前途多難
「ストップ!ストーーープ!!!!彼僕の同期だから!怪しい者じゃないから!」
涙目で飛び出てきたガゼルは守衛たちに必死に説明し始めた。
守衛たちは俺に疑いの目を向けつつガゼル様がそういうなら……と渋々出しかけの武器や魔法をしまって帰っていった。
ガゼルはほっと胸を撫で下ろす、が、すぐに俺の方に向き直って言った。
「ねぇぇぇもっと普通に入ってきてよぉぉぉ」
情けなく喚くガゼルに正直罪悪感は一切感じない。
ただただ『めんどくさ』の文字が頭の中を踊る。
「普通とか知らねーしどーでもいい」
「どうでもよくないって……」
「うるさい。それよりさっさと舞手見せろ。何のために来たと思ってんだ」
「……え?」
途端にガゼルが背筋を伸ばしてこちらを見つめてきた。
急な空気の変わりように内心驚く。
「剣舞の件、協力してくれるってこと?」
こいつがこんな真面目な顔するなんて珍しいな……。
曖昧に頷いてやると、途端にガゼルの表情がパッと明るくなった。
「やった!!ありがとう!」
ポンッ。
肩に乗せられた手に心臓がヒュンと縮んだ。
「触んな殺すぞ」
「アッ、ゴメンナサイ」
すぐ手を離したガゼルにキッと睨みをきかせるとガゼルはしゅんとうなだれた。
……なんかあるわけもない犬の耳が見えるような。
「言っとくけど、俺は舞わねぇからな?エアフェスタで剣舞がなくなるのは個人的に嫌なだけだから」
嫌っていうか困る。
「いやいや、協力してくれるだけでもありがたいよ。てっきりもうこの件には関わってくれないかと……。電話急に切られたし」
「それはお前が悍ましい提案してきたのが悪い」
「えぇ、悍ましいって……舞うのそんなに嫌?」
「それもだが俺は予言の子の……」
「?」
……………………。
「……いや、やっぱりもういいこの話。さっさと舞手見せろって」
「OK任せて!今ちょうどみんな稽古の時間中だから覗いてみよお!」
すぐ元気を取り戻して拳を突き上げるガゼルにやれやれと肩を落としてついていく。
「おぉ」
「ちなみに俺の父さん、ちょっと曲者だから気をつけてね」
「……おぉ?」
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場面は変わって月と太陽の本拠地、聖塔。
ここではこの2人が仕切る夜月隊や朝日隊、幹部、若干名のメディア関係者などが主に活動している。
そしてその塔の最上階、月の部屋で事は起こった。
「……まずいまずいまずい」
彼の手の中にあるのは例の魔剣、“断縁刀“……のレプリカ。
本物を盗んだ後、バレないように代わりに置いておくつもりだった物。
しかしその刃先には大きなヒビが入ってた。
「これが嫌だから丁寧に扱ってたのに、いつの間に……。こんなのですり替えたら一発でバレるぞ」
これを作るのにどれだけの材料と時間と労力をかけてきたか。
思い返すと頭が痛くなってきた。
「作り方は頭に入ってるけど材料がなぁ……。時間ももうそんなにないし……」
また徹夜かぁ。
レイ、悪いけど舞手探すのはちょっと先になりそうだわ。
怒んだろぉなぁ、あいつ。
プルルルルルルルルルルル
魔石が鳴る。
一瞬握り潰したい欲望に駆られたが、流石にダメだろと思いとどまった。
行き場のないイライラは近くの壁をドカッと殴ってなんとか発散させる。
「誰だ」
『私です。側近のエリックです。月様、今どちらにいらっしゃいます?予言の子様から直々に頼み事があるそうで』
予言の子が?直々に?
嫌な予感に冷や汗が出た。
「……わかった。すぐ行く」




