本物
ギイ、バタン。
控え室は思ったより暗く、広かった。
ここで練習しろってことか。
部屋全体を見回す。
目に止まったのは大きな鏡が乗った台の上に置かれている大きな黒い箱。
「…………。」
スッと近づいて開けてみると、鈴や羽など派手に飾り付けられていた細身の剣が出てきた。
思ったより剣自体は普通だ。
普段俺が使ってる剣もこれくらい細身で軽い。
……困ったな。今すぐにでも予言の子を殺しに行けそうだ。
「スゥー、ハァーー……」
深く息を吸って、ゆっくり吐いて……。
(落ち着け、落ち着け)
………………。
シャラン。
剣を構える。
剣舞の最初の構え。
シャラン、シャラン。
軽くウォーミングアップのつもりで振り付けを一通りやると、ずっと前からこの動きが染みついた体は流れるように次の動作へ入っていった。
頭の中は無。
何も考えず、何も見ず、ただ舞うだけ。
本番もこれでいい。
たとえ目の前に予言の子がいたとしても、これで……。
『今日から本物は僕だ。だから、お前はもう必要ないよ』
「……っ!」
ガシャン!!
足が絡まってグラッと重心が揺れた。
地面に倒れ打ち付けられた魔剣が激しい音を立てる。
クソっ……!
やっぱり無理だ。
嫌でもあいつの顔が頭から離れない……!
今魔剣は俺の手の中にある。ユーゴも予言の子の側にいるんだろう。
刺し殺してやれる条件はもう揃ってるっていうのに。
顔をあげ、ゆっくりと鏡の置かれた机を支えにヨロヨロと立ち上がった。
目の前に映るのは赤髪で、紫色の瞳の青年。
太陽としてのベールを取り払った紛れもない自分自身。
しかし、これすらも偽りの姿だ。
ぐいっと顔を鏡の前へ近づけて、血に染まったかのような真っ赤な髪を見つめる。
途端に胸に押し寄せてきたのはドス黒い不快感。
思わず拳を振り上げた。
バキッ。
鏡の破片が飛び散る。
しかし、鏡が割れたとしても映る自分の姿は相変わらず醜い赤髪のまま。
「……誰だよ、これ」
ポケットを探って透明の液体が入っている小瓶を取り出した。
パシャッ。
それを髪にかける。
魔族の魔法を無効化するための聖水だ。
サラ、サラサラサラ――――
聖水をかけた部分から色が抜け落ちる。
代わりに現れたのは
キラキラと輝く、予言の子と同じ鮮やかな金色。
それを見つめる瞳は変わらず、アメジストのような紫色。
「どっちが本物か証明してやる」
……もう、殺ってしまおう。あの偽物を。
剣舞中、あいつが本物だと洗脳された奴らが大勢見てる前で。
そしたら、そしたら……
「きっと楽になる……」
……………………。
プルルルルル。
ポケットの緑の魔石が鳴った。
頭によぎったのはユーゴの顔だ。
……そうだ。
もし俺がここであいつを殺れば、俺は間違いなく殺される。
そしたらユーゴも、俺を追って死ぬんだ。
そういう約束だから。
「……なんだ、ユーゴ」
『まだ剣舞まで時間はあるか?一度会って話をしたい。今どこにいる?』




