第3話『先輩、ドラレコって万能じゃないんですか?』
事故現場の片付けが終わり、署に戻ったのは昼前だった。
相馬は椅子に座るなり、机に突っ伏した。
相馬「先輩……俺、今日だけで人生の三倍くらい疲れました……」
先輩「三倍で済んでよかったな。新人の初日は十倍疲れるやつもいる」
相馬「その人、今どうしてるんですか?」
先輩「辞めた」
相馬「重い話やめてください!!」
先輩はコーヒーをすすりながら、淡々と書類を整理している。
そのとき、当事者から提出されたドラレコ映像が届いた。
先輩「よし、相馬。ドラレコ確認するぞ」
相馬「来ましたね、真実の瞬間!
これで全部わかるんですよね!」
先輩「……お前、ドラレコを神か何かだと思ってないか?」
相馬「え、違うんですか?」
先輩「違う」
相馬「えっ」
先輩は映像を再生しながら言った。
先輩「ドラレコは“事実”は映す。
だが、“真実”は映さない」
相馬「名言出た!!」
先輩「名言じゃない。現場の常識だ」
映像には、交差点に進入する車、急に飛び出す自転車、ブレーキ音――
だが、肝心の“ぶつかった瞬間”が映っていない。
相馬「先輩!肝心なところが切れてます!」
先輩「だろうな」
相馬「なんでそんな落ち着いてるんですか!?」
先輩「ドラレコは前しか映さない。
横から来たものは映らない。
当たり前だろ」
相馬「当たり前ですけど!当たり前ですけど!!
なんか納得できないです!!」
先輩「納得しなくていい。現実を知れ」
相馬は頭を抱えた。
相馬「じゃあ、どうやって判断するんですか……?」
先輩「人の話を聞く。現場を見る。痕跡を読む。
ドラレコは“補助”だ。
お前みたいにドラレコ信者が一番危ない」
相馬「信者じゃないです!ただのファンです!」
先輩「変わらん」
そのとき、別の当事者が提出したドラレコ映像も届いた。
相馬「よし!今度こそ決定的瞬間が!」
再生すると――
相馬「……先輩、これ、空しか映ってません」
先輩「ドラレコの角度が悪いな」
相馬「なんで空撮してるんですか!?ドローンですか!?」
先輩「ドラレコの取り付け位置が悪いとこうなる」
相馬「そんなのアリですか!!」
先輩「アリだ。現場は“アリ”だらけだ」
相馬は机に突っ伏した。
相馬「先輩……俺、白バイ乗る前に心が折れそうです……」
先輩「折れてもいい。
ただし、折れたままにするな。
事故処理は“折れた心を立て直す仕事”だ」
相馬は顔を上げた。
相馬「……深いです」
先輩「深くない。事実だ」
そのとき、無線が鳴る。
『交通課、至急。ドラレコ映像と証言が食い違う件で当事者が署に来庁』
相馬「え、またですか!?」
先輩「行くぞ。
ドラレコより厄介なのは“人間”だ」
相馬は立ち上がり、深呼吸した。
相馬「……よし。
俺、ドラレコに頼らず、ちゃんと人を見ます」
先輩「その意気だ。
白バイに乗りたいなら、まず“人間”を理解しろ」
相馬は小さくうなずいた。
白バイへの憧れはまだ強い。
だが、今日またひとつ――
**“現場は機械じゃなく、人間でできている”**
という現実が胸に刻まれた。
こうして相馬の3日目は、
ドラレコと現実のギャップに振り回されながらも、
確かな成長の一歩となった。




