第10話『先輩、俺…続けてみます』
雨の翌朝。
空はどんよりしているのに、署内は妙に明るかった。
相馬はデスクに座り、三角コーンを磨いていた。
先輩「……お前、なんで朝からコーン磨いてるんだ」
相馬「気持ちを整える儀式です!」
先輩「宗教か?」
相馬「違います!!」
先輩は淡々とコーヒーを飲みながら言う。
先輩「昨日はよく頑張ったな」
相馬「……先輩。
俺、昨日……本当に逃げようかと思いました」
先輩「だろうな」
相馬「即答!!」
相馬は深呼吸して、ゆっくりと言葉を続けた。
相馬「でも……逃げたくないです。
怖いし、向いてない気もするけど……
それでも、続けたいです」
先輩は相馬をじっと見た。
先輩「理由は?」
相馬「……昨日、先輩が言ったじゃないですか。
“必要とされるかどうか”って」
先輩「言ったな」
相馬「俺……必要とされたいです。
白バイに乗る夢もあるけど……
それよりも、
“目の前の人を支えられる警察官”になりたいです」
先輩は少しだけ目を細めた。
先輩「……相馬」
相馬「はい」
先輩「お前、昨日より強くなったな」
相馬「えっ、ほんとですか!?」
先輩「寝不足じゃないから本気だ」
相馬「今日の先輩、素直すぎません!?」
そのとき、無線が鳴る。
『交通課、至急。交差点で軽微な事故発生』
先輩は立ち上がり、反射ベストを相馬に投げた。
先輩「行くぞ。
今日も“誰かの人生の分岐点”に立ち会いに行く」
相馬はベストを受け取り、胸を張った。
相馬「はい!!」
パトカーに乗り込むと、相馬は窓の外を見つめながら言った。
相馬「先輩。
俺、いつか白バイに乗ります。
でもその前に……
この仕事をちゃんと覚えます」
先輩「それが一番の近道だ」
相馬「近道なんですか?」
先輩「地味な仕事を積み重ねた奴が、最後に“華”を掴む」
相馬は息を呑んだ。
相馬「……深い」
先輩「深くない。事実だ」
パトカーが交差点に近づく。
人のざわめき。
車のクラクション。
いつもの“現場の匂い”。
相馬は三角コーンを握りしめた。
相馬「先輩。
俺……今日も走ります」
先輩「走れ。
白バイに乗る前に、まずは地面を知れ」
相馬「はい!!」
相馬はパトカーから飛び出し、
泥だらけの道路へ、
人の声の中へ、
“現実の警察官”としての一歩を踏み出した。
先輩は小さくつぶやいた。
先輩「……よし。
今日も悪くないな」
白バイへの憧れは消えない。
だが、今日――
**相馬は初めて“この仕事を続けたい”と思えた。**
こうして相馬の10日目は、
決意と覚悟に満ちた、
確かな成長の一歩となった。




