第4話『先輩、当事者が全員ウソついてます!』
朝イチから、交通課の相談室は騒がしかった。
事故の当事者二人が向かい合い、
その間に相馬と先輩が座っている。
相馬は汗だく。
先輩は無表情。
相馬「先輩……あの……
当事者が……全員……ウソついてます……!」
先輩「だろうな」
相馬「なんでそんな落ち着いてるんですか!?
ウソですよ!?全員ですよ!?
真実ゼロですよ!?」
先輩「事故の当事者は、基本的に全員ウソをつく」
相馬「基本なんですか!?」
先輩「人は自分を守るためにウソをつく。
それは悪意じゃない。生存本能だ」
相馬「名言出た!!」
先輩「名言じゃない。現場の常識だ」
当事者Aが叫ぶ。
当事者A「私は青信号でした!!絶対に青でした!!」
当事者Bも叫ぶ。
当事者B「いやいやいや!こっちが青でしたって!!」
相馬「先輩!
青が二つある交差点なんて存在しませんよね!?」
先輩「存在しないな」
相馬「ですよね!!」
先輩「だが、二人とも“自分は悪くない”と思ってる。
だから青になる」
相馬「心理の話ですか!?」
先輩「現場は心理戦だ」
相馬は頭を抱えた。
相馬「じゃあ、どうやって真実を見つけるんですか……?」
先輩「ウソの中に“共通点”がある。
そこが真実に近い」
相馬「探偵みたいなこと言い出した!!」
先輩「探偵より地味だぞ」
相馬「そこは否定しないんですね!!」
先輩は書類をめくりながら、淡々と質問を続ける。
先輩「お二人とも、ブレーキ音は聞こえましたか?」
当事者A「聞こえました!」
当事者B「聞こえました!」
先輩「ほら、共通点だ」
相馬「そこですか!?」
先輩「ブレーキ音があったということは、
どちらかが“気づいていた”ということだ」
相馬「……深い」
先輩「深くない。事実だ」
当事者Aが泣き出す。
当事者A「私、本当に悪気はなかったんです……!」
当事者Bも泣き出す。
当事者B「私だって……怖かったんです……!」
相馬は動揺する。
相馬「先輩!
加害者も被害者も泣いてます!!
どうしたらいいんですか!!」
先輩「事故は“誰も幸せにならない”んだ。
だからこそ、俺たちが冷静でいなきゃいけない」
相馬は息を呑んだ。
相馬「……先輩、なんか今日の先輩、いつもより哲学多くないですか?」
先輩「寝不足だと哲学が増える」
相馬「寝不足の副作用なんですか!?」
先輩「そうだ」
そのとき、当事者Aが震える声で言った。
当事者A「……私、もしかしたら黄色だったかもしれません」
当事者Bもつぶやく。
当事者B「……私も、完全に青だったかは……」
相馬「先輩!
ウソが剥がれてきました!!」
先輩「ウソは“責める”ものじゃない。
“ほどく”ものだ」
相馬「名言出た!!」
先輩「名言じゃない。事実だ」
相馬は深くうなずいた。
相馬「……先輩。
俺、白バイに乗りたいけど……
こういう“人の気持ち”を扱う仕事も、悪くないですね」
先輩「白バイに乗りたいなら、なおさらだ。
白バイは“人の人生の分岐点”に一番早く着く」
相馬「……重い」
先輩「現場はいつも重い。
だから、お前みたいな奴が必要なんだよ」
相馬は目を見開いた。
相馬「……先輩、それ……褒めてます?」
先輩「寝不足だからな」
相馬「副作用で褒めないでください!!」
だが相馬の胸には、確かに何かが灯っていた。
白バイへの憧れは消えない。
だが、今日またひとつ――
**“人はウソをつく。でも、その奥に本音がある”**
という現実が刻まれた。
こうして相馬の4日目は、
ウソと涙と哲学にまみれながらも、
確かな成長の一歩となった。




