第2話『先輩、なんでこんなに人が集まってるんです?』
事故現場は、朝の通勤ラッシュでごった返していた。
車は交差点の真ん中で斜めに止まり、
当事者はお互いに何かを叫び合い、
その周りには――
野次馬、野次馬、野次馬。
相馬は思わず叫んだ。
相馬「先輩、なんでこんなに人が集まってるんです?」
先輩「人は“非日常”に吸い寄せられるんだよ」
相馬「吸い寄せられすぎじゃないですか!?」
先輩は淡々と三角コーンを並べながら言う。
先輩「お前も子どもの頃、消防車が来たら見に行っただろ」
相馬「……行きました」
先輩「人間はそういう生き物だ。
だが、俺たちは“見に行く側”じゃなくて“片付ける側”だ」
相馬「名言っぽいけど、やっぱり納得したくないです!」
先輩「納得しなくていい。手を動かせ」
相馬は慌てて現場整理に走る。
しかし――
相馬「すみません、通行止めです! あっ、そっちは危ないです!
え、写真撮らないでください! SNSに上げないでくださいってば!」
野次馬A「ちょっとだけ!ちょっとだけ!」
野次馬B「動画のほうがいいかな?」
野次馬C「ライブ配信していい?」
相馬「ダメですって言ってるじゃないですか!!」
先輩は遠くから見て、ため息をついた。
先輩「……あいつ、声だけはデカいな」
相馬は必死に人を押し返しながら、先輩のもとへ戻ってきた。
相馬「先輩、俺、白バイ乗る前に人混みで死にそうです!」
先輩「白バイはもっと大変だぞ。
事故現場に一番に着くのは白バイだ。
つまり“野次馬ゼロの状態で全部やる”」
相馬「……それ、逆に怖くないですか?」
先輩「だから言ったろ。
白バイは“選ばれし者”だって」
相馬はコーンを握りしめながら、遠くの白バイの姿を見つめた。
相馬「……俺、いつかあれに乗れるんですよね?」
先輩「努力すればな」
相馬「努力って、どれくらいですか?」
先輩「まずは野次馬をさばけるようになれ」
相馬「白バイ関係ないじゃないですか!」
先輩「全部つながってる。
現場は“人”でできてるんだ。
人を動かせない奴は、バイクも動かせない」
相馬はハッとした。
相馬「……深い」
先輩「深くない。事実だ」
そのとき、当事者の一人が泣きながら近づいてきた。
当事者「すみません…私、どうしたら…」
相馬は一瞬たじろぐが、先輩が小声で言う。
先輩「行け。
事故は“物”じゃなくて“人”を見る仕事だ」
相馬は大きく息を吸い、当事者の前に立った。
相馬「大丈夫です。順番に確認していきましょう」
声は震えていたが、目は真剣だった。
先輩はその様子を見て、ほんの少しだけ口元を緩めた。
先輩「……まあ、悪くないな」
野次馬のざわめきの中、
相馬は初めて“警察官としての役割”を自覚した。
白バイへの憧れはまだ強い。
だが――
“目の前の人を守る”という現実が、またひとつ胸に刻まれた。
こうして、相馬の2日目は、
汗と怒号と野次馬にまみれながらも、確かな一歩となった。




