私が泣いてしまったせいで余計な罪悪感を与えてしまったようだ。


「それより本当にごめん、リュカ。もうあんなことは二度としないから、どうか許してほしい」


「許すもなにも、アタシも酷いことしたから。こっちこそごめんね」


「でもやっぱり、最初に悪いことをしたのは僕の方だから」


「いいよ。それより痛かったでしょ、大丈夫……じゃあないよね……」


「ああもう、落ち込まないでよ。こんなの放っとけば治るから」


「……アタシのこと、嫌いにならない?」


「ならないよ。友達だろ、僕ら?」


「うん」


「それなら仲直りしよう。そうしたら一緒にまた魔術陣書いて、先生に見せに行こうよ」


「うん」


「じゃあ、仲直りの握むぎゅん」


 仲直りの握手を、と言おうとした所でぐいっと体を引き寄せられ、気づけば頭が柔らかい何かに包まれていた。

 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ! 『私はリュカと握手をしようと思ったらいつのまにか抱きしめられていた』

 何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった……仲直りだとかジークブリーカーだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……


「ん……これで仲直り、ね」


 姉さんと違いまだ発展途上の胸部は顔を埋めても見上げる隙間はあり、そこから覗くリュカは何か安堵したような表情をしていた。

 しかし、考えて欲しい。ここは授業中の教室であり、席は丁度真ん中辺りにある。そこで生徒が急に抱き合ったりなどしたら周囲はどのような反応をするだろうか。


「えっちょっと何この急な百合展開」

「む、胸元に顔が……! テラウラヤマシス」

「抱き合う美少女ハァハァ」

「先生が見て見ぬ振りしてるんだけど」

「お前立場変わるならあの二人のどっちがいい? 俺リュカと変わるわ」

「ロリコン乙」

「お前らもうちょっと小さい声で騒げよ」

「リュカは聞こえてないから大丈夫よ、たぶん」

「あたしのアドルちゃんがえっちな子に!」

「二人ってそういう関係なのか?」

「仲がいいとは思ってたけど……」

「俺狙ってたのになぁ」

「ちょっとまてそれどっちの事だ? 場合によっては処刑も辞さない」


 答えはガン見、いわゆる羞恥プレイですね分かります。どうしてこうなった。


 ……どうしてこうなった!

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