第5話『先輩、猫が原因ってアリなんですか?』
その日の出動は、朝の静かな住宅街だった。
パトカーを降りると、道路の真ん中で車が止まり、
運転手が頭を抱えている。
相馬は状況を見て、首をかしげた。
相馬「先輩……車は無傷、運転手は無傷、相手もいない……
これ、事故なんですか?」
先輩「事故だ」
相馬「どこに事故要素が!?」
先輩「猫だ」
相馬「猫!?」
運転手が泣きそうな顔で説明する。
運転手「ね、猫が急に飛び出してきて……!
避けようとしたら、縁石に乗り上げちゃって……!」
相馬「猫のせいで人生変わるとか……そんなこと……」
先輩「ある」
相馬「あるんですか!?」
先輩「動物飛び出し事故は珍しくない。
猫、犬、タヌキ、イタチ、カラス、時々ハト」
相馬「ハトもですか!?」
先輩「ハトはギリギリで飛ぶから危ない」
相馬「なんでそんなギリギリなんですか!?」
先輩「知らん。ハトに聞け」
相馬「聞けるわけないでしょう!!」
先輩は淡々と現場を確認しながら言う。
先輩「相馬。
人生はいつも“ちょっとしたこと”で変わるんだ」
相馬「猫で変わるのは嫌です!」
先輩「嫌でも変わる。
事故は“ほんの数秒の判断”で起きる」
相馬は縁石に乗り上げた車を見つめた。
相馬「……先輩。
この人、悪くないですよね?」
先輩「悪くない。
だが“責任”は生まれる」
相馬「……重い」
先輩「現場はいつも重い」
相馬はため息をついた。
相馬「俺、白バイに乗りたいんですけど……
猫に人生振り回される未来は想像してませんでした……」
先輩「白バイはもっと振り回されるぞ」
相馬「もっと!?」
先輩「白バイはスピードが出る。
猫が飛び出したら、避けるか、止まるか、判断が一瞬だ」
相馬「……先輩。
白バイって、思ってたより命がけじゃないですか?」
先輩「命がけだ」
相馬「軽く言わないでください!!」
そのとき、近所の子どもが走ってきた。
子ども「おまわりさん!さっきの猫、あっちに逃げたよ!」
相馬「無事だったんですね!よかった!」
先輩「よかったな」
相馬「はい!
……でも、なんか複雑です。
猫は無傷で、この人だけ縁石に乗り上げて……」
先輩「事故は“誰が悪い”じゃなくて、
“どうすれば次を防げるか”が大事だ」
相馬はハッとした。
相馬「……先輩。
俺、今日またひとつ学びました」
先輩「なんだ」
相馬「猫は強い」
先輩「そこじゃない」
相馬「違うんですか!?」
先輩「違う」
相馬は照れくさそうに笑った。
相馬「……でも、なんか少しだけ、
“現場を見る目”が育ってきた気がします」
先輩「気のせいだ」
相馬「否定早い!!」
だが相馬の胸には、確かに何かが積み重なっていた。
白バイへの憧れは消えない。
だが、今日またひとつ――
**“事故はいつも、ちょっとしたことで起きる”**
という現実が刻まれた。
こうして相馬の5日目は、
猫と縁石と哲学に振り回されながらも、
確かな成長の一歩となった。




